第二十三話「特別校舎へ!」


 将一はガバッと起き上がった。

 白いベッドの上。

 独特な薬品の匂い。

 白い仕切り。

 見覚えのある場所。


 西校舎の保健室だ。

 以前使用したから分かる。


「今何時だ!?」


「もう少し休憩した方がいいんじゃないかな?」


「さ、真田先生?」


 真田先生が昼食片手(災害用の避難用食料)を乗せたトレイ片手に個室に入ってきた。 

 頬が張れてるのか殴った箇所には湿布が貼られている。


「聞けば早朝から戦い通しだったそうじゃないか」


「・・・・・・・・・・・・ああ~」


 そう言われて今迄の戦いを思い出す。

 自分でも「よく生きてたな?」とか「本当にこれ自分がやったのか?」とか、現実味の無い事だらけだが自分がやったのだ。


「皆は?」


「一応校内放送で呼びかけた。時限爆弾の事も話してある。モノレールも使えるらしいし――学園からの脱出も可能だ」


「自分は残りますよ。どうやら変な奴に目を付けられてるらしいし」


 そう言ってスマフォを渡した。

 暫く真田先生はじっと眺める。 


「この状況で学生相手に生物実験を行うつもりか・・・・・・正気じゃ無いな」 


「だろ? たぶん俺が脱出すればまたバイオの化け物モドキを嗾けてくる。そうすれば絶対死人が出る」


「まるで君は死なないみたいな言い方だね」


「あ――それもそうか。変な話しだな。色々ありすぎて感覚がおかしくなってるらしい――ともかく準備は出来てるんですか?」


「そうだな。昼飯を食べながらでも話そう」


 時計の針は既に午前一時を指していた。



「真田先生はが残るのは想像してましたたが宮里先生まで残るとは・・・・・・てか先生久し振りですね」


「ええ、こうして話すのも何だか随分久し振りな気がしますね」


 担任兼部の顧問である宮里 萌と久し振りに言葉を交わす将一。

 東校舎付近の通路では装甲車や戦車が並んでいる。


 残存メンバーは少ない。

 残っても外の状況が分からない為、偵察隊の報告あるまで爆発ギリギリまで残ると言う人も結構いるみたいで、セコイと見るかしたたかと見るかは人によって判断が分かれるだろう。

 同じ部の部長や慎治は残存組、如月 純夏の偵察隊と同行する事になった。

 特に瞬は「自衛隊の駐屯地でやる事が出来た」とか言っていた。


(比良坂町の自衛隊の駐屯地にあるレーダーはレーダーとしての機能だけでなく、万が一パンデミックが起きた際に妨害電波を発生させる装置になっている。それを破壊しに行く)


(大丈夫ですかね?)


(外の状況は地下のモニタールームで見ただろう? こんな状況だ。今更機密も何も無いだろう)


(いや、そうじゃなくて・・・・・・)


(あの二人がゾンビにやられる所は想像は出来ないな。一応それ以外の化け物には注意するようだが・・・・・・まあ大丈夫だろう)


(はあ・・・・・・)


 との事らしい。


「私は学園に残った生徒を守ります。アンナさんやユカリも協力してくれるそうです」


「将一にぃ~頑張って~」


「行ってらっしゃい。隊長」


「誰が隊長だアンナ」


 ユカリはともかく自然とアンナがいるだけで何となく安心感を覚えるのは何故だろうか。

 ともかく宮里さんのグループも大丈夫だろう。


「いくのね?」


「うん、ごめんね?」


「いいわよ別に」


 ふとメグミとリオの会話が耳に入った。

 話しの流れからして自分に付いてくるつもりだそうだ。


「んでまあ二人も付いてくると?」


「当然でしょ?」


「当たり前じゃない」


 真清と梨子がそれぞれ何を言ってるんだと言う態度で接してくる。


「だとさ――瞬、今更聞くけど自爆装置の解除の仕方分かるか?」


「ええ。真田先生に手順は聞いておきました」


 真田先生は来れない。

 と言うより動けない。

 以前銃で撃たれた生徒の容態を見るためである。

 この状況下で放置するのも心苦しいので校舎の残留組となった。


「そか・・・・・・さて、特別校舎はどうなってるんだか・・・・・・」


 そうして装甲車に乗り込んで行く。





 学園には幾つかシェルターが存在する。

 城王院 紫が使用しているシェルターは本校舎の職員の為の物だ。


 助けが来るまでじっと高級ホテルの様な煌びやかな内装の部屋で待ち続ける。

 窓ガラスもあり、そこには外の景色が映像として映し出されていた。 


 外には出られないが恐怖からは解放されている何不自由ない暮らし。

 そんな城王院 紫は外部に接続された独自のネットワーク情報、学園の監視モニターで心堂 昴の死を知り、動揺した。


 この気持ちは何なのか分からなかった。


 昴への開放感?


 失った悲しみ?


 そもそも自分はどうしてあんな奴にこの学園の秘密を教えたりしたのだろうか。


 恐怖からか。


 それとも本当に愛していたのか。


 ワケが分からず混乱した。


 とにかくシェルターの外へ出る事にした。 



 瞬と将一。

 真清、メグミ、梨子の五人は装甲車に乗る。

 例によって武器や生活必需品など満載の状態だ。


「ゾンビの数が少ないな。どっかに潜んで罠張ったりしてないよな?」


 キョロキョロとハッチから周囲を見渡す。


「それゾンビなの?」


 隣の銃座に梨子がいた。

 馴染んだ感があるのは気のせいだろうか。


「そう言う種類のゾンビもいるんだよ。映画で見た」


「アニメばっかだと思ってたけど結構映画とか見るのね」


「まあな。文芸部は色んな趣味の奴が集まるから自然と知らないジャンルの知識とかも増えてくんだよ。慎治がアメコミ好きでそれ関連の映画に付き合ったりとかしてさ」


「ふーん。て、もう付くわね」


「この学園は普通の学校に比べれば広いけど、車を飛ばせば直ぐ付くだろ」


「そうね――」


 特別校舎にはアッサリと付いた。

 それが逆に不気味に感じた。

 外観は惨劇の後が一目で分かる。

 ひび割れたガラス。そこからブランと垂れている手、上半身。

 恐らく相当な地獄が起きたのだろう。


 真清、メグミ、そして将一の順で降りる。


「さてと――探索と行きますか――」


「ちょっと上に何か居るわよ!?」


「何!?」


 上を見た。

 校舎の屋上に何かがいた。

 大きい。

 五m近くある。

 ロボットとも戦ったがそれとは違う別の恐さがある。

 毛むくじゃらの黒いゴリラの様な生物だ。


「こいつもバイオ兵器ってわけか!!」


 そして銃を構える。


「どうする? 逃げる?」


 真清が銃を構えながら尋ねる。


「アレから逃げ切れると思うか?」


「無理ね」


「私も同じくそう思う」


「じゃあ戦うしかないだろ!」


『グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 新手の怪物は咆哮を挙げて平手で分厚い胸部を叩いた。

 そして飛び降りる。


「こっちに降りてくるぞ!!」


 黒い巨体が飛び降りてくる。

 落ちてくる場所を見計らって三人は離れた。

 装甲車は急発進する。

 そして衝撃波と共に生々しい臭いが鼻に届いた。

 ゴリラ面の化け物の赤い双眼と目が合った。


「やるしかないか・・・・・・」


『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 車を玩具の様に粉砕出来そうな、大木の丸太を丸く束ねたぐらいに図太い腕で殴りかかってくる。

 当たれば即死だろう。

 将一は突撃銃を構えて身構える。


 特別校舎でも死闘は続くようだ――

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