第十五話「愛坂 メグミ」
学生寮の中は外と変わらず地獄絵図だった。
自分達と同じ角張った装甲車が乗り込んでるわ、ゾンビの遺体が倒れ込んでいるわ。 たぶん銃を持っているのが乗り込んだ武装勢力だろう――が死んでるわ。
もう酷い有様だ。
そこでメグミとリオ、協力者らしい黒髪のクールビューティーの妙齢の大人の女性に出会った。
黒くて色っぽい体のラインが浮き出ている完全戦闘服に着替えて銃を持っている。まるでアニメのキャラクターの様だった。
「私は瞬の上司だ。話は色々と聞いている。現状では民間人の協力だろうと他勢力だろうと力を合わせて乗り切らねばならない状況だ」
「話が早くて助かる――自己紹介は後でゆっくりするとしてバリケードを作らないと――」
「私がこの装甲車を上手い事動かしてバリケードにする。他の所を見てくれると助かる」
「分かった。気を付けて」
本当に短いやり取りだったがこれで十分だった。
学生寮の一階部分はまるでホテルみたいになっており、中央に二階へと続く階段がある。
左右に別れて男女に別れる感じだろう。
皆慌ただしく動いている。
「あのグレネードランチャーもあの人から?」
最後に美味しい所を掻っ攫ったメグミに訊ねる。
「ええ、恐そうだけど、何かカッコよくて凄い頼りになる人だった」
「そうか――」
「と言うか将一は大丈夫なの!? 外で様子見てたけど見てるコッチがヒヤヒヤしたよ!?」
今度がリオが聞いてくる。
何故か顔を真っ赤にして涙目になって訴えかけてくる。
「正直認めるのは癪だが木下が上手い事動いてくれたからな――」
「そう言う問題じゃないよ! 下手すりゃ死んでたかも知れないのよ!?」
「――ごめん」
リオの言う通り、確かに死ぬかねなかった。
危険を一人で背負い込んだがその方が気が楽だったと言うのもある。
そうこうしていく内に装甲車が動き出し、入り口を塞ぐ。
これでゾンビの侵入をある程度制限できるだろう。
念の為車体の下辺りを塞ぐ必要があるだろうが。
「さて、取り合えず――」
「取り合えず休みましょ?」
瞬と合流すると言われて遮られた。
「だけど休んでる暇は――」
「ダメ」
「けど」
「ダメだったらダメなの!!」
サイドポニーを揺らしながら言ってくる。
どうするべきか将一は悩んだ。
☆
結局将一は部屋を割り当てられてそこで休む事になった。
(学園の爆発まで後四十時間ぐらいか)
それを解除するために解除特別校舎に乗り込まなければならない。
心堂 昴との決着も、木下との決着も、どんな形であるにせよ近い内に決まるだろう。
(ともかく少し休むか――)
割り当てられた部屋は良くも悪くも普通の男子部屋。
一人部屋とかも存在するらしいが基本は二人の相部屋である。
そうしないと教育上、どうしても規律が緩むかららしい。
その四階の左端――女子と男子は左右で分かれていて、玄関から左側が男子部屋になるのだ。(学園全体で見れば東側が男子、西側が女子になる)
だから女子がうろついて居れば絶対誰かに目が付く様になっている。
間違っても夜中に女子を連れ込む事は出来ない。
顔を合わせられる場所は食堂か一階のエントランスホールぐらいだろう。
部屋は窓で半分を割るように左右に分かれている。
テレビやテーブル、娯楽品などを収納する本棚は共用のようだ。
「で、メグミ? どうしているんだ? 真清辺りから何か言われたか?」
「うん。こうしとかないとまた勝手に動きそうだからって」
「そうか――リオは?」
「リオは皆と一緒にいるよ――」
「・・・・・・」
「ねえ? 将一?」
「何だ?」
「私達全員学校と一緒に死ぬの?」
「っ!?」
そのワードで将一はベッドから体を起こした。
「その反応だと本当みたいなんだね」
「いや、忘れてくれ――」
「ううん、もういいの、隠さなくても。自爆装置を解除しないと、私達死ぬんでしょ?」
「誰が教えた?」
「あの瞬君の上司って人から教えて貰ったの。一部を除いて学生寮の人にはまだ知らせてないみたい」
「・・・・・・そうか。もうそこまで知ったからハッキリ言っておくぞ。もう既に爆発まで四十八時間を切っている。解除するには特別校舎にある極秘の施設まで行かなければならない。だけどあそこはゾンビの出現ポイントに近い為、通常の手段じゃ近づけない」
「だから乗り物を見つけて来たの?」
「ああ・・・・・・」
少しの沈黙の後、彼女は口を開いた。
「私馬鹿だから正直何が何だか分かんない。本当につい先日までは普通に学校に通ってたのに・・・・・・何時の間にかこんな事になって――恐いけど、もう死にたい・・・・・・」
「・・・・・・そんな事言うな」
「仮に自爆システムを解除したとして、どうなるの? 外もゾンビだらけなんでしょ? 家族の皆も無事かどうか。大切な友人も沢山死んだし・・・・・・もうやだよ・・・・・・」
何て声を掛ければ良いのか分からなかった。
ただ彼女の泣き顔から目を背けていた。
「ねえ、将一は辛くないの?」
「正直もう分からない。この状況を辛いと思う反面、楽しんでる自分がいるんだ。好きに暴れられて、女を抱けて、気にくわない奴を好きに痛め付けてぶっ殺せて・・・・・・
「そう」
「だけどその反面、木下や心堂 昴が好きに暴れたキッカケを作ってしまって、どうにかしてその責任を取ろうと――いや、違うな。自分はこの状況でも正しくありたいと思ったんだ。だがそれも自分さえ知らない内にドンドン歪んでいった」
「将一君は歪んでなんか」
「体育館での騒動の時、俺は最後の一人を特に躊躇わず、出来るだけ苦しめて殺したんだ。もう俺は二度と以前の自分には戻れないだろうな」
「自分を偽らないんだね、将一君は」
「偽ってどうなる。どう取り繕っても俺は木下と同じだ。心の奥底では女を好き放題に抱きたいとか格好良く振る舞って暴れたいって思ってる」
「私も、抱きたいの?」
「ああ・・・・・・だけど俺はもう真清と」
「お願い。抱いて」
「人の話聞いてるか? こう言っちゃ何だが頭おかしいんじゃねえのか?」
「酷いよ――」
涙を拭って彼女は微笑んだ。
「悪いがハーレムは――」
「真清さんから許可貰ってるから大丈夫」
「ああ、そう、真清がそう言うんなら・・・・・・ってちょっと待て。どう言う事だ?」
「梨子ちゃんにも同じ事言ってたよ?」
ふとあの夜の真清とのやり取り*第十話参照)を鮮明に思い出した。
☆
「ねえ将一?」
「なんだ?」
「もしも私が死んだら」
「よせ」
「じゃあ、私が生きてて私以外の女の子とHしたくなったら……」
「何でHする事前提になってるんだ?」
「だって将一君モテそうだし――」
「ゾンビの仲間入りする前に後ろから刺されそうだからやだ」
「私も自分で何言ってるんだろって思うんだけどね? けど何かそう言う予感がするの――」
「明日死ぬかも知れない状況下でハーレムとか荷が重すぎるし、第一ありえねえ」
「本当にそうかしら?」
☆
そこまで思い出して将一は頭を抱えた。
「いや待て、真清さんの罠かも知れん。これは抱いたら掛かったなアホがって後ろから刺されるパターンだ。てかハーレムを建築を手助けする女ってアリなのか?」
「大丈夫、今日は安全日だし」
「そんな問題じゃねえ! それ今思いついただろ!?」
「ど、どうして分かったの? もしかしてエスパー?」
「安全日とか危険日とかってこま目に記録しとかないと分からないし、それでも不確かだから基本安全日でもコンドームを着用してやんのが普通なんだよ」
「へえ~そうなんだ」
「君保健体育の授業ちゃんと受けてんの?」
あの頭のイカれた不良どもが跳梁闊歩してた比良坂学園でよく純真無垢で居られたもんだと将一は思った。
それを言うなら将一達もそうなのだが。
「せ、成績は悪い方だけどちゃんとまじめに授業受けてたもん! その、Hな事とかは分からないけど」
「んな事分からなくて抱いてとか口走ってたのかお前は――」
本当に大丈夫かと思った。
「けど、真清さんとHしたらしいし大丈夫かなって」
「この状況下で妊娠しても知らんぞ・・・・・・」
こんな状況だ。
間違いなく病院なんて大層な施設はマトモに稼働なんかしてないだろう。
それに子育てもある。
常識的に考えてこれから先の時代、子供産んだらとんでもない重荷になる。
しかも最低真清とメグミの二人分だ。
マトモな考えと精神なら先ずやらないだろう。
「取り合えずその・・・・・・シャワー浴びる?」
「え?」
☆
どうしてこうなったと思いながら久しぶりに感じるシャワーを浴びた。
先にメグミが入り、その後将一が入った。
久しぶりのシャワーはとても気持ち良かった。
ただ不安なのはこのまま状況に流されて行為に及んでも良いのかと言う事だ。
(本当は断るべきなんだろうが・・・・・・)
だが彼女の精神面が心配になって来た。
何時死ぬか分からない極限の状態のサバイバル。
次々と死んでいき、争う生存者。
自殺を実行に移したとしても誰が責められようか。
気が付けば浴場から出ていた。
(てか着替えどこ行った)
洗面所に出てキョロキョロと探す。
そして急に一糸纏わぬ姿のメグミが現れて浴場から引っ張り出し、そのまま部屋に連れ込んでベッドに放り投げて来た。
女に引っ張られるとは思えない凄い力だ。
「その強引でごめんなさい」
「い、いや・・・・・・」
そうしてベッドにのし掛かる。
メグミの体は真清と比べてボリューム感が無いが、出るところは出ている、清純潔癖でスレンダーでスタイルもいい健康的な肢体の女の子だ。下着を着けていてもよく分かる。
顔も目もパッチリ大きくて、笑顔が似合ってて、本当に可愛らしい女の子だと思う。
「この、後――どうすれば良いかな?」
「初めての、そのHでやる事は大体決まってる」
「そうだよね」
ベッドに座りながらお互いの唇を重ね合わせた。
真清の時と同じく深く舌を絡ませ、唾液を混じらせ、互いの吐息を交わし合う。
不思議な物だった。
お互いの気持ちを確かめ合っているだけのこの行為がとても神聖な行為に将一は思えてくる。
「真清さんともこう言う事したんだよね」
「ああ」
「おかしい気分なの――何だか体全体が祝福されているみたいで・・・・・・どう言えば良いのか分からないけど、私愛人でもなんでもいいからずっとこうしていたいの?」
「じゃあ止めるか?」
このままキスで終わって互いに裸のまま抱きしめ合うのも悪くない。
何だか将一もそう考え始めていた。
「うんうん、続けて。誘惑した最低限の責任取らなきゃ――」
「そうか・・・・・・」
そうして二人は深く体を重ね合わせた。
☆
何時の間にか自分は彼女の中に出しいたらしい。
互いに裸体のまま重ね合うように倒れ込んでいた。
将一の顔の直ぐ横にはとても嬉しそうな表情を浮かべているメグミの横顔があった。
「そんなに嬉しいのか?」
「うん♪」
「この一時の快楽で一生後悔するかも知れないんだぞ?」
「それでもいい――」
「本当はもっとこう、デートとかして、段階踏んでやるもんだろ、こう言うのって。いきなりは無いだろ」
「将一君って結構ロマンチックなんだね」
「・・・・・・うるさい」
「じゃあ今度デートしよっか。真清さんと一緒に」
「修羅場になるだろそれ・・・・・・」
「一夫多妻制の国に移住すればいいんだよ。もしくは私が愛人になれば」
「自ら進んで愛人になるんじゃありません」
何故か、メグミはクスクスと笑う。
「何か先生みたい」
「先生じゃ無くても言うだろ普通」
「そうだよね、ごめんごめん」
などと今の状況とは関係の無い会話をする。
今この瞬間だけは絶望の現実を忘れる事が出来た。
きっとこれは夢と同じなのだろう。
夢と同じで何時か覚める現実。
だけど今だけはその現実に身を委ねたかった。
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