咳とキス、どちらがものがなしいか。

咳はそもそも一人でするもの、キスはそもそも二人でするもの。当該行為を〝しても〟一人になるのだったら、どちらがよりものがなしいか。そんなことをふと思う。
〝キスをしても一人〟――相手がいるからまだしもマシで、だけど独りなんて、滑稽であり、なお残酷だ。でもでも相手いるじゃん、という僻み根性に帰結してしまって己の薄暗い部分を前触れ無くスポットライトで照らされたようで嫌になる。いきなりドッキリカメラのターゲットにされた居心地の悪さよ。
物書きを目指す人にとってなんとも苦しい一作である。けれど主人公二人を追わずにはいられない。それは作者の物語る巧みさか。そして、行き着いた先には、思いがけず快い風が吹いているのだ。こんなのずるいなあ、と笑ってしまうほどに。

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