第二十六話「木下」
「で? どうしてゾンビだらけになってんだ!? しかも全員特別校舎の制服付きで!?」
「恐らく誰かがシェルターから解き放ったんでしょう!!」
エレベーターから降りると一転して修羅場だった。
ゾンビだらけになっていたのだから。
今更ゾンビで驚く事はない。
将一は回し蹴りを決めて吹き飛ばした後、三点バーストで頭を吹き飛ばす。
時折踏んづけて動きを止めた後、他のゾンビにヘッドショットを決める。
「ともかく、今直ぐ脱出しましょう」
「いや、このパターンは覚えがある――」
何故だか南 静香の時を思い出した。
さっきまでいなかった、突然出現したゾンビ達。
派手な物音を立ててないにも関わらずにある。
それに瞬も「誰かがシェルターから解き放った」と言っていた。
南 静香の時と同じ可能性を警戒して損は無いだろう。
「なあ、脱出口にトラップがあると前提に考えたとして・・・・・・お前ならどうする?」
「成る程、ですがこの後に及んで一体誰が?」
「心当たりがある」
☆
彼は屋上で待ち構えていた。
昇降口前に武器を放置してあったからそれを必ず回収する事を計算して銃を構える。
全ては将一を殺すためだ。
最早目的と手段が変わってしまっているが彼にとってはもうどうでもよくなっている。
と言うより、将一を殺さないと彼は精神的に前に進めなくなった――と思い込んでいるのだ。
「なっ――」
屋上のドアが吹き飛んだ。
同時に銃弾の雨が飛び交う。
「へえ――特別校舎の屋上って本当にヘリポートになってたんだな――」
「お前!!」
「相手が俺達じゃなかったら有効な手段だったよ。俺達じゃなかったらな」
と、将一が何食わぬ顔で出て来る。
「これで最後だ。終わりにしようぜ木下!!」
将一は木下の名を叫んだ。
「ああ、終わりだ。お前を殺して俺が望む人生を手に入れてみせる!」
それ以上の言葉は交わさず、お互い銃撃を始めた。
五十mも離れていない。
せいぜい二十mかそこらでの至近距離からの銃撃戦。
遮蔽物も何もない場所での、純粋に戦闘技術が試される場所での戦い。
それが決戦の舞台。
銃弾が飛び交い。
グレネードを投げ合い。
ロケットランチャーやグレネードランチャーの弾が建造物の一部を吹き飛ばす。
それでもお互い死ななかった。
(銃弾の消耗率が早い――短期決戦になるなこりゃ)
将一も木下も出し惜しみ無し。
攻撃のみだけを考えた戦闘スタイルで戦っていく。
マガジンをリロードする暇すら惜しい。
そんな暇があるなら他の武器に持ち替えて銃弾を撃ち続ける。
そうする事で自分はまだ生きていると言う実感を持てた。
「お前さえ、お前さえいなければぁああああああああああああああ!!」
「知るかボケぇえええええええええええええええええええ!!」
木下が短機関銃を両手に持って突っ込んで来る。
将一も負けじとショットガンで迎撃する。
お互い跳んだり跳ねたり、アクション映画顔負けのアクションを披露しながら回避する。
距離、およそ五m、四m、三mと至近距離戦になっていく。
「貰った!!」
「!!」
両手に持った短機関銃を放り捨て、ナイフを取り出す。
その斬撃をショットガンで防ぐ。
「なに!?」
「おら!」
将一は思いっきり木下の小太りの体に胴体に蹴りを入れる。
「グッ!?」
よろめいた隙を付いてショットガンで殴り、蹴り、左のフックを顎にかます。トドメは後ろ回し蹴り。
全部顔面に容赦無く目掛けてやっている。
木下は身長が低いので顔面を狙うのは楽だった。
しかし存外にタフな物で素早く体勢を立て直し、拳銃を向ける。
「させるか!」
それを見た将一は素早く距離を詰め、拳銃を持った腕を掴む。
そこから揉み合いになり、お互い地面を転げ回ってその間に銃弾を発砲。
カラになるまで撃ち尽くしたところで至近距離からのド付き合いに発展、木下は身に付けたヘルメット越しに頭を打ち付けてくる。
将一は痛みで怯む。
何度も何度も精神がハイになりながら木下は頭を打ち付ける。
流石の将一もグロッキーになった。
「さあ、トドメだ」
それを見て気を良くした木下はそう言ってナイフを取り出す。
「・・・・・・」
「悔しいか?」
「・・・・・・」
「恐くて怖じけ付いたか?」
「ウルセェ」
「あ?」
「ウルセェつってんだよ! それに重たいんだよ! 痛いんだよ! さっさとドキやがれ!」
「おう!?」
銃声が何発も響いた。
「ガハッ・・・・・・」
木下は転がり込む。
至近距離から脇腹から大口径リボルバーの銃弾を浴びたのだ。
木下が身に纏っているスーツはある程度防弾の効果はあるが銃弾が当たった時の衝撃までは完全に殺せない。
それも対人相手にはオーバーな威力の大口径のリボルバーの弾を受けたのだ。
仮に貫通しなくともヘビー級ボクサーの全力ストレートを食らった並の衝撃は届いている筈だ。
どうしてそんなもん、将一が都合良く持ってたかと言うとゾンビよりも恐ろしい化け物との戦いが続いたせいで継続戦闘能力は元より破壊力を求めたせいだ。
そうして手頃なサイズで破壊力がある大口径のリボルバーがあったのでそれを持ち歩いていたと言うのが真相である。
「あ~クソ、いてぇ・・・・・・最後の最後で、詰め誤ったな・・・・・・防弾だから貫通してないと思ったが流石にゼロ距離で五十口径弾を撃たれりゃ貫通もするか」
「く・・・・・・クソ・・・・・・」
その銃の反動で手がビリビリするが仕方ない。
命があっただけまだマシだと思わなくては。
木下は脇腹から血を流し倒れ込んでいる。
血もドクドク出ている。
「クソ・・・・・・どう・・・・・・して・・・・・・俺が最後に勝つんじゃ無かったのかよ・・・・・・」
「最初から選択肢を間違えてたんだよお前は。人の為に動いていればこうならずに済んだだろうに」
心の底からの本音だった。
少なくともこのサバイバルで、運の要素もあっただろうが一人で三日間生き延びたのだ。
現実と向き合ってある程度妥協して、皆と協力して生きる道を選んでいれば一緒に戦う未来もあったのかもしれない。
「お、おれ・・・・・・おれ・・・・・・死ぬのか?」
「ああ、そうだ。その傷じゃ助からん」
「そうか・・・・・・ああ、だけど後悔は・・・・・・してない。この三日間、自分の思い通りに生きられた。生きてる実感を持てた――はは、ははは・・・・・・」
そうして渇いた笑い声をあげる。
「お、お願いだ。俺をゾンビにさせないでくれ・・・・・・痛くて痛くてもう・・・・・・意識が・・・・・・」
「分かった」
「ははは・・・・・・この三日間、楽しかったなぁ」
「・・・・・・」
将一は木下のヘルメットを取る。
メガネを駆けた、餅の様にふっくらした顔。
お世辞にもイケメンではない。
だが口元から血を垂れ流し、何かをやりきった様な清々しい顔をしていた。
その顔が不思議と格好良く見えた。
「さよなら」
そして銃声が響いた。
☆
「終わりましたか?」
「ああ――結構手こずった」
屋上から校舎内の階段に付くと瞬が待っていた。
階下には大量のゾンビが倒れ伏している。
一人で片付けたのだろう。
こいつも大概人外だなと将一は思った。
「それにしても派手にやりましたね」
「ああ――」
「それで? 行くんですか? ミーミルに?」
「行くしかないだろ・・・・・・」
「少し休憩しては?」
「そうだな。だが、あんまり待たせると何を言い出すか分からん。早めに行った方が良いだろう」
「そうですか」
「近くにミーミル本社に繋がる地下の直通路がある。ゾンビも出尽くしていると思うが――無理そうなら一旦戻ってモノレールから乗り込むぞ」
「そうですね」
「さて・・・・・・んじゃあ休憩できる場所探すか・・・・・・」
こうして一つの一連の戦いに決着がついた。
将一は何故だか寂しさの様な物を感じたがきっと気のせいだろうと思い直し、休憩できる場所を探す。
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