第二十二話「疾走」
「また誰か派手にやらかしてるな・・・・・・」
朝方からずっとこの調子で派手にドンパチしている。
また化け物でも現れたか、もしくは心堂 昴がまたロボットを持ち出して動き出したか。
(正直、アイツとあの場で決着を付けられなかったのは痛かったが・・・・・・今は順に問題を片付けてくしかねえ)
アイツとは木下の事だ。また襲い掛かってくるだろう
そして次もまた殺し合う。
だがたぶん次が何となく決着になるだろうと内心思っていた。
その時お互い生きていたらの話だが。
(無理に自爆装置を解除する必要はなくなったし、そのまま脱出するって言う選択肢もある。だが――)
木下や心堂 昴が黙って見逃してくれるだろうか?
それに謎の監視者の存在もいる。
このまま上手く行かない気がした。
(ともかくこの騒動が何なのか突き止めるか・・・・・・)
そう思い学食前まで来た。
そこへタイミング良く猛スピードで装甲車が将一に迫ってくる。
「あぶなっ!?」
「乗ってください!?」
「瞬――って、うお!?」
誰かに引っ張り込まれた
装甲車の中に放り込まれる。
何が何だか分からなかった。
「良かった!! 無事だったのね!!」
「梨子か――何が起きてんだ!?」
どうやら引っ張り込んだのは梨子だったようだ。
「後ろ見れば分かるわ」
「後ろ?」
ハッチからおそるおそる顔を出す。
続けて後ろから何かが猛スピード来た。
「何だありゃ・・・・・・」
遠目から見ても大きなグレーのシルエットだ。
下半身がキャタピラ上面部には人型の上半身が搭載されていた。
背中に頭部を挟んで二門の大砲をしょっている。
両手にはガトリング砲を搭載していた。
『見つけたぞ、荒木 将一・・・・・・』
「その声、お前か心堂 昴か」
『ああ――探したぞ・・・・・・』
全開といい、中々いい集音マイク積んでるなと思いつつ将一は丁度良いと思った。
「俺も探してたんだ。テメェとはケリを付けたかったからな」
『勝てると思ってるのか?』
「ああ。まずそのご自慢の玩具から引き摺り出してやる」
『やってみろ!!』
そして相手の新型ロボットのガトリング砲が唸る。
☆
両者はまず、西校舎前を駆け抜ける。
駐車場や地下格納庫などがある場所でゾンビの数も少ない。
屋上に人が多くいるのが見える。
あんまりな光景なのでどうして良いか分からないのだろう。
相手のガトリング砲や大砲が唸る。
梨子が必死に車に搭載された機関銃で撃ち返している。死の恐怖よりも昴にレイプされた怒りが勝っているようだ。
将一もグレネードを投げたり、装甲車の内部にあるロケットランチャーを打ち込んだりしているがしぶとい。
装甲車を操る瞬は必死に装甲車の巨体を動かす。
正直瞬のドライブテクニックが無かったら仲良くお陀仏になっていたところだろう。
ハッチの中に戻り、将一は瞬にある提案をした。
「瞬、どうにかアイツに近寄れないか?」
「もう人間やめてますよねあなた?」
「俺まだ何も言ってないんだが――」
「いえ、分かりますよ。大方飛び移ってそのまま破壊する算段なんでしょう?」
「え、分かんの?」
「分かります」
断言された。
結構ショックだ。
この程度ならば普通に出来ると思うのだが自分がおかしいのだろうか?
そう、疑問に思いながらも飛び移る準備に入る。
「行きますよ!!」
そう言って車両を百八十度ドリフトターンさせる。
そして蛇行しながら敵の攻撃を回避し、突っ込む。
中々のドライビングテクニックだ。
「今です!!」
「わかった!」
そして擦れ違い様に飛び移った。
下半身の上面部分である。
稼働中な為かかなり機体が熱い。
取り合えず目に付いた先から攻撃を加える。
間接部とかにグレネードを差し込んだりもした。
『お前正気か!? クソ!? 降りろ!! 降りろぉ!?』
その場に停止してデタラメに上半身を動かして振り下ろそうとする。
しかし将一は攻撃の手を緩めない。
左肩と胴体の間の関節部がいかれ、背後に回って背中のキャノン砲めがけてグレネードを転がしたりしている。
あっと言う間にバラバラになっていった。
「ねえ、加々美君・・・・・・早朝でも思ったんだけどあの人、本当に人間なの?」
「うーん何と言うか結構常人離れはしてると思いますよ?」
などとやり取りしつつその破壊されていく光景を眺めている。
ロボットから爆発や火花が散り、プシューと煙が出て動かなくなった。
「あれ? どうなったの?」
「恐らくですが、将一さんの攻撃で排熱機能がイカれてオーバーヒートして動かなくなったんでしょう」
「成る程・・・・・・」
そうして将一はロボットから離れ、此方に歩み寄って来た。
近くにまで来た段階で梨子が上面ハッチから呼びかける。
「梨子、何かデカイものないか?」
「ロケットランチャーとかゴツイライフルとか色々あるけど――それに銃座もあるし」
「アレを徹底的に破壊するぞ」
「分かったわ」
そうして二人は総攻撃を開始した。
『クソ!! クソ!! 動け!! 動け!?』
「無様ね――昴・・・・・・」
ロケットランチャーの爆発。
銃座による攻撃。
次々と各部に火花が散る。
モニターから矢継ぎ早に被害報告が表示される。
特に背中の二連装キャノン砲に誘爆したら不味い。
だが今脱出したら間違いなく殺される。
『ちくしょおおおおおおおおおお!! なんで俺がこんな目に!! 俺が!! 俺が救世主になる筈だったのに!!』
「何が救世主よ!! やってた事はチンピラの王様じゃない!!」
梨子が銃座を打ち続ける。
その車の傍で様々な種類のロケットランチャーを打ち込む。
『熱い!! 熱い!! 機体の温度の上昇が・・・・・・これ以上はもう!!』
やがて胴体部のコクピットが吹き飛び、心堂 昴らしき男が這い出て来た。
それを見て梨子が飛び降りて物凄い勢いで近付いて行った。
白いパイロットスーツ姿らしき衣装の心堂 昴はよろめきながらヘルメットを脱ぎ捨て、その場から逃走しようとする。
「昴ぅうううううううううううううう!!」
「ヒ、ヒィ!?」
梨子が手に持っていた拳銃から銃弾が撃ち込まれた。
昴はロボットを操縦するための白いスーツを貫通する。
「ご、ゴハァ!?」
脇腹から血を流し、その場に倒れ込む。
「アンタに散々玩具にされた恨み、ここで晴らさせて貰うわ!!」
「ま、待て――」
足、腕と銃を次々と撃ち込んでいく。
「イタイ!! イタイイタイ!!」
「貴方は殺さないわ――どの道もう出血多量でほっといても死ぬわよ」
トドメに胴体に一発撃ち込む。
将一と角谷 士との体育館での一件を参考にした復讐方法だ。
「・・・・・・終わった」
「ああ・・・・・・」
後ろで昴が何か喚いているが不思議と耳に入らなかった。
だが今は将一しか頭に入らなかった。どう言っていいのか迷ってるような、目線を逸らして何とも言えない顔をしている。
梨子は復讐を果たした。
だが心は何故か晴れなかった。
「心堂 昴との戦いも、何か最後は呆気なく終わったな――随分と長い間抗争してたように思うけど二日間の間の出来事でしかなかったんだよな」
「そうね――横取りしちゃった?」
「いやいい。それよりも、まだやる事がある」
「まだやる事?」
梨子は首を捻る。
「木下とは恐らく最後まで殺し合う事になると思う。このまま学園を去るにしても恐らく何らかのアクションは取ると思う。それにミーミルの計画だと恐らく政府機能が復旧させるなり、新政府が出来上がる筈だけどそれが何時になるのか分からない。それにこの学園と運命を共にしたいって言う人もいるしな・・・・・・準備を整えたら特別校舎に向かうよ」
「分かった。私も付き合うわ。だけどその前に休んだら?」
「そうだな・・・・・・そうさせて貰うか・・・・・・」
そして二人は装甲車に向かって歩み出す。
「俺を置いてかないでくれ――死にたくない――」
心堂 昴は体中から血を流しながら掠れた声で呼びかける。
しかし二人は無視した。
昴の頭の中では今迄苦しめてきた人間の泣き顔が走馬燈となって流れては消える。
(爆発は明日の朝までか・・・・・・どうするにしろ、今日中に決着が付くと思いたいが・・・・・・)
それにと思う。
(特別校舎にもまだ生存者がいる可能性もあるしな・・・・・・見捨てるのも何だか目覚めが悪いし)
特別校舎にいる連中は殆どミーミルと関わりがある生徒ばっかりだ。
だがそれだと犯罪者の親は子供も犯罪者的な考えでどうかとも思った。
もしかすると南 静香や木下、心堂 昴みたいな奴がいるかも知れないがその時はその時である。
真清も言っていたが未来なんてのは誰にも分からないのだから。
「あら? スマフォが鳴ったの?」
「・・・・・・嫌な予感がするな」
そうしてスマフォを取り出す。
差出人は不明だったが――
件名:戦いを見させてもらった。
見事な戦い振りだった。
特別校舎で会おう。
とだけ書かれていた。
(どの道特別校舎に行かなきゃダメか・・・・・・)
どうやら選択肢は無いらしい。
無視したらゾンビゲーに出て来る様なヤバイ化け物をダース単位で嗾けられそうだ。
避難組とかを巻き込むわけにはいかないし、行くしかないと思った。
そうなると梨子とかも巻き込む事になるだろう。
将一はハァとため息をついた。
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