最終話「生きる意味」


「先生達の説教長かったわね・・・・・・」


 学生寮のレクリエーションルームから将一達はゾロゾロと出て来た。

 皆の気持ちを代弁するかのように真清が行った。

 瞬でさえ常時笑み状態が崩れかけている。


「まあ勝手に死地に飛び込んだんだ。あれが普通の反応だ」


 戦いが終わって学校に戻った後、皆集めて正座させられて如月 純夏の説教が待っていた。 

 その中には宮里 萌先生の姿もあった。

 それをずっと見ていた真田 俊也先生は何か言おうとは思ったのか、それとも流石に見ていてかわいそうになって来たのか、「今はゆっくり休んでくれ」と言って来た。


「とにかく今日はゆっくり休むか」


「んじゃあ一緒に寝ようか?」


 と、梨子が将一の腕に絡んで来る。ちゃんと胸の膨らみを押し当てて来る程の完璧度合いだ。

 もうすっかりこう言うポジションに馴染んだ気がする。


「私は朝からドンパチして疲れたから寝るわ。将一の部屋で」


「真清ちゃんが言うなら私も」


 何故か他の女性陣二人も来るらしい。

 瞬は「モテモテですね」と笑みを浮かべて言って来た。


「社会的に殺す気か・・・・・・いや、そういや社会滅んでるんだっけ?」


「その辺りを含めて真田先生が話すつもりだそうですよ」


 瞬が言うには色々と調べていたらしい。

 皆スマフォなどが使えるようになったので個人単位で情報収集を始めている。

 不思議に思うかも知れないがまだアウトブレイクが起きて三日目であり、何処かのゾンビ漫画みたいに突然核弾頭使ってEMPが発生し、家電製品全滅とかにならない限りはまだ大丈夫だ。


「まあ何はともかく明日だな」


「そうですね――私も流石に疲れました。ゆっくり休ませて貰います」


「ああ、気を付けてな」


 そうして別れ、将一達は割り当てられた部屋へと辿り着いた。


 =四日目=


 既に日は昇り、昼も過ぎている。

 将一達が目覚めたのはこの辺りだ。服はジャージに着替えているが銃の携帯は忘れなかった。


「で? 昨日はお楽しみでしたか?」


 と、瞬がおきまりの台詞を言って来た。

 何だかんだで瞬も文芸部の影響を受けているらしい。


「悪いな、あの後みーんな、宴会で酔い潰れたようにスグに寝たんだよ」


「将一の場合、この三日間ずっと戦い放しだったから仕方ないわよ」


 真清の言う通りこの三日間、将一はずっと最前線で戦ってきた。

 合間に女性を抱いたりもしていた。

 将一は一般人であり、よく持った方である。


「色々と言いたい事もあるけど真田先生の所に行くか」


「そうね」


 場所は保健室となった。

 そこで真田先生を待たせてある。



「やあ、よく眠れたかい?」


 第一声がそれだった。

 デスクの机に座り、皆はそれぞれの場所に座った。


「本当は生徒達を皆体育館に集めて言おうかとも考えたんだが君達の考えを聞いてからが良いかなと思ってね」


 それだけ信頼されていると言う事なのだろう。

 これは将一達も嬉しく思った。


「その前に質問があれば受け付けよう」


「んじゃあ遠慮無く――あのゾンビ科学者はどうした?」


 将一は真っ先にゾンビ科学者について尋ねた。

 学園内で様々な化け物をぶつけ、そして自分のホームグラウンドで最終決戦を望んだ女性。

 名前は霧崎 レイラと言うらしい。


「彼女はミーミルのブレインと言っていい存在だ。そして僕の仇の一人でもある。正直復讐しようかと思ったが、君達に倒されたのがショックだったらしくてね。だから僕は見逃した」


「大丈夫なんですかそれ?」


 真清の言う通り放置して不安なのかと言う意見がある。

 逆に将一と瞬は真田 俊也の過去を知っている分、余程の状態に陥ってたんだろうなと思った。


「ミーミルは組織力は大幅に弱体化したらしいが、まだある程度の規模を維持している。ある程度のネットワークもね。この学園で起きた数々の記録、そして彼女が最高傑作と呼んだ存在との戦闘記録もリアルタイムで他の支部にも送信していたらしいが――反応は様々だったよ」


「ああ、そういやあの科学者色々言っていた・・・・・・」


 あの最後の決戦が始まった遠因は将一達が活躍し過ぎたのが原因である。


「色んな情報を纏めた結果、今ミーミルはとても混乱していて、反対派が勢い付いている。放って置いても計画の反対派に駆逐されるだろうね」


「あ~つまり間接的に組織を滅ぼす結果になったと言う事か?」


「そうなるね。余程高校生達に自分達の研究の成果が否定されたのが応えたらしい」


 何とも言えない空気になった。

 将一は実感が湧かない。

 ただただ生き延びるために行動していただけなのに全人類の復讐を果たした結果になった。

 言い方を変えれば黒幕をぶちのめしたと言う事になる。間接的にだが。

 真田先生は嬉しそうだった。


「さて、話を変えよう。いや、これが本題と言っていい。これからどうするかについてだ」


「つってもミーミルの計画だとある程度人類を間引いた後、新政府を作り上げる筈だろう? んで今ミーミルの計画の反対派が優勢で・・・・・・ん? どうなってんだ今?」


 将一は少しばかり混乱して来た。

 他の面々も似たりよったりだ。


「映画だと国連とかの特殊部隊の人達が救助して安全な場所まで運んでくれて終わりになるんだよね?」


 と、メグミが言うが。


「その前に自力で脱出した方が早いと思うわよ・・・・・・たぶん・・・・・・」


 梨子が反論する。

 梨子の言う通り、この学園には下手な自衛隊の駐屯地以上の武器弾薬が揃っている。

 移動距離の問題があるが、十分力技で突破しても構わないだろう。


「その件についてだが順を追って話そう」


「何か分かったんですか?」


「今回の一件、ミーミルはもっと計画的に行動を起こすつもりだったんだろうが、本社襲撃事件で首脳陣は慌てたんだろうね。計画を一気に前倒しにしてスタートした。それに同調して他の支部も同じ行動を取った。世界的にパンデミックが広がっている状態だ」


「考えられる限り最悪の状況だな」


 将一の一言が皆の気持ちを代弁していた。


「だが悪い事ばかりでもない」 



 夜になり、荒木 将一は東校舎の屋上に来ていた。

 傍には瞬もいる。

 学園の周囲はまだ黒い壁で覆われていた。

 自爆装置が解除され、外がゾンビだらけで、何よりも学園内のゾンビが殆ど駆逐された今となってはその方が安全だからだ。 


 自衛隊駐屯地にいた自衛隊の人達や民間人の人達もモノレール経由でこの学園に避難しており、自衛隊は避難民を助けながら死体の処理などしてくれて大助かりだ。


 ただ、武器庫を見てドン引きしていたが・・・・・・


 ともかく今将一達はやる事はなくなっていた。

 女を抱きたいと言う気分でもなかった。

 ふと思い立ってここに足を運んだら瞬もいただけの話だ。


「ここでお前から学園が爆発する事聞いてなかったらどうしてたんだろうな」


「もしもはありませんよ。ですけど貴方がいたおかげで多くの人間が救われました。それだけは確かな事実です」


「そうか」


「元気がありませんね。どうしたんですか?」


「真田先生によると、事態を収拾して以前の生活に戻るまで今のままだってさ・・・・・・まあ実写版のバイオハザードよりかはマシだけど・・・・・・」


 真田先生がもたらした情報は悪い情報ではあったが、最悪とは程遠い情報だった。

 以前の元の生活に戻るまでに数年、下手したら数十年掛かると言われているが、ずっと世紀末の様な状態になるよりかはマシだと思った。


 将一の一言に瞬は「まあそうなんですが・・・・・・」と苦笑して返した。


「その間にまた生きてる人間相手にぶっ放す時も出てくるんだろうな――」


「それは――」


 無いとは言い切れなかった。

 暫くは大丈夫だろうが、だが何れまた生存者同士で争いが起きるのは予測できていた。


 日本人は震災時などでは礼儀正しいがアレは国からの助けや援助が受けられるからであり、それにゾンビと言う要素がある。


 過酷な世界で一体どれだけの人間が正気でいられるだろうか?


「自衛隊も今は大人しいがきっと武器を取り上げに掛かってくるぜ? 正論ほざいてな。まあ心堂のクソの様な奴がいたから反論できないんだが――」


「・・・・・・これからどうするつもりで?」


「取り合えず、暫くは休んだ後、学園の外に打って出る。まだまだ物資はあるけど、平穏な時代になるまでに大分掛かりそうだし、それに闇の使徒の事も気になるしな――スマフォで連絡したかぎりだと無事みたいだが、外はゾンビだらけであんま身動き取れないと思うし、差し入れ込みで一度顔合わせに行ってくる」


 闇の使徒。

 想像通り、今も引き籠もってどうにか生き延びているらしい。

 しかし、この先どうなるか分からないし、それに真っ先に危機を知らせてくれた恩人でもあるのだ。

 だから闇の使徒を放っておくわけにはいかなかった。出来れば明日にでも状況確認のために直接確かめに行くつもりだ。


「そうですか――私は真田先生や如月さんのサポートに回ろうと思います」


「そうか――」


 学園は教師達と自衛隊の面々とで協力する形で運営する事になった。

 反論しそうなDQNドモは殆ど将一達が殺したのでいない。

 真田先生はミーミル関係者の負い目から運営のサポートに回り、実質的な代表者は如月 純夏になる。


「そう言えば城王院 紫の事はご存知ですか?」


「ああ、あの女か・・・・・・」


 将一は城王院 紫の事を傾国女と称した。

 彼女も心堂 昴の被害者らしく、そして彼の理解者でもあったらしい。


 らしいと言うのは梨子から聞いたからだ。


 どうやって梨子が知ったのか詳しい経緯は分からないが、それを知った彼女は最初殺そうかどうか悩んだらしい。当然だ。彼女のせいで心堂 昴は大暴れした挙げ句、レイプされたのだから。


 だが梨子は涙ながらにこう言った。


 「撃てなかった」と。


 どう言うやり取りがあったか分からないがそれ以上将一は何も聞かなかった。


「梨子が選んだ選択だ。俺はそれを尊重する。それに今はやたらめったら人を殺したくない気分だしな」


「そうですか・・・・・・」


 そう言って拳銃を取り出し、将一は銃口を見詰める。



 学生寮の部屋に戻ると真清や梨子、メグミがいた。


「さてと、そろそろ体力も回復したと思うし――やっちゃう?」


 ニヤニヤしながら梨子がいった。

 思考がオッサンのソレだ。


「まあ私はどちらでも構わないわ」


 真清は本を読みながらそう言っていた。


「私も――好きなタイミングで抱いて欲しいなって」


 恥じらいながらそう告げるメグミ。

 三人の中でメグミは一番マトモな反応をしている。


(木下・・・・・・ハーレムってそんないいもんじゃねえぞ・・・・・・)


 などとぶっ殺した木下の事を想いつつもどうするか考えた。 

 このままだと4Pになる。

 あの地獄を生き延びたんだからそれぐらいの褒美があってもいいんじゃ無いかと思う反面、これまでの戦いの事を映画で例えるなら今がクライマックス辺りだろう。ハーレムエンドでシメと言うのもどうかと思った。


 それに――言いたい事はあるのは確かだった。


 顔を手で隠した後、言葉を考えた末にこう言った。

 恥ずかしいので顔は真っ赤だ。


「なあ、本当に今の関係――続けるのか?」


 なるべく真剣な気持ちを保って将一は告げた。

 二人は面食らった様子だが真清は本をパタンと閉じる。


「貴方の心配分からなくも無いわ。もしも子供も産まれたら大変になるだろうし、一人一子だとしてもそれでも今の時代を生きるのは酷だろうしね」


 と、淡々と告げた。


「でも――私はそれでもいい。私は将一と一緒に生きたい。それは嘘じゃ無いわ」


 そう真清は微笑んだ。

 とても可愛らしくて思わず将一はドキっとした。


「そうだよね。でも私――こんな時代になったからこそ、自分の気持ちに嘘を付きたくないの」


「メグミに同感。何があっても私は将一の傍にいるから」


 他の二人も同じような意見だった。 


「それにね――将一、未来は誰にも分からないのよ?」


 真清がそう優しく告げる。

 これは将一が真清と初めて抱いた時に言った台詞だ。

 それを聞いて将一はある意味予想通り過ぎて恥ずかしくなってきた。


「そうだな――皆、ありがとう。俺、何処まで頑張れるか分からないけど精一杯頑張ってみる。それと――今日だけ、今日だけでも――普通に過ごさないか?」


「別にいいけど・・・・・・どうして?」


 メグミの疑問も最もだ。

 だから正直に答えた。


「そりゃ本当は今すぐにでも、その、したいと思ってる。けど、本能に任せたままの関係じゃきっとダメなんだと思う。上手く言えないと思うけど、まるで現実から逃げてるみたいで・・・・・・そりゃ過酷な現実なのは分かってる。それでも、まだ出会ってから三日しか経過してないだろ? だからその――そう言う時間を出来る限り増やして大切にしたいって思ってる」


 そう言い終えて将一は目を閉じて再び顔を手で覆った。

 シーンとなっている。

 少しの間が経過した後。


 梨子が飛び込んできた。

 続けて、「ずるい!」とメグミ、そして後を追うように真清も飛び掛かって来てそのまま四人揃って仲良く地面に倒れ込んだ。


「いてて」


 眼前には馬乗りになった梨子がいてこう言った


「やっぱり貴方を好きになって良かった――」


 続いてメグミが言う。


「私も――そう思う――」


 最後に真清がこう締めくくった。


「ちゃんと自分が言った言葉の責任は取りなさいよ?」


 将一は苦笑するしかなかった。


 選んだ選択肢は愚行であるのは間違いない。


 しかしそれが本当に良い結果になるのか、悪い結果に転ぶかは分からない。


 それでも後悔しない。


 したくなかった。


 例え世界が未だ絶望の世界であっても――


 学園とゾンビと無双もの END

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