第六話「殺るか殺られるか」

 将一達は騒ぎが一段落したため、今後の方針を話し合う為に真田 俊矢先生、加々美 瞬と場の流れで制圧した東校舎の二階を探索していた。


 以前も語ったが東校舎は副教科の為の部屋が中心だ。パソコンルーム、図書室、家庭科室、化学、音楽、視聴覚室、放送室などがある。


「しかし真田先生も瞬もよく騒ぎに駆け付けましたね」


「まあ殆ど偶然だよ。あの後、気になって足を運んだら騒ぎが起きていてね。先に加々美君もいたからどうにかなった」


「私もある程度西校舎を探って収穫を得て一先ず戻っていた矢先に騒動に巻き込まれたんですよ。バリケードの構築やらしてたら声がしたんで――その後はもう知っての通りです」


 と言いつつ四階の視聴覚室で見つけた武器庫で武器を漁る。

 使っていた弾の弾薬補充や新たな武器の調達などなど――本当にこの学園は何なのだろうと思った。


「しかし、真田先生はどうやって三階に? バリケードで封鎖されてたんじゃ?」


「東校舎の北東に業務用のエレベータ―があるんだ。カードキー式で特定の生徒か教師しか使えない」


「自分もそこからでした」


 成程と思った。

 ゾンビは多少の知能は残ってるかも知れないがカードキーを使ってエレベーターを使う知能までは無い。

 将一もあの当時はそこまで頭が回らなかった。と言うか存在自体忘れていた。


「で、瞬。そのカードキーは何処から……宮里先生からか?」


「……無断で拝借しました」


「悪かった」


 少しの間を開けて彼は答えた。ゾンビになった教師辺りから拝借したんだろうと思った。


「だけど帰る時どうするつもりだったんだ? 俺もそうだったけど、見張りとかの段取りとかせずに飛び出して行っただろう?」


「私は特殊な訓練積んでますから大丈夫です。例えば教室の窓から他の教室の窓に飛び移ったりぐらいは出来ます」


「僕もそれぐらいは出来る」


「ああうん。その手があったね」


 もう将一は呆れるしかなかった。


「さてと――疑問を解消したところで、これからどうするんですか?」


「私は一先ずここの武器を配って回ります」


「僕は保健室に戻ろう――」


「……俺は、ちょっと考えた事がある」


「何を考えたのかな?」


 真田先生が訊ねる。


「さっきの襲撃――まだ存在自体が予想の段階だが、恐らく他の生存者も標的に入ってるなら生存者を救助して回っていれば自然にぶつかるかも知れない」


 先程の襲撃で存在が示唆されている、ゾンビへの何かしらの耐性か免疫を持つ存在による復讐者の実態をハッキリさせたかった。

 出なければ夜もオチオチ寝ていられない。



 危険を覚悟して三者三様に分かれて行動する事になった。


 加々美 瞬は今度は東校舎の警備に当たる。


 真田 俊也先生は保健室に戻り、同時にバリケードの強化を行うと言った。 


 そして危険な校内探索を将一がやる事になった。無茶は厳禁と言われたが他の二人も一般人だとかどうとか言ってられない状況だと判断しているのか、単独で生存者探しを行うのを認めた。


「さてと――行くか」


 取り合えず屋上に向かう事にする。生存者が生き残っている場所の定番は大体そこだ。

 ルートだが東校舎の二階から西校舎に行き、更にそこから教室の窓から隣の教室の窓に渡って移動し、防火扉をスルーして潜入。そして危険地帯に踏み込む事にする。瞬が教えた方法を実践する形である。


(窓を開けて――んでそこから……)


 防火扉前の教室に入り、そこから窓を開けてスペースがあるでっぱり部分に足を置く。

 教室との間と間にはスペースがあり、武装した銃器などで重量を感じるが、二階と言う高さやその感覚が想像以上に狭かったのもあり、楽に飛び移れた。そしてそこから行ける所まで行った。


(どうにか端まで到着したが……)


 ふと外を見渡す。

 やや遠くに聳え立つ黒塗りの壁。

 黙々と昼の空に上る煙の数々。

 学園内を闊歩する様々な衣装のゾンビ。


 銃器がなければ正直三日を迎える前にくたばっていた事だろう。 


(ここまでが限界か)


 東校舎は上から見た場合、完全な一文字のラインではなく、途中にヘコミがある。

 そこには足場がなくガラス張りの壁がある。その窓を割って入る事も考えたが音を立ててゾンビを招きたくないのですぐ傍の教室に入る。

 一応中の様子を慎重にうかがう。


(ゾンビだらけだな……)


 上級生のゾンビが闊歩する教室になっている。

 臓物を食われ、四肢をもがれて呻き声を上げるだけの奴までいた。

 ふと仲の良かった部活の先輩の事を思い出したがどうしているだろうかと考えた。

 殺しても死ななそうな雰囲気だったが、人間やはり死ぬ時は死ぬのだ。


(数自体は少ないな――)


 窓を静かに開けてサプレッサーの拳銃を取り出す。今回は更にスコープとレーザーポインターも付いたモデルを使用。

 レーザーポインターは敵に位置を知らせてしまう危険性があるため、実用的ではないと言う意見もあるのだが、相手はゾンビなので気にはしていない。

 頭にレーザーを当て、スコープで覗いて打ち抜く。


(やはりゾンビが近付いてくるな――)


 サプレッサーは音を消す道具ではなく、抑える道具だ。

 離れた場所にいたらしいゾンビが近付いてくるが落ち着いて頭に狙いを定めて銃を発射する。

 こうなってしまえば射的ゲームと同じだ。


(安全確保確認っと――)


 数は丁度十体だったので手早く制圧出来た。次の場所へと移る。

 やはり二階の危険地帯――西側全域はゾンビが闊歩している。

 とにかく周囲を気を配りながら最低限のゾンビを倒して行動する。


 屋上へのルートは一つ。

 一番西側の階段からしか行けない。

 屋上は大抵閉鎖されているがこの学園の場合は解放されている。

 治安の目が届いているので東校舎の非常階段みたいな状態ではない。


(そういやあの武器庫どうなってるんだ?)


 ふと体育倉庫の武器庫がどうなっているか気になった。

 現在二階の奥、距離も目と鼻の先だ。

 激しい銃撃戦で周囲のゾンビを引き寄せて一旦は全滅させる形になった。ゾンビが集まることを鑑みて、出来る限りの銃器を持って急いでその場から立ち去ったが今はどうなっているのだろうか? 


(ともかく、行ってみるか……)


 そして気紛れにも似た感覚で足を運んでみた。


(……地獄絵図だな)


 体育館と西校舎を繋ぐ連絡通路から視界に収める。

 今も墜落したヘリコプターは燃え盛っており、そしてゾンビだった頭が吹き飛ばされた死体がそこかしこに倒れ伏している。もう中東だかどこかの大量虐殺の跡地だ。 昼過ぎの強めの太陽光が降り注ぎ、肉が焼けた異臭(炎上しているヘリコプターに近寄って燃え尽きたゾンビだったモノ)が辺りに漂っている。

 時間が経ったせいなのか歩いているゾンビは見当たらなかった。


「テメェ何勝手に人様の武器を持ってんだよ!」


「死にてぇのかああ!?」


(うん?)


 生存者なのだろうか?

 辺りを見回し、おそるおそる体育館の連絡通路越しに様子を伺う。

 体育倉庫の前で何やら三人が言い争っていた。


 三人とも銃器で武装しており、二人のグループと一人のグループとで別れている感じで一人の方が武器庫に繋がる体育倉庫前で陣取っている。


 二人の方は重火器で出来るだけ身を包みましたと言った感じで武装を固めているのが特徴で人相も柄が悪い。ピアスして髪の毛もワックスなりなんなりでセットして制服も着崩していてファッションに力を入れている感じだ。


 対して一人の方は将一と同じくタクティカルベストに身を包み、ヘルメットを付けて顔は分からない様になっているが爪先、指先に至るまで戦闘用の衣装に身を包んでいる。背中には先端に楔形の物体が付いた棒きれの様な形状をしているRPG-7、ロケットランチャーを背負い、コンパクトなアサルトライフルをぶら下げて両手にはハンドガンを握っていた。背丈はやや小さく遠目で分かり難いが小太りなシルエットに感じた。


(時間が経って誰かが見つけて占拠して、んでまた誰かが見つけて武器持ち出してケンカになってるって感じか……)


 難聴になりそうなぐらい、あれだけ派手に銃声響かせてドンパチしたのだ。

 他の生存者がいて武器庫を見つけても別に不思議な話ではない。

 何せ殲滅した後、急いでその場から離れて去って解放しぱなっしになっていたのだから。


(さてどうするか……)


 正直あんまり関わりたくはなかった。とばっちり受けて死ぬのはごめんだからだ。

 それに誰が東校舎を襲った謎の襲撃者なのか分からない状況で安易に生存者と接触するのも危険でもあるからだ。


「ウルサイ!! ウルサイ!! 俺は、俺はずっとこの日を待ち望んでいたんだ!!」


(はあ?)


 ガチガチの重武装で身を固めた小太りの、声からして男が言った。

 この地獄を待ち望んでいた? 何を言ってるんだこいつは? 心の底からそう思った。


「何言ってんだこいつ――」


「ちょっと待て、こいつ木下きのしたじゃねえのか?」


「ああ、あの木下か?」


(木下? もしかしてあの木下か?)


 二人の方も、将一にも心当たりがあった。

 暗い地味そうな小太りの男で顔もブサイクで言葉の喋り方も良く分からない野郎だ。中学時代の時はパシリやっていたが、高校時代でも変わらずヤンキー連中のパシリやっていたようだ。


「なんだ、脅かせやがって」


「で、子豚ちゃんがゾンビ、ましてや人なんか撃てるのかよ?」


「お前に銃は勿体ねえよ。大人しくゾンビの餌になるんだな」


 相手の正体が分かった途端、手の平を返したように笑い始めた。

 対して木下は何もアクションを起こさない。それをどう受け止めたのかヤンキーの一人が銃を取り上げようとしたが――


「触るな!!」


 銃声が響き、ヤンキーが倒れた。


(あいつ撃ちやがった!?)


 木下は銃を撃った。

 肩を押さえて呻き声を挙げている。

 そしてもう片方のヤンキーは慌ててアサルトライフルを向けた。


「て、テメェ!! 子豚の分際で!!」


「いてぇ! いてぇよぉ!!」


 一触即発どころか直にでも銃撃戦が始まりかねない状況に陥ってしまった。


「おい! 何が起こった!?」


 銃声を嗅ぎ付けたのか体育館南側から三人程仲間がやって来る。二人側の連中と同じ様な背格好で銃で武装している。中にはロケット砲を背負っている奴までいる。


(何人いるか知らんがあの状況でよくまあこれだけ生き延びたな……)


 どっか安全地帯に引き籠って偶然銃器を見つけたとは、将一自身運が良い展開だと思っていたが奴達は自分以上に相当運が良い、正直不公平に感じた。


「うわぁああああああああああああああああああああ!!」


 木下が発狂して出鱈目に銃の乱射を始めた。

 ハンドガンを撃ちまくり、至る所に弾が当たって何発かは近くにいた奴や駆け付けて来た奴に弾が当たる。


(俺もあんな感じだったんだろうな……)


 今の木下の心理状況は分かる。ただただ死への恐怖が木村を凶行に走らせているんだろうと瞬時に理解した。


 死んだかどうか分からないが近くにいたヤンキー二人と駆け付けて来た一人のヤンキーが倒れている。残った二人は物陰に退散した。


「俺は! 俺は解放されるんだ! 腐った人生から解放されるんだ! あいつら殺して、ゾンビ殺しまくって、救世主になって! ハーレム作ってうひゃひゃひゃはははははははははははははは!!!」


「どんだけ心に闇を抱えてたんだ木下君……」


 何だかとんでもない事を口走っている。誰が見ても正気じゃない。あのまま放置していてもハーレム築くどころか銃弾尽きてゾンビの餌になるのがオチだろう。それに今下手に関わると片方の勢力に、最悪両方から銃口を向けられかねない。


(ゾンビも来始めたな……)


 連絡通路の体育館側から。そして銃撃が鳴り響いた体育館と西校舎のスペースを挟み込むようにゾンビが群れを成してやって来る。

 サプレッサーを付けずに・・・・・・いや、付けていたとしても結果は変わらなかっただろう――十数発以上も乱射すれば引き寄せられると言う物だ。

 当初の予定通り屋上へと向かおうとその場を後にした。


 残酷なようだが、どう考えてもこの事態を収拾出来る気がしないからだ。


「もういや! 誰か助けて!!」


「ッ!?」


 女の子の声が聞こえた。体育倉庫の方からだ。二人組で容姿は良く分からないがともかく生存者がいるのは分かった。


「テメェ子豚の分際で女を隠してたのかよ!」


「こいつはいい!! テメェぶっ殺して俺達でマワしてやるよ!!」


 あの至近距離からの乱射でチンピラ三人はどうやら生きていたようだ。体の彼方此方から血を流しながら

 他の二人はゾンビを見て慌てて銃を発砲し始めた。通路正門方面、北側の量はまだマシだが南側の方の物量が厄介だ。


(考えてる時間はねえ!! ともかく体育倉庫に行かないと――)


 体育倉庫に呪われているのだろうか。

 再び体育倉庫前での死闘が始まった。

 少し戻って建物の壁沿いに作られた階段の方に向かい、急いで一階まで降りる。階段の影に隠れながら再び様子を伺う。


「俺は不死身だ!! GODだ!!」


 そう言って木村はRPG-7ロケットランチャーを発射した。

 向かって来たゾンビが大量に爆発四散する。

 爆風の光と熱風で将一はその場にしゃがみ込む。


 近くにいたゾンビも纏めて数十体単位で何もかも肉片に変える。チンピラ達もより一層激しく銃を乱射し始めた。せめて周囲にゾンビがいないのを確かめて乱射して欲しい。音によって引き寄せられてきたゾンビが巻き添え食らってばったばったと倒されていく。流れ弾で死んだゾンビは五十体以上先はもう将一もカウントしてない。


(何が悲しくてこんな修羅場に飛び込まなきゃならねえんだ……)


 ピンを抜いて何かを投げる音がした。木村は手留弾を手当たり次第に投げ始めた。


「うぇへへへへへへ!! うぇっへへへへへへへへ!! さいっ! こうだぜ!! ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!」


 爆音に次ぐ爆音。洋画の激しい銃撃シーンを濃縮した様な大惨劇だ。


「ううん? お前も銃を持ってるじゃないか!?」


「お、おう――」


 此方を見つけて語り掛けて来た。内心滅茶苦茶恐かった。ゾンビとは別方面での恐さだ。


「お前もこの気に乗じてヒーローになりたいんだろ!? ハーレム築きたいんだろ!?」


「いや、今は生き残るので精一杯です、はい」   


「そんな事言うなって。お前も本当は女とヤリてえとか思ってるんだろ!?」


「ま、まあ男の子ですし、そう言う考えは無いと言えばウソになるかな~?」(*将一の日記参照)


 取り合えず目線を泳がせながら正直に答えておいた。


「だけど体育倉庫の女達は俺のもんだ!! 誰にも渡さない!!」


「おいおい、女の子を物扱いって酷くないかな?」


「ははは君も甘いな!! どうせあいつら顔が良くて男をATMに出来れば誰だって股を開くんだ!! 俺は金の代わりに命張って戦ってるんだ!! だったらセックスしてもいいじゃないか!!」


「言ってる事滅茶苦茶じぇねーか!?」


「んだと!?」


(あっ、何時ものノリでツッコミ入れちゃった――)


 何なのだろうか。このドンドン深みに嵌っていくこの展開は。


「誰にも渡さない!! 誰にも渡さないぞ!!」


「うぉ!! あぶね!?」


 銃を腰溜めに構えて発射して来た。

 条件反射で飛び引いてハンドガンを相手の軍用タイプと思しきヘルメットに打ち込む。


 だが辺りが浅くて致命傷にはなってない。

 もっと強力な重火器が必要だ。


「あの豚ぁ!! 調子に乗りやがって!!」


 まだいたらしいチンピラの一人が銃を乱射する。

 だが片手で禄に構えずにトリガー引いているので銃弾は明後日の方向に飛んでいく。


「手前も豚の仲間か!?」 


 他のチンピラが将一に銃を向ける。

 制服の彼方此方が赤く滲んでいるが目が血走っていてマトモなのかどうか怪しい状態だ。


「いや、無関係だよ!? ただ体育倉庫にまだ生存者がいるから――」


「ハッ、お前も女目当てかよ!! アレは俺達のもんだ!!」


「だからどうしてそう言う発想になるんだ!?」


 走って逃げながら銃をテキトーに撃ち返す。


「テメェ! 殺す気か!?」


「お前が先に撃って来たんだろう!!」


 罵り合いながら取り合えず階段裏の陰に隠れながら反対側から迫り来るゾンビの頭を射抜く。


 木下のロケットランチャーや手留弾爆撃で集まって来た五十体以上の数のゾンビが撃破されたがそれでも一時的にだ。また溢れ返るのも時間の問題だろう。


(それまでに決着付けて脱出したいが……)


「ヒャハハハハハハハ人生で一番ハッピーな気分だ!!! ヒャハハハハハハハハハハハハハ!!」


(とにかく木下の奴をどうにかしないと収集つかない!!)


 完全に錯乱状態だ。今はアサルトライフルに持ち替えて乱射している。

 チンピラの声が聞こえない。たぶん死んだか逃げたのだろう。

 これでゾンビと木村の三つ巴になった。


(!! まだ手榴弾弾持ってたのか!!)


 物陰に手留弾が投げ込まれる。

 その場から急いで走った。視界に入ったのは銃を構えた木下だった。


「ショットガン!?」


「うぉおおおおおおおおおおおお!!」


 サプレッサーピストルから背中に抱えていたショットガンに持ち替えた将一は走りながら出鱈目に乱射した。直撃したかどうかは分からないがともかく発射した。


「うわあああああああああああ!!」


 背後で手留弾が爆発。

 やや吹き飛ばされて倒れ込む。


「はあ……はあ……あの野郎は……」 


 息もキレキレになって、周囲を見渡した。周囲はもう酷い。酷過ぎる状況だ。耳もキーンとしている。

 人体のパーツが彼方此方に散乱し、それでももがいたり起き上がろうとするゾンビ。


 木下はショットガンの一撃が効いたのかヨロヨロと立ち上がった後、何処かに素早く消えていった。


 チンピラ達はゾンビに噛まれて断末魔を挙げて最後を迎えている。片腕を失ったチンピラは虚ろな目で自分の片腕を持って何処かに消えていった。最後のチンピラは分からない。大量の死体だった何かと混ざってしまったのかあるいは逃げたか――他の連中は逃げたのだろう。誰だってあんなキチガイ染みた場所に留まりたくはない。


「ともかく――体育倉庫に向かうか……」


 今度会った時はぶっ殺すと心に誓いながらも、将一はヨロヨロとよろめきつつ体育倉庫に足を運ぶ。


 そこで見付けたのは二人の女子生徒だ。先程までの惨劇を覗いていたせいか怯え切っている。

 二人とも可愛らしく大人しめの女の子と言った感じだ。


 短いサイドポニーの首の後ろまで伸びたヘアースタイル。目がパッチリ開いてて体付きも年相応と言った感じだろう。手には拳銃を握っていて此方に向けている。


 もう片方の女の子は手入れが行き届いたセミロングヘアーで大人びた感じの可愛らしい女の子。胸も大きめだ。目もややキツめな感じでちょっと近寄り難い雰囲気を出していた。


 二人の視界を確認した後、ちょっと倒れ込む様に体育倉庫へと入った。

 ろくに遺体の処理もされていない酷い環境下で二人はマットを敷いてそれに座ってこの状況を耐え凌いでいたらしい。もう弁護のしようもない拉致、監禁状態だ。 


「あの……大丈夫か?」


「う、うん、何とか……」


 サイドポニーの子が拳銃を向けながら喋る。


「それよりも外の状況は? 学校はどうなってるの?」


 もう片方の子が不安げに問いかけた。


「それよりも必要最低限の武器持って此処を離れるぞ」


 二人を無視して武器庫の方に歩み寄る。


(かなり持って行かれてるな……)


 かなりの人数が持ち出したのだろう。四分の一ぐらいしか残ってない。

 それでも武器、弾薬の補給や二人に最低限の武装をさせられるぐらいの量は残ってる。


「取り合えず、これとこれとこれを――サプレッサー付きの奴を持ってけ。後予備弾薬も忘れずに」


「あの、私達を助けに来てくれたんですか?」


 拳銃を降ろしてサイドポニーの女の子が訊ねる。


「あ~どう受け取って貰っても構わない。とにかく一旦保健室か東校舎を目指すぞ。そこに知り合いが武装して生存者達と一緒に立て籠もってる」


「私達以外にも生存者が!?」


「ああ、運が良かったんだよ――んで今生存者を探して回ってるんだが――まさかあんな奴達まで現れるのはチト計算外だった」


「そうよ。行き成り、銃を突き付けて来て――」


 その時の事を思い出したのか、気の強そうな少女が憎々しげに呟く。


「あの、私達も付いて来ていい?」


「ちょっと、メグミ!? 本気なの!?」


「私は本気だよリオちゃん」


「また危ない目に遭うかも知れないのに!?」


「もう好きにしてくれ……疲れた。後大声出すな。ゾンビに気付かれる」


「う、うん」


 こうして三人はこの場を後にする。   

 今回の一件は将一の心に深い影を刻む事になった。


 未だ姿を見せないゾンビ以外の化け物。


 謎の襲撃者。


 そしてこの気に乗じて暴れ狂う人間達。


 蠢く死者達。


 この学園は地獄の牢獄なのだろうか。

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