概要
同居人で小説家志望のさかえは付き合う相手といつもうまくいかない。
彼らがルームシェアを初めて一年が過ぎようとしている。
二人が一緒に暮らすのは残り一年。
季節が巡り、もう一度春がやってくるとき、彼らはなにかを掴むことができるのか。
例えば、夢とか、誰かの手とか、そういった、自分ではどうにもならないものを。
あのときキスしておけばよかった。あのときキスしなければよかった。どの唇も、乾ききっている。
✳︎カクヨム×魔法のiらんどコンテストに参加、最終選考作品に選んでいただきました。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!読み終えるのが寂しくなる小説
わたしはキタハラさんの作品には「心に穴が空いたような喪失感、欠落感」があると思っているのですが、今作も類に漏れず、いい意味で読者が置き去りにされていきました。
物語は続いているのに、わたしたちは手を伸ばすばかりで列車の手すりにさえつかまることができない。
そういう状況で物語がどんどんどんどん進行していく。わたしたちを引っ張って。
そこに早坂長太郎が現れる。彼は場を乱すけれど、物事を簡単にしていく。早坂長太郎に会った人達は彼に、彼のカリスマ性に大いに影響を受けて物語の続きを歩く。
結局みんな、どこに行きたいのか?
何者になりたいのか?
それは全員、叶ったのだろうか?
興味が尽きることは無い。
…続きを読む - ★★★ Excellent!!!埋まることのないさみしさ
なんでもない、淡々としたルームシェアの話なのかなと思ったけど、そこはキタハラさんの作品でした。
日常が進みつつもそこはかとなく漂う、不穏な気配。
ちらちらと姿をみせ、やはり山場は物語が収束する後半に一気にきました。この盛り上がりに向け全てが進んでいて、ぐいぐいと物語の世界に引き込まれていった。
物語が加速する流れに引き込まれて、まさにこの引き込まれるという感覚を感じれたことが何よりも良かった。
そのポイントは読む人によっていくつかあるかも。だけれど、追いかけても手の届かない相手の影を求めて重ねていく経験は誰にでもあるのでは。
自分の心の中の経験を引っ掻きながら、登場人物のつながりを応援して読…続きを読む - ★★★ Excellent!!!咳とキス、どちらがものがなしいか。
咳はそもそも一人でするもの、キスはそもそも二人でするもの。当該行為を〝しても〟一人になるのだったら、どちらがよりものがなしいか。そんなことをふと思う。
〝キスをしても一人〟――相手がいるからまだしもマシで、だけど独りなんて、滑稽であり、なお残酷だ。でもでも相手いるじゃん、という僻み根性に帰結してしまって己の薄暗い部分を前触れ無くスポットライトで照らされたようで嫌になる。いきなりドッキリカメラのターゲットにされた居心地の悪さよ。
物書きを目指す人にとってなんとも苦しい一作である。けれど主人公二人を追わずにはいられない。それは作者の物語る巧みさか。そして、行き着いた先には、思いがけず快い風が吹い…続きを読む - ★★★ Excellent!!!僕はずっと、嫉妬し続けている。
『日曜演劇家』の、あの人もあの人も出てる。あ、これって『熊本くんの本棚』のあの人じゃん……てな具合に、キタハラ作品がクロスオーバーする『キスをしても一人』。
「ちょっと他作のキャラを出してみたよ」って感じのゲスト出演ではない。(ショーケンは、ゲストっぽかったけど)きっと、著者の中に在る大きな世界から、それぞれの物語を切り出してきているのだと思う。もともとは一つの大きな世界や、大きな物語のうねりなのだろう。
何が悔しいって、それってワタシがやりたかった事じゃない? 関連性なさそうな作品群なのに、気がつけば一つの物語を形作ってました……って、それ、ワタシやりたかった事ですやん。
キタ…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ひとりとひとりが寄せ集まってまたひとり
演劇青年だった英二と小説家志望のさかえ、ふたりが暮らす部屋。
干支ひとまわり分の年の差のあるふたりは大学の同窓生。
前作の「熊本くんの本棚」とすごく良く似ている。
でも「キスをしても一人」の方がコンパクトにまとまりがあって、読後感も明るい。
キタハラさんの作品には舞台とそれを鑑賞する人がよく出てくる。
前作、熊本くんでも夢の中の舞台のシーンが印象的だった。
前作では舞踏、今作では演劇。
舞台の客席で語られる声はどこか心の奥深く、無意識から語り掛けられているような不思議な声だ。いや、全編を通して、語り掛けられているのか、語り掛けているのか、あるいは自らに語り掛ける誰かの声を聞いて…続きを読む