第十四話「学生寮は燃えているか?」


 時間は正午に近付いた頃。


 装甲車を落ち合わせ場所の東校舎に付け、将一と瞬は状況確認を行った。

 武道館で避難民を救助し送り届けた次第だ。

 本当は直接体育館に降ろそうかとも考えたが、度重なる戦いで地獄絵図になってるのでやめておいた。

 体育館で過ごすウチにどの道見る事になるであろうが――


「で? このまま装甲車で学生寮へ?」


「ああ。ある程度食料はあるだろうからあんま気にしなくてもいいと思う。最悪占拠されてると思うから装甲車は使わない方が良いかも知れん」


「となると少人数で潜入する形ですか――」


「どうする? また別行動か?」


「いえ、ある程度纏まった戦力で乗り込みましょう」


「そうね――梨子さんはどう?」


「その案に私も賛成」


「どうして二人がいるんだよ――」


 何故か真清と梨子の二人がいた。

 セーラー服にベストにアサルトライフルにベストと言うミスマッチで逆に魅力的なファッションだ。


「モテますね」


「……どうしてこうなった」


 将一は頭を抱えた。

 これからデートに行くのではない。

 敵はゾンビや謎の生物、そして武装勢力である。

 ハーレム系ラノベの世界ではあるまいしと頭を抱える。


「まあこれだけいれば大丈夫だよね」


「そうよね」


 木下に囚われていた愛坂 メグミと桐嶋 リオのコンビまでいる。

 もちろん此方もセーラー服+ベスト+銃器の組み合わせだ。

 男二人、女四人の六人パーティーである。

 色々と無茶がある人数だ。 


「どちらかと言うとアンナに来て欲しかったんだが……」


「ああ、あの人なら防衛に回るそうよ」


「ああそう……」


 何故だか分からないが同じ文芸部員のアンナは戦闘面に関して絶対的な安心感の様な物があった。


「梨子にえーと二人とも下の名前で呼んでいい?」


「うんいいよ」


「私も構わないわ。その代わり将一って呼ぶわよ?」


「私も――」


「じゃあメグミとリオはどうして付いてくるんだ? 梨子もだ」


「ちょっと私が付いてくるのは疑問に思わないの?」


「あ――ちょっと黙っててね委員長」


「委員長じゃなくて真清」


「真清……ともかくアレだ危険なんだ? 分かるか? 例えば――」


 ドーンと言う音が聞こえた。

 景気の良い爆発音だ。


「おい、今の音は?」


「ともかく歩いて向かいましょう。相手の装備によっては装甲車ではデカい的になります」


「了解――」


「で? 彼女達の動向を認めるんですか?」


「もう死んでも知らんぞ俺は――」


 正直頭が痛くなる状況だ。

 将一はやけっぱち気味に帰した。





 学生寮は大きな高級マンションかリゾートホテルみたいな外観をしている。

 採算取れてるのかよく疑問視されていたが今となってはミーミルの施設と関わりがある施設だからで片が付く。

 ゾンビの数はまばらなので別れて行動した。

 具体的には将一と瞬のグループで別れる。

 瞬には真清と梨子を押し付け、メグミとリオを引き取る形になった。


 瞬の行動力を考えれば単独で動かした方が活躍するかも知れないが――今はその辺りをじっくり考えている余裕はない。

 M4カービンを構えながら学生寮まで進む。


「こうしていると屋上の一件思い出すな」


「大変だったよね……」


「大変じゃなかったわよ。危うく死にところだったじゃない」


 などと軽口を叩きながら玄関近くまで辿り着く。瞬とは途中で別れた。


「排気音? 誰か車に乗ってるのかな?」


「この状況下で車乗り回さねえよ――」


「将一の言う通りよ。この学園壁で封鎖されているのよ?」


「何か嫌な予感がする――」


 将一はとてつもなく嫌な予感がした。

 周辺のゾンビも爆発音に引き寄せられている感じだ。 


「アレって……戦車よね?」


「うん……どう見ても戦車」


「正確な車種は分からんが恐らく外国産の最新鋭戦車だろう。アスファルトの地面にキャタピラの痕まで付いてやがる」


 駐車場の地下格納庫で何両か見た事がある。両脇を装甲車が戦車を守るように配置されていた。瞬達が使っているタイプではなく通常車両を黒塗りして大型化して天井に銃座を付けたタイプだ。

 周辺には食堂や体育館で見かけた馬鹿どもがバカ騒ぎしながら学生寮にゾンビが入って来るのを眺めていた。まるで世紀末の悪党だ。さっきから雄叫びを挙げながら群がるゾンビをシューティングゲームの様に倒している。

 そもそも、どうしてアイツらがんなもん見付け出しているのだろうか? 確かに駐車場の格納庫は体育倉庫の教訓を生かしてあの後、封鎖した筈である。

 今はそんな事よりも――


「どうするの?」


 メグミの言う通りどうするかを決めなければならない。


「火力が違い過ぎる。ロケットランチャーとか持って来てないぞ? せいぜい手留弾くらいだぞ」


「このまま見てるの? このままじゃ学生寮の人達みんな全員死んじゃうよ――」 


「つってもな――」


 メグミの言う事は何一つ間違ってはいない。

 ただ敵が強大過ぎるのだ。

 戦車や装甲車などの軍用車両に常備されている12.7mm弾でも脅威だ。車だろうが建築物の壁だろうが隠れている人間諸共鉢の巣にする破壊力である。戦闘ヘリだって落とせる。

 戦車砲など撃たれたらほぼ即死だ。

 乗っている連中はド素人だが慰めにもならない。


「ヒャハハハハハハハ!! 遂に俺のヒーローの時代が来た!!」


 傍観を決め込んで居たら装甲車の一台が爆発炎上した。

 とても聞き覚えのある声で女性陣二人は嫌な顔をした。

 将一もこの「タイミングでかよ」と独り呟く。 


「木下――アイツやっぱり生きてやがったか!?」


 遠目から見ても相変わらずの超重武装だ。

 それだけの筋力があるなら殴り殺せるだろうとか色々と言いたい事はあった。


「だけどチャンスだよ!?」


「でもゾンビも寄って来てるわよ!!」


 メグミは「チャンス」だと言うが、リオの言う通りどんどんゾンビが集まって来ている。

 このまま留まっていたらどの道ゾンビに囲まれるだろう。

 その証拠に後ろから――学園の南側からゾンビがやって来ている。


「お前達は学生寮の中に走れ!! 俺はあの馬鹿ども含めてどうにかする!!」


「屋上の時もそうだったけど大丈夫なの!?」


「心配してくれて嬉しいが、今は言われた通りにしてくれ!!」


「あ、ちょっと!!」


 将一は走った。

 どの道誰かが気を引いて早いところどうにかしないと、あの大火力の前では建物諸共ハチの巣にされるか吹き飛ばされる恐れがある。 


 戦車一台。装甲車一台。よく見るともう一台装甲車が学生寮の中に突入している。


 つまり学生寮の前にあるのは戦闘車両は戦車一両、右翼(将一)側の装甲車だけ。ふと中にも車両が突入しているのが見えた。此方は将一達が使っている角張ったタイプに酷似している。

 武装勢力は突然の襲撃者に慌てふためいていて注意がそちらに行っている。

 それに周囲にはゾンビがまだ三十体近くいるため、そちらにも注意を割かねばならない分、将一達への注意は散漫になる。


「ギョギョエ――」


「ギョエ――」


「キシャアアアアアアアア!?」


「このタイミングで化け物かよ!?」


 そこで最悪のタイミングで化け物達が集結。

 首輪が突いたトカゲ三体。

 植物人、しかも人型に近いタイプが十体近く集結する。


 今迄何処で何をやってたのだろうか。幾ら何でも出現が唐突過ぎると将一は思った。

 まるで地獄の蓋が開いたかのような惨状に突入しようとしていた。


 そうこうしているウチに木下がロケットランチャーの二発目を発射した。

 狙い易かったのもあるのだろう。位置関係の都合で戦車の側面に直撃。

 戦車の上に乗っていた心童 昴の部下と思しき学生の体がバラバラに吹き飛ぶ。


 軽装甲車にはトカゲが群がり、勢いよく重機関銃を乱射する。しかしドライバーがパニックになったのか出鱈目に運転し、重機関銃の反動も凄まじいために制御出来ず、上手く目標に当たらなかった。

 トカゲは二m以上の巨体だが素早い上に跳躍力は凄まじく、建物の壁を踏み台にして三角飛びなどをする為、先ず当たらない。そんな化け物が三体もそれぞれ装甲車目掛けて別方向から襲い掛かっていた。


 植物人はその耐久力を活かして銃弾を浴びながらも近寄り、手のツタで足を絡めとって引き寄せ液体を浴びせていた。

 液体を浴びせられた犠牲者はジュウーと言う嫌な音と絶叫と共に息絶え、そして捕食される。


「ギョギョエ――ギョエ――」


 そして銃器をツタで器用に拾い上げ、引き金を他の連中に目掛けて引く。


「ってお前達、短時間でなに進化してんだ!?」


 思わず銃弾を叩き込んでツッコんでしまった。

 植物人が銃器を使い始めて驚いてしまう。

 一体どう言う生命体なのだろうか。この植物人学習能力みたいな物が備わっているらしい。

 だがそれよりも一つ分かった事がある。


 この場にいる奴を全員皆殺しにしなければ明日を迎えられないかもしれないと。


(とにかく馬鹿どもは後回しだ!! 今は生物から刈る!!)


 植物人目掛けて手留弾を投げ込む

 爆発と共に吹き飛びバラバラになったが液体を零しながらも驚異的な生命力でまだ生きている。

 それどころかツタを伸ばして体の再結合をしようと図っている。

 武器をアサルトライフルから変えてショットガンにして再生を阻止しようとしたが――


「あぶね!?」


 トカゲの一体が襲い掛かって来た。慌てて転がり込むように避け、遅れてツメを振り下ろす。ショットガンを発射する。避けようとするが拡散弾の範囲を計算し損ね、腹部が抉れる。

 痛みよりも怒りが勝ったのか大きな怒り声をあげる。

 そこへ第三者の銃撃がトカゲを襲った。崩れ落ちる姿を確認せず、将一はその場から移動する。


 何時の間にか軽装甲車は横転しており、そして銃弾が叩き込まれ爆発炎上した。


「木下、見境ねえのか!!」


「俺は主人公! 俺は主人公! いぇい!! 派手過ぎて頭が逝っちまいそうだぜ!!」


 厳つい銃に大きな弾倉。恐らくシルエットからして汎用機関銃を持って出鱈目に乱射していた。

 ゾンビだろうが異生物だろうがおかまいなし。

 将一の方にも銃弾が飛んでくる。


(この学園頭がいかれてやる奴がどうして多いんだ!?)


 内心悲鳴を挙げながら武装勢力、ゾンビ合わせて手近な奴から葬っていく。





 一方で瞬は学生寮に辿り着いた。

 やはりと言うか武装勢力が来たらしいがどうにか学生寮にいた人々の協力もあり、撃退出来た。

 心堂 昴もいたが何処かへ消えたが将一の話と統合すると部下である男子、女子ほぼ死亡した。

 残っているのは五人にも満たない。


 今はともかく学生寮の安全確保が先決である。


 メグミとリオは中で協力者と共に内部に侵入して来たゾンビ達と相手している。


 瞬は屋上に辿り着き、援護する事にした。


「とにかく援護しましょう」


 そう言って瞬は現地調達したロケットランチャーを戦車に向けた。


「どうやったら死ぬのかしらねアレ――」

 

 梨子は心底呆れながら言う。

 それを聞いて瞬は苦笑で返した。


「体育倉庫でゾンビに囲まれた時もあんな感じだったわよ」


 真清はその時の事を思い出しながら銃を構える。





 戦車がまた爆発した。今度は正面。流石最新型の戦車だけあって爆発炎上が逃れたが砲身が完全に壊れていた。あのまま発砲すれば自爆するだろう。その前に安全装置なり何なり働いて撃てないかも知れないが。


 ふと学生寮の屋上を見ると誰かが攻撃してくれたらしい。屋上から銃火器の火線が飛ぶ。

 次々とゾンビを倒して行っているが頭を狙うのは難しいらしく、怯ませる程度にしかならない。


(このままじゃ巻き込まれる!!)


 将一は慌てて学生寮に退避する事に決めた。

 しかしそこで2体のトカゲが襲い掛かる。

 左右から挟み込む形だ。ショットガンを連射して当たってはいるが勢いがあまり衰えない。


 そして両サイドから頭を突き出すようにに迫った。


 しかし将一は咄嗟の判断でアサルトライフルを盾にして攻撃を防いだ。

 怪力とツメでグシャグシャになるアサルトライフル。

 吹き飛ばされる将一。


「クッソ……銃器も無限にあるわけじゃねえんだぞ……」


 起き上がり、アサルトライフルを捨てる。

 再び迫って来た。トカゲの一体が飛び掛かって来る。それに合わせる様にショットガンを発射。頭部を消し飛ばす。

 しかしもう一体は直進。大口を開けて走る。ショットガンの弾は出ない、弾切れだ。

 トカゲの口が迫るが――


「死ね!!」


 素早く片方の手で引き抜いていたサプレッサーピストルを口の中目掛けて引き金を引く。

 目や口から、頭から血を噴き出し、絶命した。今回は復活もしない。


「戦車の方は――」


 ふと戦車の方を見る。

 戦車の中から人が出て来た。

 しかしそこを何時の間にか戦車に上っていた木下が出て来た所を射殺。

 そして何かを入れた。たぶん手留弾の類。


 そそくさと逃げる。


 数秒した後、砲弾の類と誘爆したのか大爆発を起こした。

 あまりの凄まじさで砲塔が吹き飛び、その衝撃で将一も周辺のゾンビも生き残っていた植物人も地面に倒れ伏す。


「最悪だ――なんつー一日だ……つか俺飛び込んだ意味ってあったのかこれ?」


 などと愚痴りながら起き上がり、キッと木下を探す。

 特徴的な外見をしてるためスグに見つかった。どういう思惑かかなり近い距離にいる。


「おお、こんなところで会うなんて奇遇だね!! だけど残念!! 僕のハーレムを妨げる野郎は全員敵なのさ!!」


「相変わらずだな――」


 ヘルメットに上半身、下半身をプロテクターで固めた完全重武装の異質な小太りの少年。

 手には汎用機関銃を持っている。他にもまだ銃器は持っているだろう。


「漁夫の利を狙わせて貰ったよ。結果は大成功。あの化け物も君が引き付けてくれたおかげで皆殺しに出来た!!」


「OK、OK、で? 昨日テメェに殺されかけたのはちゃんと覚えてるよな?」


「そんなのお互い様だろ!! お前だって本当はこの機会に乗じてセックスしたいんだろ!! この法もクソも何もないカオスな世界で!! 本能が赴くままにセックスしたいんだろ!?」


「ぶっちゃけ今日を生き延びるのと過去のツケの清算で生き延びるのに精一杯だよ!!(真清としたけどな!?) てかあの植物生物何か合体して行ってるぞ!?」


「はははは!! まるでゲームの世界だ!! ゾンビばっかりだと飽きるからこうでなくちゃ!!」


「んな事言ってる場合か!?」


 頭の痛いやり取りをしているウチに植物人達は合体、巨大化した。

 ツタで引き寄せ、周辺のゾンビすら取り込んで行き、三m近い化け物になった。

 頭と思われる花弁が各所にあり、長いツタがそれぞれの意思を持っているのかの様に動いている。


 駐車場で念入りに処分したのは正解だったようだ。

 今もなお、次々とゾンビを取り込んでいき、トカゲの遺体すら取り込んで巨大化していっている。


 そして魔の手はショットガンの弾を込めていた将一自身にも及ぼうとしていた。


「わわわわわわわわわわ!!」


 出鱈目に木下は汎用機関銃を乱射している。

 集合体の植物人の動きは鈍る。効いているようだ。

 ツタが迫るがそれすらも汎用機関銃で撃ち抜く。


 正気に戻ったのか、学生寮からの射撃も再開される。

 撃たれた個所から液体が体の彼方此方から巻き出ていたがそれでも死なない。


 将一もショットガンで迫るツタを消し飛ばしながら本体に弾を叩き込むがまだ敵は生きていた。


(たく、グレネード使ってばっかだな!!)


 そう言ってピンを抜き、投げる。偶然花の一つの中央の中にスッポリと入る。

 そして爆発。思いっきり液体やら肉の破片やらが散乱した。

 辺り一面もう硫酸に混じって血だまりになっている。


 もう一押しだと思った。


「伏せて!!」


「リオ!!」


 学生寮の方から走って来たらしいリオが来た。

 手には、銃の種類は分からないが木製の銃床が特徴のオーソドックスでレトロな感じがする、中折れの単発装填式グレネードランチャーを持っている。弾の大きさは自販機の缶ぐらいである。

 それをリオは迷う事無く引き金を引いた。


「焼夷弾か――」


 爆発はせず、対象を燃やし尽くす弾だったらしい。

 炎が植物の化け物を包み込んでいく。


「ギョエエエ!! ギョエエエエエエエエエエエエ!!」


 炎に包まれて行きながら植物の化け物は最後の断末魔をあげた。


「こんな化け物までいるんだ……」


「ああ――」


 ゾンビは見ただろうがゾンビ以外の化け物を間近で見たのは初めてだろう。

 どんな表情をしているのか声色で大体想像が付くのであえて追及はしなかった。


「木下の野郎――ドサクサに紛れて逃げやがったな――」


 何時の間にか木下の姿が無くなっていた。

 気が付けば周辺のゾンビもいなくなっていた。


 残されたのは轟々と燃える戦車や装甲車、そして化け物などだ。

 だが暫くすればまた再びゾンビだらけになるだろう。


(一旦、瞬達と合流するか……)


 どの道、東校舎には戻れない。

 将一はリオと共に学生寮へ足を進めた。

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