第28話 ブリーフィング

「皆揃っているわね?今から作戦の概要を説明します。まず敵MEは現在千体を超える戦力を有しています」


 千を超えるという言葉に会議室内に小さなざわめきが起きる。

 会議室には20人という人数の人が集まっていた。

 その中の夕紙さんと姉さん以外は全てBH。


「本作戦の最終目標は、この千を超えるMEの殲滅そしてMEの繁殖を支えるクィーンの排除、そして本作戦の最終目標である高位ミュータントエネミー、固有名称『ギュスター』の排除。この三つが目標となる。そして高位ミュータントエネミー『ギュスター』は高度な知能及び戦闘能力を有すると考えられる。サポートジョブの者はもしギュスターに遭遇したら即刻逃亡するように」

「ちょっと!長官!」

「静かに、今回意見は聞かないわ。勇気と無謀を謀り間違えないで……今から言うA~D迄の班に別れそれぞれのリーダーの元ミッションを熟すように。次に現場の説明に移ります。これは調査用ドローンの映像よ。まずここから―――――」


 姉さんの説明は続いていく。

 ちなみに班分けはこうなっている。


 A班

 S.Z.A2課の僕と由奈と瑛十。

 其処に今朝合流した西尾和也と樋口守。

 西尾さんと樋口さんは数少ない第一世代の生き残り。

 ジョブは二人とも聖騎士。

 長時間の戦闘も苦も無く熟す正真正銘のベテランBH。

 歴は同じだが二人とも僕より年上だ。

 A班のリーダーは西尾さんだ。

 本作戦の要であり最大戦力。

 作戦目標は高位ミュータントエネミー『ギュスター』の排除。


 B班

 白鳳凰教会の面々。

 本間佑、白間雪、山神誠也、森隆雄の4名。

 彼らは全員第二世代だが長期に渡りパーティーを組み続けている結果、何処にも真似できない連携プレイが強みだ。

 その実力は僕ら第一世代と遜色無い。

 作戦目標はMEの殲滅、及びMEの繁殖を支えるクィーンの排除。


 C班

 S.Z.A3課。

 第二世代の聖女、飯田結香が率いるサポート部隊。

 飯田結香、畠中未来、本田紬、田中正信の4名。

 このC班に関しては戦力外だ。

 戦闘能力はほぼ皆無。

 ただ3課にしか使えない支援魔法と回復魔法がある為本作戦に参加して貰っている。

 後方からA班とB班に付いていき支援魔法を常時展開する事が目標となる。


 どうでも良いけど、ハーレムとは田中うらやまし過ぎるだろ。

 ちなみにS.Z.Aでは2課と3課は仲が良くなることが多い。

 2課は男性が多く3課は女性が多い。

 しかも3課の女性は仕事柄回復や治療行為が多くなり、それを受けた2課の男共は甲斐甲斐しく看病されていると感じてしまう事が多い。

 そういう所からロマンスが生まれるらしい。

 ちなみに僕が治療行為を受けた事は、残念ながらほぼ無い。


 D班

 S.Z.A4課。

 第三世代の勇者、大河内廉也、山之内大、清水源樹、山之内瞬、東海林香織の5名。

 全員が10代で16歳から19歳までのフレッシュな集団。

 以上。

 実はあまり関わりが無くよく知らないんだ。

 ただあまり良い噂は聞かない。

 作戦目標はMEの殲滅とC班の護衛。


 第3世代が徴収されたのは去年の秋口だったはず。

 いくつかのミッションは熟しているだろうが、彼らにとってこれが初めての大規模作戦になるはずだ。

 護衛とMEの殲滅が本当の作戦内容になる。

 まずは慣れることが必要だと思う。



「皆わかった?それじゃ準備してエクスカリバー玄関前に待機。作戦開始時間は9:00キューマルマルよ。それでは武運を祈る。解散!」


 姉さんの立てた作戦は簡単に言うとこうだ。

 取り敢えず皆揃って山を登る。

 そして、僕らA班が正面、B班が側面から、D班は後詰めとC班の護衛。

 C班は状況を見て回復などのサポート。

 誰でも立てれそうなシンプルな作戦だ。

 こんな大げさなブリーフィング必要だったのだろうか?


「よう。宗一。久しぶりだな」


 作戦内容の復習をしている僕に、そうやって声を掛けてきてくれたのは西尾さんと樋口さんだ。


「おはようございます。久しぶりですね」

「ああ、ソウ。お前それ久しぶりに見たな。今日はトライエクスか?」


 最終決戦装備トライエクス

 僕の装備、ティルフィングとスヴェリン、そして僕。

 この三つが揃ったときの

 それぞれが起動する事に良って僕に掛かっている封印リミットを完全に外す事が出来る。


「ええ、樋口さん。今日は全力ですよ」

「そうですね」


 西尾さんが参ったと言った風に額に手当て大げさに天を仰ぐ。


「かぁ~、間違ったかなぁ~守?」

「そりゃ行ってみないと分からんないよ和さん。ソウ、まぁ、なんだ。露払ぐらいは任せとけ」


 ばんばんと僕の肩を樋口さんは叩き「ちょっと煙草吸ってくるわ」と西尾さんと外に出て行った。


「先輩!今日はお願いします」


 聖騎士ペアの二人が去ったのも束の間、そう言って頭を下げて僕の所に来てくれるのは第二世代の勇者、本間佑だ。

 そしてその後ろにはつまらなさそうにしている雪とにやにやしている誠也と隆雄。

 彼ら白鳳凰教会の面々は装備が何というかファンタジックで皆本当にゲームに出て来そうな装備をしている。

 このままコスプレ会場に行ってもたぶん喜んで迎えてくれるはずだ。

 白間財閥が金に糸目を付けずに創った装備で、性能は折り紙付らしいんだけどね。


「ああ、頼むよ。無理しないようにね」


 佑と握手を交す。

 その時丁度、僕は部屋の奥に居る彼と眼が合った。

 彼、大河内廉也。

 第3世代の勇者。

 剣呑な雰囲気を纏った彼は、僕から見ると少し緊張しているようにも見えた。

 また後でと佑に耳打つと僕は廉也の所へと向かう。


「やぁ」

「……ふん」

「来てくれてありがとう。助かるよ」

「仕事だからな。命令されたら何処でも行くよ」

「ああ、まぁそうだね。そりゃ正論だ。今日の作戦は正直かなり厳しい。だから―――」


 無理をしないようにと僕は言おうとしたんだ。


「―――俺が狩ってやる。アンタがそんなへぼい事言うんだったら俺が全部狩り尽くしてやる」


 大河内廉也。

 若さ故の危うさかと思っていたけど、彼の眼には炎が灯っているように見えた。

 復讐という名の炎が。

 きっと色々見てきたんだろうな。


「ははは。その意気だ。頼んだよ」

「ふん」


 僕はそのまま支部を後にし、外へと出る事にした。

 エントランスを出ると昨日と変わりなく太陽は僕を容赦なく照りつけてくる。

 朝だと言うのに体感気温は30度を超えている様に思える。

 長袖長ズボンのベージュの作業服に身を包んでいる僕としてはこの気温は非常に辛い。

 既に戦いは始まっていると言っても過言ではない。

 ケブラーアラミド繊維を編み込まれたこの作業服は耐刃、耐熱仕様となっており非常に優秀な防具にもなる。

 ちなみにケブラー繊維の弱点である防水性能をカバーする為にゴアテックスとケブラー繊維を編み込んでおりその通気性は最悪の一言に尽きる。

 その上に肩当ての付いたケブラーベストを着込み飛行艇団が被りそうなヘルメットを装着する。

 足下は編み上げのブーツ。

 これもS.Z.A謹製の支給品でつま先には安全靴宜しく鉄板が入っている。

 勿論踵には投げナイフが仕込まれている。

 この辺はある意味ロマンだな。

 一体誰が設計したのか一度問いただしたいところだ。

 手には指ぬき加工の為れたグローブを装着し、腰にティルフィング、背中にスヴェリンを背負えば僕の装備は完璧だ。

 ヘルメットとグローブはウェラブル機能があり、ヘルメットには通信機能、ナビゲーション機能、鑑定機能、給水機能、計算機、時計などが組み込まれ、グローブ部分には生態反応を管理するべく体温や脈拍を常に計測しそれをヘルメットに送ると同時にS.Z.Aの本部にも送られる様な仕様になっている。

 そして何時ものリュックは今日は背負わない。

 何故って、荷物持ちと言っては失礼だけどアイテムマスターの由奈が居てくれる。

 その固有能力のイベントリに預けておけば殆ど事足りる。

 

 軽くストレッチを行い、皆を待つ。

 しかし今日の気温でこの装備だと熱中症患者が出るかも知れないな。

 熱中症でBH緊急搬送。

 そんなかっこわるいのは流石に嫌だな。

 くだらない事を考えている間に続々と皆が集まってくる。

 時刻は8:42分。

 もうそろそろ作戦開始時刻だ。

 由奈と瑛十もやって来て僕の所まで来る。

 その姿をみると多少の違いはあれど僕と同じ仕様だ。

 手の平を団扇代わり使う由奈をみて、案外熱中症で作戦失敗はあり得る気がしてきた。

 




 

 



 

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