第二十一話「再戦」


(やっちまった・・・・・・)


 将一は地下の監視ルームでやらかした自分の暴挙に後悔していた。


(感情に任せて二人をぶん殴るなどどうかしている。他にやりようはあっただろうに・・・・・・疲れてるのかな俺・・・・・・)


 などと頭を抱えながら心堂 昴がいるであろう場所に向かっている。

 場所は食堂の向こう側だ。

 アレだけの軍事車両を何処で調達していたのか分からない部分もあったがただ単純に近くもあったから調達が容易だったのだろうと思った。


(しかしまあ、ゾンビの数も大分少なくなったな――)


 早朝にかなりの量を殺害したのもあるだろう。

 外に出ても大丈夫なぐらいには安全は確保されていた。

 ただし将一基準でだが・・・・・・時折サプレッサーのピストルで手早く殺害して進路の邪魔になりそうな奴だけを殺害している。


(やっぱボウガンとか釘打ち機とかを改造した奴が欲しいな・・・・・・)


 ゾンビ相手に音は大問題だ。

 サプレッサーを付けていても銃声はある程度響く。 

 今日まで銃に頼ったパワープレイでどうにかなったが今後の事を考えると他のやり方を考えなければならない。


 もっとも、その今後があればの話しだが。


 エクスキューショナーみたいな奴に対抗するには間違いなく銃の力がいる。

 戦車の銃座や対物ライフル、手榴弾を使いまくってやっと倒せた。


(だけどあれが一体だけとは思えない。アレを送り込んで来た奴はまた別の奴を送り込む可能性がある。その前に出来るだけ排除しときたい)


 そうして食堂の裏手に来た。

 木々が生い茂り、銃撃戦の後も二日目のまま放置されている。

 更に奥に進む。

 ここから先は生徒はあまり寄り付かない場所で正直何があるのか知らなかった。


(モニターで見た地点だとこの辺りの筈なんだが・・・・・・)


 そうして木々を抜ける。


(学園内にこんな所があったのか)


 目に映ったのは多くのゾンビの死骸。

 駐車場の地下格納庫に様に地下へと続く通路。舗装された道路があった。たぶん学園内の何処かの道に続いているのだろう。

 ふと倉庫が見えた。何の倉庫か分からないがたぶんあそこの何処かにコントロールパネルなりなんなりあるかも知れない。

 もしかすると電柱に取り付けられた操作盤がそれなのかも知れない。


 それよりも問題がある。


「木下――」


「やあ。君もここに来たのかい?」


 木下がいた。

 相変わらずの重武装だ。 

 パッと見ただけで機関銃に各種ロケットランチャー。

 小太りな外観に似合わずハリネズミの様に武装している。 


「どうしてここに?」


「ははは。生き延びるために決まっているだろう」


 簡潔な答えが返って来た。


「見た感じだとここは心堂 昴の部下が使っていたみたいだね。地下の格納庫にあった車両だけど何両か消えていたよ」


「四脚のロボットは無かったか?」


「おいおい、バカにしているのか? そんな物あるわけ無いだろ?」


(まあこれが普通の反応だよな――)


 だけど実際戦ったのだ。


(と言う事は別の場所で調達した事になる。MAPを見た感じだと、学生寮の近くにもあったな)


 どうやら其方に向かったらしい。


(距離と次巻を考えればもう既に新しい玩具でも調達している頃だろう。だが何故か仕掛けて来ない。普通ならもう攻撃を仕掛けて来ても良い筈だがどうして?)


 などと考え込む。

 勿論木下への警戒は緩めない。


「で? どうする? 一戦やり合うか?」


「ははは、奇遇だね。僕も同じ事を考えてた」


「・・・・・・学生寮前での一件を考えれば、ここは見逃すってのもありかなって思ってる」


 ここで学生寮での4つ巴を思い出す。

 理由や経緯はどうあれ、結果的に木下には多いに助けられた。

 それに今は強い戦力は多い方が良いに決まっている。


「気に入らないんだよ」


「あ?」


 何となく拒否されるのは分かっていたが意外な言葉が出て来た。


「気に入らないんだよ!! そう言うところが!!」


 態度が豹変し、怒気を混じらせた言葉をぶつけてくる。


「何でだ!? 何でお前なんだ!? 何で僕じゃ無い!? お前あの時女の子達と一緒に行動してたよな!? いつの間にハーレム状態になってんだよ!! ええ!? 成り上がるのはお前じゃ無い!! この僕だ!!」


「今はそんな事言ってる場合か!?」


「黙れ黙れ黙れ黙れぇ!! お前みたいな奴が憎い!! 心堂も! そしてお前も! どいつこもこいつも俺を馬鹿にしやがる!! 根暗だからって不細工だからって小太りのデブだからって!!」


「じゃあお前は変わる努力したのかよ!? 見返そうとは思わなかったのかよ!?」


「誰か彼もが全員強い心を持っていると思うんじゃねえ!! そもそも俺は悪くないんだ!! なのに一方的にどいつもこいつも俺が悪いと決めつけやがって!! そんなの認めねえ!! 絶対認めねえ!! 俺が正しいんだ!! 俺が正義なんだ!!」


「・・・・・・残念だよ」


 もう手遅れだと感じた。

 南 静香と同じ、学園社会の負の部分に冒され過ぎたのだろう。


(木下。お前が言う通り、お前自身は悪くない。この学園に、心堂 昴みたいな奴がいるこの学園に来てしまったのが不幸なんだろう)


 そして拳銃を構える。


「やる気になったか!!」


「最後に一つ聞かせてくれ。学園の生存者をどうするつもりだ?」


「決まっているだろう!! 逆らう奴は殺す!! あ~だけど、女は俺の肉奴隷にしてやってもいいかな!」


「そうか・・・・・・」


「腹は決まったみたいだな――今お前凄い恐い顔してるぜ?」 


「・・・・・・だろうな」


「じゃあ始めるか!!」


 右腕の機関銃をぶっ放し始めた。

 反射的に体が動く。走りながら拳銃で応射する。何発か当たるかボディーアーマーやヘルメットを貫通しない。銃弾が当たっても怯みもせずに果敢に攻撃を仕掛けてくる。


「どうせ世の中何もかもお終いだ!! やりたい様に生きてやる!! ウヒャハハハハハハハハハハハハハハハ!!」


(確かに銃は映画通りじゃなかったが、汎用機関銃のリロードのやり方までは変わらない筈! ならそこを仕掛ける!!)


 適当にフルオートで乱射しているので銃弾はあらぬ所に飛んでいく。そもそも汎用機関銃と言うのは弾幕で相手の動きを止めるのが役割の銃であり、突撃銃を持った兵士の支援火器が主な使い方だ。

 お互い五十mどころか、十mぐらいしか離れていない。近代戦ではあり得ない距離だ。こんな距離で重たい汎用機関銃を、ちゃんと構えたとしてもフルオートで振り回せば狙った場所には碌に当たらない。

 だが威力は本物で木々が銃弾で穿たれ、倒れていく。


「まだ武器はあるんだぜ!」


「ちっ!!」


 弾が切れたタイミングでグレネードのピンを抜いて投げ付ける。

 汎用機関銃を投棄して背中のロケットランチャー、RPG-7を向けた。 


「なあ、どうして人を殺しちゃいけないのか考えた事はあるか!?」


 グレネードの爆発。

 続いてロケットランチャーの爆発。

 爆発を背後に全速力で走り抜けながら武器を切り替えた。


「今にして思うとバカだったよ!! 少年法なんて少年犯罪者を擁護する為の法律だろ!? つまり、人生で一度は人殺しが許される法律なんだ!! それを実行出来なかった僕はただの豚だった!!」


 そう言いながら木下は突撃銃に切り替えて来た。

 銃身下部にマスターキーをセットしている。

 グレネードランチャーかショットガンのどちらかだろうがたぶん木下の性格からしてグレネードランチャーな気がした。

 武器を放棄したせいか見た目に寄らず動きが速くなる。


「だけど違う!! 今の僕は平然と人殺しが出来る!! 生まれ変わったって、過去の呪縛を乗り越えたって実感できる!! だけどな、お前が目障りなんだよおおおおおおおおお!!」


 相手の言う事に応じず、将一は森の中に一端飛び込んで淡々とアサルトライフルで銃撃を行う。

 三点バーストによるサイレンサーの射撃。

 相手も激しく動き回るため中々当たらない。


「お前を見ているとイライラする! 吐き気がする!! 心堂もお前も殺してやるううううううううううう!」


 そう言ってアサルトライフルの銃身下部にあるマスターキーのトリガーに手を掛けた。

 間の抜けたポンと言う音と共に弾が射出される。そして木々を巻き込んで将一がいた辺りが爆発する。


「へへへへへ、出てこいよ!? これぐらいじゃお前死なないだろ!?」


 マスターキーにグレネードを再装填。

 再び発射して爆発が起きる。


「死ね死ね!! 死ねえええええええええええええええええええええ!!」


 そして銃弾を手当たり次第に乱射する。 しかし相手の方から銃弾が飛んで来ない。


「逃げたのか? いや、一端撤退したのか?」


 そう疑問を抱いているグレネードが投げ込まれる。


「しまっ!?」


 足元まで転がり込んで来て慌てて飛び引く。

 少し離れた所で爆発。


「クソ!?」


 転がり込む木下。爆風の衝撃が体全身を痛める。

 破片が体中に突き刺さるがボディアーマーで大丈夫である。

 今の爆発で背中にまだ残していたロケットランチャーや体にぶら下げていたグレネードに誘爆しなかったのは幸運だった。


「終わりだ――」


「あ――?」


「爆発物の使い過ぎで耳でも麻痺してたのか?」


 倒れ込む木下に銃を突きつけながら迫り来る将一。

 胴体にアサルトライフルの銃弾が三点バーストで数発叩き込まれる。


「ガハッ!?」


 弾は防げたがあまりの痛みで反撃できず、銃の構えを解いてしまう。


「例えボディアーマーで銃弾を防げても衝撃は体内を通るらしい・・・・・・詳しくは知らないがな」


「ははは・・・・・・」


「終わりだ」


「まだだ、まだ終わりじゃない!!」


「なに?」


「周りを見てみろよ。あんだけ騒げばゾンビどもがうようよここに押し寄せてくるぜ」


「ちっ――」


 木下の言う通りだった。

 主に南側からゾンビの呻き声が聞こえる。

 大分倒したと思ったがまだまだいるらしい。


「ッ!?」


 金属音に反応して、咄嗟に身を捩らせた。

 そのまま全力で走る。

 木下は体制を立て直しながらアサルトライフルを乱射してくる。

 そして別のタイプのロケットランチャー、筒式の奴を向けて発射した。


「今回は僕の負けだ!! 次だ!! 次こそお前を殺す!!」


 爆発の中で木下の憎たらしい声がした。

 どうやら逃げたらしい。

 しつこい野郎である。


(さてと――俺も逃げ出さないと――)


 一先ず木下の事はおいておく事にした。

 今はこの場から撤退するのが優先である。 

 取り合えず逃げ出す事にした。



 一方で・・・・・・心堂 昴は格納庫の管理部屋に備え付けられていたベッドで横になっている。体を休めていた。

 少し休んだら動ける将一の方がおかしいのだ。

 格納庫には軍用車両などに混じってロボット兵器が並んでいる。


 こんな筈では無かった。

 最初は大勢手下がいた。

 ゾンビ騒ぎで何人かは犠牲になったがそれでも幸運なぐらいだ。


 そして今回の一件やミーミルの事などをあの女から全部聞いた。


 しかし想定外に抵抗が激しく、全てを把握した時にはもう自分とあの女しか生き残っていない事が分かった。


 あの女――城王院 紫は今東校舎にあるシェルターに一人引き籠もっている。

 何でも学園の爆発にも耐えうる仕様らしい。

 こんな事なら全員見捨てて爆発まで紫を雌犬調教プレイしておけば良かったと思っている。


 あとは時折スマフォに謎のメッセージを届けてくる人物がいるが目的が分からない。

 そもそもスマフォが使えなくなっている筈だ。

 どうやってメッセージを届けているのだろうか。


(クッソ、何やってんだ俺は――)


 城王院 紫とは深い肉体関係を結んでいる。

 自分の体無しでは生きられないぐらいに調教した。

 そんな彼女が今朝、最初は何を言っているのか分からなかったが突然呼び出しをした。


 最初言っている内容は半信半疑だが画像付きで解説されて――とにかくラインで知り合いを片っ端から集結させた。

 そして読みが当たった。

 城王院 紫は本当に優秀だった。


 ミーミルだけでなく、学園の機密のありとあらゆる事を教えてくれた。

 この学園の数々の極秘施設、脱出方法、危険地帯、自爆システムの事も教えてくれた。


 それを利用して今後の世界の事を考えてこの学園を抑える事を考えた。

 アホな連中を纏めるのに苦労はしたがどうにか計画は順調に進んだかに思われたが結果はご覧の通りだ。


(外にいる連中も生きているかどうか分からねえ。特別校舎の連中もどんだけ生きているかも正直分からんし使い物になるか分からんし、へタすりゃ寝首を掻かれる)


 共存するかとかも考えたが・・・・・・


(あんだけやって今更共存なんて考えられねえ。こうなったらやるかやられるかだ)


 こうして心堂 昴は決意するが・・・・・・


(だが殺し合ってどうなる? 周りは化け物だらけ、あの紫はアテにならねえ。生存者達には俺のやった事は知れ渡っていると思っていい・・・・・・ 


 考えが纏まらない。

 ふとスマフォが鳴る。

 謎の人物だ。

 特にやる事も思い付かないのでスマフォを見てみる。


(またアイツの情報か・・・・・・)


 このスマフォから連絡を寄越す人物は荒木 将一に興味を示しているらしく、情報を提供してくる。

 意図が分からないが今の所は助かっている。


(あのメガネ、チビデブ(木下)と殺し合ってたのか・・・・・・この化け物だらけの状況でよくまあやるもんだ。どっちも正気じゃねえ)


 特に荒木 将一。

 映像付きで送られて来た情報を信じるなら十分に化け物よりも化け物の部類だ。

 しかも今自分を殺すために探し回っているらしい。

 遅かれ速かれここに辿り着くだろう。


(あのチビデブはともかく何であのメガネに狙われなきゃなんねーんだよ。とにかくどいつもこいつも次で決着を付けてやる)


 ベッドから立ち上がった。

 上手く行ってない上に、女を抱いてないせいかイライラする。


(このままじゃ終わらねえ・・・・・・絶対に終わらねえぞ・・・・・・) 


 そして新たなロボットの元に歩み寄った。  

    

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