アフターエピソード

アフターエピソード:闇の使徒・黒川 アンリ

 パンデミック発生から五日目。


 黒川 アンリ。

 闇の使徒の本名である。

 小柄で小さくて、メガネを掛けていて、髪の毛もボサボサでお世辞にも女のの魅力があるとは言えない少女だ。


 だが現在、将一は彼女の安否を確認するために瞬と一緒に装甲車を走らせていた。

 邪魔な障害物はぶっ潰す。

 ゾンビも排除する。

 パワープレイ万歳だ。


「闇の使徒さん今頃どうしてるんでしょうかね?」


 運転席で瞬がそう話を振ってくる。

 瞬は現在、実質的な学園の代表者である真田先生や如月先生などのサポートに回るとの事だったが、今回付いてきてくれた。

 

 と言うのもやる事無いらしく、また学園側も俄に自衛隊とかの公務員連中が仕切り初めて段々と狭苦しさを感じていた為に息抜きしたかったらしい。

 

 これでは二日目の状況と同じだが、だからと言ってどうこうする気力も起きなかった。あんまりアレコレ言うと冗談抜きで殺し合いに発展しそうだし、もう殺し合いを見るのはイヤだった。


 ちなみに少女達三人は学園に置いてきた。

 闇の使徒との会話で余計なトラブルに発展しそうだったからだ。


「前も言ったと思うけど、クーラーをガンガンに掛けて暗い部屋に引き籠もってるんじゃないのか? まあネットを断たれてたみたいだし大層苦痛だったかもしんないけど」


「だけど今は自衛隊の駐屯地に会った妨害電波発生装置は破壊して一応インターネットは復旧しましたけど・・・・・・まあ、また使えなくなるのも時間の問題でしょうね」


「だな」


 まだパンデミック発生してから一週間も経ってない。

 あの三日間で何年かぐらい戦い続けてた様な錯覚を覚えていたが実際の時間経過はそれぐらいなのだ。


 比良坂町は特殊な町なのである程度インフラの整備はオート化されているらしいが、それでも何れ使えなくなるのは目に見えている。


「まあ、問題は山積みだけど・・・・・・ともかく今はアイツとの接触が先だ」


「そうですね」


 ふと将一はあの日の事を思い出す。

 あのパンデミックが起きた日。

 最初の一日。

 悪夢が始まるたった数分前。


 闇の使徒が警告を送ってくれた事だ。

 

 そして瞬に助けられてどうにかあの最初の山場を切り抜ける事が出来た。


 結局瞬の御陰の様にも見えるが、闇の使徒の警告が無ければ未来は変わっていたかもしれない。


 とにかくお礼だけでも伝えに行きたかった。



 もうそろそろ昼時かと言う時に闇の使徒、黒川 アンリは自宅前で荒木 将一を目にやった時、色々と言いたい事はあったがとにかく泣いた。

 泣いて泣いて泣きまくった。


 家の中に招き入れ、荒木 将一と加々美 瞬の二人は差し入れを持ってきてくれた。

 

 そしてクーラーを全開にした、薄暗い部屋に将一と瞬を挙げる。


「本当に想像通りの生き方してたんだなお前――」


「大変だったんだよ、気が付けば街中ゾンビだらけだし――それにしても学校で何が起きてたの? 爆発音とかここまで届いてきたし――」


 それが疑問だった。


「あ~一言で言い現すのはアレなんだが――」


 拙い説明だが、荒木 将一の口から信じられない情報を得た。

 時折、加々美 瞬から補足が入る。


 ゾンビ以外の化け物。

 大量の武器弾薬。

 生存者同士の殺し合い。

 三日間のタイムリミット。

 最後の戦い。

 

 などなど。

 とんでもない苦労をしていたらしい。

 

「全部信じるのか?」

 

 アンリの状態に困惑した様子で将一は尋ねる。

 また泣き出してしまったからだ。


「こんな状況だからね。それにここまで来てジョーク言いに来るとは思えないし。それにあの装甲車とか手に持ってる銃器とかも本物なんでしょう?」

 

「まあな・・・・・・」


 つまりこれは少なくとも、銃器でゾンビ相手に爆発音がする程の激戦をしていたと言う証拠に他ならない。

 

 それに引き替え、自分は何をしていたのだろうか?

 そう思うとアンリはとても自分の事が惨めに感じられた。  


「ともかく・・・・・・お礼が言いたかった」


「お礼?」


「危険を真っ先に伝えてくれてありがとう」


「そんな・・・・・・それはただ・・・・・・」


 アンリは顔を赤くして目を背けた。

 将一は何故だか笑みを浮かべている。


「何がおかしいの?」


「いや。想像通りの反応するからさ・・・・・・ともかく伝えたい事は伝え終わったし、これからどうする?」


「どうするって?」


 突然の話の切り替えに、アンリはついて行けず首を捻った。

 瞬が補足に入る。


「現在学校の安全は自衛隊の協力もあって確保されつつありますが、武装なども含めて牛耳るのも時間の問題でしょう」


「やはり最後に恐いのは人間なんだね・・・・・・」


 アンリの一言に将一は「俺もそう思う」と同意した。


「俺達は一応、救助活動の名目で自由に出歩いてる状態だしな。特例中の特例だ。下手すりゃ飼い殺しにされる。だからここにいるのも一つの手段だと思う」


「・・・・・・だけど一人はイヤかな」


 アンリはポツリと呟いた。


「いいのか?」

 

 真剣な眼差しで将一は尋ねる。

 アンリは「うん」と、コクリと頷いた。


「もう閉じこもってばかりいられないしね。それに文芸部の皆もそっちにいるんでしょ? 久し振りに会いたいな・・・・・・」


「分かった――帰ったら再会パーティーかな」

 

 こうして闇の使徒。

 黒川 アンリは将一達に合流する。

 その後、文芸部一同で再会パーティーが開かれる事になるがそれはまた別のお話である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

学園とゾンビと無双もの MrR @mrr

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ