第三話「保健の先生」


 あの後、将一達は出来うる限りの武器を持ってその場を立ち去った。

 制服の上から特殊部隊が纏うようなジャケットを身に纏い、出来うる限りの銃器を持って歩く。

 少々重いぐらいだがこれからの事を考えると少ないぐらいの量だ。ショットガンや予備の弾薬、サプレッサー付きのハンドガンやサブマシンガン(サプレッサーを付けていても音がするらしいが無いよりかはマシと考えた)、グレネードである。

 

(瞬がミリタリー知識に詳しいワケもああ言う理由だったのかね・・・・・・)


 ふとサプレッサー付きの拳銃を見た。昔将一はサプレッサーの事をサイレンサーと言っていたが正確にはサプレッサーと言うのが正しいらしい。

 教えてくれたのは瞬だ。


(念の為こいつも持ってきたど・・・・・・使う場面あんのか?)


 そしてロケットランチャーにも目をやる。

 ロケットランチャーと言っても色々とあって対戦車用や対車両用の奴まである。とにかく軽くて携帯が比較的楽な緑の筒、M-72ロケットランチャーを持って行く。将一が何故、M-72ロケットランチャーの事を選んだのはお守り的な意味合いが合った。

 と言うのも昔読んだ異世界召喚系のラノベでそれが出て来たからだ。主人公が30mのゴーレムを現代兵器で吹っ飛ばすシーンは中々衝撃的だった。

 

(ああ、なんかまた読みたくなって来たな……)


 とか馬鹿な事を考えているウチに将一達は最初の惨劇の舞台となった東校舎――自分達の教室がある建物に逆戻りしていた。

 委員長は銃片手にずっと泣いている。それを責めたくは無かったが流石に参って来る。瞬はともかく将一はただの高校生である。


(やはり人は居ないな……)


 今いるのは校長室。

 オフィスビルに居を構える社長室かよってぐらい綺麗な部屋だ。小学生、中学生の時に校長室を覗いた事はあるがここまで綺麗では無かった。

 棚や机から乱雑に物が散らかされた後がある。


 そしてテーブルの上にはコンピューターが置いてあったのだろう、電源用のケーブルやインターネットをする為のルーターだけが抜かれて床に置いてあった。


「ねえ……どうして校長室に来たの?」


「何かあるかなって思って……」


「冷静なのね……」


 涙声で口調が刺々しい。

 

(学園の実態に気付いているのなら瞬が立ち寄りそうな場所は限られている――校長室や理事長室、上流階級専用の校舎、それに職員用のエレベーターとか業者用の連絡通路とか……)


 自分でもこれぐらい思いつくのだ。

 瞬もきっと他の所を調べているに違いない。

 校長室を調べる事にした。体育倉庫の一件を考えるに何かしらの仕掛けがあると思ったからだ。

 

 それに自爆装置についてやゾンビの事、ゾンビ以外の生命体についても分かるかも知れない。


(もっと話を聞き出しておけば良かった……いや、本当にもうアレ以外知らなかったのかもな……)


 色々と後悔の念があるが今は何にしても気を紛らわせたかった。

 

 何もしないのは死ぬのと一緒。


 だがこうも思う。



 噛まれて痛い思いをしてゾンビの仲間入りになるのと、爆発に巻き込まれて一瞬で死ぬのとどっちが良いのだろうと。



 そこまで考えて将一はふと棚を探る手を止めた。

 

「どうしたの?」

 

「いや……よくよく考えれば自分何してんのかなって思ってさ……」


「何してんのかって……貴方が何か分かるかも知れないって」


「……そうだけど、だけど」


「大丈夫? 休んだ方がいいんじゃない?」


「それはお互い様だろ……それにこの状況じゃオチオチ寝てもいられねえ」


「それは……」


(今頃アイツらはどうしてるんだろうな……)


 闇の使徒。


 瞬。


 先生。

 

 どうにか生き延びたクラスメイトの面々。


 それだけじゃない。


 家族や友人の事も心配になって来た。


 皆、大丈夫だろうか。


 無事だろうか。


 実はもう既に。


 様々な想いが頭の中を駆け巡っていく。


「泣いてるの?」


「あっ――」


 口元を覆うように手を当てる。湿った感覚が手に伝わる。そこで自分が泣いている事を自覚した。


「やっぱり休んだ方が良いわよ。アレだけ暴れ回った後だもん。」


「でも……」

  

「近くに保健室があるわ。そこなら横になれるかも……」




 将一達は保健室に向かう事になった。

 途中職員室なども覗いたがそこもゾンビだらけになっている。

 道中のゾンビはやり過ごし、時にはサプレッサーの拳銃で始末する。ワンショットワンキルが出来れば良かったが、近付いて数撃ちゃ当たる戦法でどうにか切り抜けた。


(事前知識で知ってたけど、サプレッサー付けていても結構音がするんだな――)


 基本、映画やゲームみたいにパスパスと言う感じをイメージしていたが思った以上に射撃音や銃の稼働の音が廊下に反響する。それでも近付いてゾンビを倒すよりかはマシだが。

 やはり架空の銃と現実の銃は違うらしい。これからもそう言った認識の違いは出て来るんじゃないかと将一思った。

 

「見て、ゾンビが倒れてる」


「誰かが倒したのか?」


 念の為、ショットガンで突ついてゾンビの亡骸を確認する。

 どれも頭から血を流して倒れている。

 蘇る気配は無さそうだ。


 人の気配を感じたのか、静かに保健室が開けられる。

 現れたのは男性教諭だ。

    

「真田先生……」


「君達――その銃火器は何処で――」


 真田 俊矢(さなだ としや)。眼鏡を掛けた物腰柔らかい評判の良い保健の先生だが、結構ガタイがいい。

 

「まあいい、ともかく中に入って」


 そう言われて中に案内された。

 薬品の匂いに血の匂い。

 ベッドの上には先客がいて、まるで童話に出て来そうな小柄な女の子が震えている。傍にはショートヘア―の銀髪のスタイル抜群な外国人生徒までいた。

 短い黒髪の目鼻立ち整った男子生徒もいる。長いブラウンの髪の毛の綺麗な女の子もいたが、制服が違う。上流階級様クラスの人間だろう。


 一番目についたのは毛布を掛けられた何かだった。それが二つある。


「アレは――」


「噛まれていてもう手遅れだった。だから僕が処置された」


 すると保健室にいた全員がそれぞれ違った反応を見せた。

 それだけ見て何が起きたか容易に想像できた。


 ゾンビ映画とかでお約束のシーン。


 まだ助かるかも知れないから、ゾンビにならないかも知れないから殺さないでと言うシーンがありありと想像できる。

 そして最終的に先生が処理した――と言う流れだろう。


「先生も銃器持っているんですね?」


「ああ――」


 手元には黒光りする拳銃が握られていた。

 銃身には将一と同じくサプレッサーが付けられている。


「あの……先生も、もしかして……」


 あやふやな感じで疑問をぶつけると真田先生が間を置いて答えた。


「……場所を変えようか?」


「ええ、いいですよ」


 そして場所を移した。将一はある程度の銃火器を置いておく。

 避難民は不安がったが直ぐに戻ると言っておいた。


「スクールカウンセラーのための教室か……」


「ああ。外の銃撃音の御蔭で防火扉を閉める余裕が出来た。出なければここを使おうとは思わないよ」


 西校舎、東校舎への連絡通路付近。そして校舎右端の階段を昇ると近くにスクールカウンセラーの為の教室があった。

 知り合いが利用していたので存在事態は知っていたがこうして来るのは初めてだ。

 ソファーやテーブルなどがあり、テーブルの上には何やら色々な子供向け玩具があった。こう言うのに詳しい奴が一人知り合いにいるのだが今はどうでも良い。


「爆発の時間まで約七十時間……つまり三日間か」


「どうしてそんな時間にしたのかは僕には分からない。色々と理由は考えられるが……タイマーは僕が見た時はそう設定されていた」 

 

 ハァと盛大にため息をつく。

 ともかく、時間を確認出来たのは良かった。


「何処で確認を?」


「職員用のエレベーターに特殊なキーを挿入すれば地下の極秘のエリアに行ける。君が出会った男も地下にある何れかのルートで此処に来たんだろう。そこに極秘の施設がある」

 

「解除は出来ないんですか?」


「自分が行った場所は権限は低い。出来るのは精々状況の把握ぐらいだ。上流階級向けの校舎にメインコントロールセンターがあるが……その周辺はここよりもゾンビが多い」


「どう言う事ですか?」


「そもそも上流階級向けの特別校舎と言うのはミーミルの重役クラスが通わせている生徒達の為の校舎で万が一の場合は特殊部隊もミーミルの私兵部隊も突入できる規模のルートが近くに隠されている。そこから実験体として拉致していた感染者達が大量に校舎へ入り込んでいて下手に近付けない」


 特別校舎は東校舎から離れている。南東の方角で途中に運動場や部室棟があり、結構距離がある。更に特別校舎を中心にゾンビが増え続けているのを考えると近付くのは至難の技だろう。


「その感染者の数ってどれぐらい?」


「少なくとも一万は超えている。大半は町の方に流れたが学校にも相当な数が来ていると見て良いだろう」


 一万越えのゾンビ――大半とは言うがそれでも自分一人では殺し尽せない数のゾンビがいると考えた。

 

「ほんっとうに詳しいですね……貴方もスパイか何か?」


「そうだ。加々美君も君が来たら教えておくようにと言われた」


「瞬が?」


「ああ――今でもちょっと疑問に思っている。何故君なのかと」


「そう言われてもなぁ……」


 何か自分妙に期待されてないかと思いつつ視線を背けてポリポリと頬をかく。

  

「ともかく、まだ時間はある。食料もある程度備蓄があるから食事を――」


「え、ええ――」


 そこでふと思い出した。


「そう言えば西校舎に残した人達は――」


「まだ生存者がいるのだな――」


「ああ」


「そうか。災害用の非常食が食いきれないぐらい大量にある。それを運べば良いだろう。扉の向こうにいる君はどうする?」


「え?」


 視線を扉に向けた。ガタッと音がする。反射的に銃を構えたが手で止められる。


「大丈夫。何もしない。安心してほしい」


 先生はそう優しく語り掛ける。まるで扉の向こう側に誰がいるのか分かっているみたいだ。

 ちょっと間を置き、ガラガラと扉が開かれる。

 そこから現れたのは。


「委員長?」


 本野 真清だった。


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