11 彼の独身者たちによって裸にされた、花婿さえも

第21話 彼の独身者たちによって裸にされた、花婿さえも①

 松田さん、お元気ですか。

 きちんと教えた通りにストレッチをしていますか? 松田さんは左の足裏にあるたこをかばうようにして歩くから、右足に疲労が溜まってしまいます。

 さて、いま僕はある場所にいます。あるってのもなんなんでしょうね。国内であることはたしかです。どこかは松田さんにも内緒です。

 いつまでここにいることになるのかはわかりません。ここは、超身も蓋もないことをいうと、ある密教をベースにした宗教施設です。

 なんだろうなあ、こう書いてみると、めちゃやばいですよね。でもまあ、シューキョーだろうとシソーだろうとセージだろうとなにかを突き詰めようとするとき、胡散臭くひとに映ってしまうもんです。そして、そう感じたなら、それはきっと正しい。そう感じた人にとって、という意味です。滑稽にあるいはグロテスクにあらわれる。

 自分の信じるものが絶対ではない、ということを頭の片隅に置いておくことが大事なような気がします。人はそれぞれ、見たいようにものを見ている。百人いたら百通りの世界がある。自分と違う人間に、自分の世界を共有しよう、押し付けようとするのは、難しいです。ただ、自分が信じたことをやることしか、人にはできない。見せることしか。誰かが興味をもつかなんてのは、そんなの誰かの問題です。

 でもたまに忘れるんだよな。例えば誰かのことをすごく好きになったりすると、その人も同じものを見てくれている、なんて錯覚を起こす。そして、木っ端微塵にそんな夢は砕けて、キレる(笑)。いや、僕をキレさせたらたいしたもんすよ(古い)。

 なんでメールでなくこんなふうに手紙を送ったかというと、修行のためにスマホは使用禁止だからです。パソコンも使ってはいけないというのです。

 この団体、いまどきいっさいパソコン使ってないんですよ。逆にすごくないですか? ホームページもないし、信者(っていっていいのかな)は紹介制だし。うわ〜昭和! めんどくせ。帳簿とか! まじかよ。エクセル使えよ(僕もできないけど)、そんな感じです。

 松田さんは昭和生まれですね。平成と、次の元号と、みっつも時代を生きるんだなあ、まじおじいちゃんじゃないですか。おじいちゃんやべえ。そんなおじいちゃんな松田さんはいまどうしてんのかなあ、あのメンヘラ女と住んでるんだろうな、さかえさんはまあ別にどうでもいいや、勝手に生きるでしょう。勝手に生きて、突き進んでいく。そういう野蛮なところを魅力としてある種のつまらん男どもに捉えられたりして。本人悩んでるふりしてますけど、若い女であるってことを十分楽しんでやがる。人生謳歌してんなあ。いい気なもんですね。

 そんな話はどうでもよかった

 いつ、東京に戻れるのかわからないので、あー、松田さんに手紙を書こうかな、メールダメっていわれたけど手紙ダメとはいわれてないし、これが法の裏をかくというやつか? 紙にこんなに字を書くなんてめちゃひさしぶりだよー、僕のことを忘れないようにさせなくちゃなと思い、いまこうして布団に入りながら書いています。

 なにを書こうかな。松田さんのいいところベストテンとか書こうかな。いつもだったら絶対にいわないことを書けるのも手紙のいいところです。

 第10位は、顔です。いきなりですかね。メガネすごく似合っています。いつも誰かに似ているなー芸能人だと誰似なのかなあ、って考えるんだけど、松田さんは松田さんオリジナルっていうか、とにかくいいです。

 第9位は汗っかきなところです。冬なのに汗ダラダラかいてたり。なんだかいつも一所懸命に見えます。かわいいなあ、って思います。

 第8位は僕が素っ頓狂なことをいっても絶対に否定しないことです。最後の日に、一緒に脱衣スマブラしましたよね。負けた奴は一枚づつ脱いでいくという謎ルールで。スマブラなんてしたことないくせに、「いいよ」っていってくれて。松田さんだけ素っ裸になっちゃって。おかしかったなあ。

 第7位は唇です。お前女子高生かってくらいに柔らかいです。気づいてましたか?

 第6位は口つながりで歌がうまいところです。すごくいい声をしています。福山雅治とかケミストリーとか(この選曲がまた、ちと古いなあ)、カラオケすごく良かったな。脳内再生できます。

 第5位は、小説のお話をしてくれるときすごく楽しそうなところです。そして絶対に悪口をいわない。小説以外は悪口しか出てこない(いいすぎ)のに。好きなんだなあ、って。

 第4位は体です。三十過ぎているのになんだかハタチみたいなんだもん。腹筋が見えないことを気にしていたけど、気にならなかった。肌もスベスベだし、触ると気持ちいいです。松田さんがくれた小説に、たしか好きな人の背中がコーラのにおいがするってあったけれど、松田さんの背中はほうじ茶のにおいがします。加齢臭とかおじいちゃんのにおいって意味じゃないです。いつも謎だなーと思いながら、鼻をくっつけて嗅いでいました。なにやってんだって思ってたろうな。

 第3位はセックスのとき、すごく真面目な顔をしているときです。知ってましたか? なんだかもう僕松田さんに殺されるのか? って怯えるくらいの形相してますよ。いま思い出すと笑っちゃうんだけど、最中のときはとてもゾクゾクしましたよ。

 第2位は、ちょっと待ってくださいね考えます。ああ、そうだ。いい意味で、優しくないところです。松田さんは僕のいうことなすこと、全部、嫌でも最後は「いいよ」っていってくれましたね。別に無理しなくても、お願いをきいてくれなくても、やらせないなんてことしないんだから、ちゃんと「やだ」っていってくれてもよかったですよ。僕は楽しかったけど、同じくらいに、気を使わせちゃってるかな? と思うこともあったよーな、嘘、いまの嘘。優しくないっていうのは、松田さんにとって、まわりは全部おんなじで、僕もその他大勢なのかなーていうか興味ないんだろうなー、小説以下なんだろうなーなどと、考えてしまうからで、でもそれは松田さんのある種の優しさからくるもので、……うまくいえないな。雰囲気だけ受け取ってください。

そして! 第1位は! 

 僕を好きじゃないところです。でも別にそれは構わないというか。はい。わかんないけど、きっと松田さんはどこかで人を好きになるのをやめちゃったんじゃないかな、と思っています。別に説教でも嫌味でもなんでもなく。なんていうか、僕に性的にも(髪型変えたり筋トレしたりしたんだけどな〜)人間的にも魅力があって、どーんと松田さんのハートを鷲掴みできたなら一発解決だったんだけど、僕が僕でしかなくてごめんなさい。ごめんなさい? 謝ってるし。意味わかんないですよね。

 深夜に手紙を書くというのはやっぱやばいですね。完全に頭おかしいやつの手紙じゃんこれ。

 明日も早いので(四時起床です)もう寝ます。寒くなってきたんで松田さん風邪ひかないでくださいね。鼻水とまらなかったら体が冷えているんだから、足湯とかホットポカリに生姜いれたりしてください。

 この手紙明日出そうかな、どうしようかな。もし届いたら、あいつ勢いでこんなん送ってバカだねーとか思ってください。

 なんか手紙からどこにいるのか推理して、突然僕に会いきてくれたりしないかなー。恥ずかしそうに「よっ」なんていって松田さんがやってくるとか。萌えるなぁ。やばい。ないか。こられたらそれはそれで逆に困るし。

 修行してんのになにいってんだか。

 キモいなって思ったら即捨ててくださいね。僕のほうは、書いただけでもういいんで。

 バカでごめんなさい。

『キングダム』どうなってんだろ、読みたいなー。漫画も読むの禁止なんです。


  有坂邦裕 LOVEXXX



 消印は岡山だった。検索してみると、すぐに、ここではないかという団体が見つかった。そこにたいして、肯定的だったり、否定的だったり、さまざまな意見がネットにはあった。「この世で最も信じることのできる生き神さま」とか「史上最悪の集団」とか両極端な意見ばかりで、まんなかは見当たらなかった。

 ふらりと旅行がてら会いにいくのも悪くないな、と思った。少し足を伸ばせば観光名所もある。

 そんな空想にふけってはみたけれど、クニヒロのいる場所くらいにリアリティがない。ほんとうに、この手紙を書いたやつと僕は、関わりがあったのだろうか、と思えてくる。

 僕の好きなところベストテン。

 第1位は僕を好きじゃないところ、と手紙にあった。どう思っていたのか、どんどんわからなくなってくる。

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