第二十五話「終わりの始まり」

 あの後、暫くしてから生存者を奇跡的に発見出来た。

 男子生徒、女子生徒、女教師が纏めている。

 彼達によると激しい銃声音や爆音が心の頼りだったらしい。


 気持ちは分からないでも無いが――現在の学園の状況を聞いて再び彼達は絶望する事になったが一先ず安堵する事になった。


 ずっと化け物やゾンビなどに囲まれていたせいか消耗しており、一先ず装甲車を使って学園に戻るように命じた。


 女教師は運転自体は出来るので彼女達に任し、武器を降ろして去って行った。


 女子三人が護衛に回り、瞬と将一の二人となる。


 ある種の黄金コンビである。


 瞬は時限装置の解除に必要なので残る。

 将一は一旦戻る事も考えた。

 瞬の要請で残る事にした。曰く「また化け物が現れたらよろしく頼みますよ」との事らしい。

 遂先日まで普通の高校性だった少年にそんな期待をされても困るのだが生憎実績があるので将一としても断りずらかった。


 梨子はブーたれていたが、避難誘導するメンバーはなるべく多い方が良いとの瞬の判断や将一の説得で渋々と乗っていった。


「で? 特別校舎は何が起きたんだ?」


「一応体育館や保健室に特別校舎から来た生存者もいましたからある程度の事情は聞いてますが、詳しい事情はさっき彼達から聞けました」


 二人とも銃を向けながら特別校舎内を探索する。

 比良坂学園の特別校舎は学園の中を歩いていると言うよりリゾートホテルの中を探索しているようだった。

 彼方此方に惨劇の後がなければ嫌味タラタラと独り言を呟いていただろう。


「で? どう言う事情だ?」


「まず一日目ですが、避難訓練と言う名目でシェルターに避難誘導をしていたようです」


「武器庫や戦車、ロボットの次はシェルターか。もう何でもアリだなこの学園」


「そうですね。ともかくそこにゾンビが襲来し、シェルターの中への避難を行っていたようです」


「じゃあシェルターの中にも生存者が?」


「シェルターの構造は分かりませんが、何度呼びかけても応答はありませんでした。開けない方が無難でしょ・・・・・・」


「・・・・・・避難途中に噛まれた奴が紛れ込んだパターンか?」


「そう考えるのが自然ですね」


 避難した場所でゾンビに噛まれた奴をどうするか。

 最初にして最大の難題だ。

 対処が遅れれば被害が拡大して全滅する。


 そもそもゾンビが襲来したなど彼達も思いもよらなかっただろう。

 生存者は運良く逃げ遅れた人達が寄り集まった集団だ。


「で? 内部争いは?」


「ゾンビの数が多過ぎて殆ど身動きが取れず、それどころでは無かったようですね。度重なる戦いによる銃声などでどんどん自分達がいた校舎の方向、つまる北側に流れて行き、そして駐車場の格納庫前の戦いで殆ど掃討出来たからこうして進入出来たわけですし」


「成る程ね――」


 心堂 昴との戦いを思い出す。

 あの時に大部分のゾンビを掃討する事が出来た。

 しかし安心は出来ないと言うのが現状である。


「先程倒した化け物の様な存在まで徘徊している始末でその結果、校舎内に息を殺して立て籠もっていたようです。見た感じかなり消耗していましたね」


「ああ・・・・・・ふと疑問に思うんだが、一日目の時結構派手に爆音鳴り響かせていたんだがどうして特別校舎側のゾンビは北側の俺達の校舎へ一斉に向かって来なかったんだ?」


 今更になってとても気になった。


「推測なんですが、ゾンビ化する事で感覚器官が鋭敏になり過ぎて、難聴状態に陥ったのでは無いかと思うんです」


「なんつーかご都合主義過ぎやしないか?」


 銃弾の音。

 種類にもよるがサプレッサーなどを付けずに発砲した場合とんでもない大音量が響き渡る。

 アサルトライフルでフルオートなどすればそれこそ暫く耳が使い物にならないくらいに。

 ゲームでそれを再現しようとすれば間違いなく難聴者が続出するレベルである。

 だから兵士達は耳栓や部隊間の仲間で会話のやり取りをする無線機、本部の指示に従うための通信機などが必須アイテムになる。


 瞬の仮説を信じれば成る程、辻褄はとても合うと思った。

 難聴状態になる事で獲物の方向が分からなくなったと言いたいのだ。


 ご都合主義が過ぎると思うもしたが、実際それぐらいしか説明しようが無いのが現状である。 


「それにゾンビを食らう生物も徘徊してましたし・・・・・・」


「ゾンビゲーの金字塔に出て来るみたいな奴も現れたよな。正直昴のロボットより強かった気がするぞ」


「そうですね。と、ここがそうですね」


「ここが極秘施設への地下通路か?」


「みたいです」


 校舎と同じくエレベーターを使うらしい。


「これでまあ一段落か・・・・・・映画やゲームだと、残り数分ぐらいでようやく辿り着いたり急にカウントダウンが早まったりしたりするもんなんだけど」


「それは流石に笑えない冗談ですよ将一君」


 そう言ってエレベーターに乗る。



 そうして目的地のコントロールセンターに辿り着く。

 正直、またエクスキューショナーだか先程戦ったけむくじゃらの化け物ともう一戦やり合う事を覚悟していたので些か拍子抜けだった。


「なんつーか本当に秘密基地っぽい場所だな?」


「そうですね」


 天上が高く、真っ白な空間。

 幾つもの端末やモニターが並び、一番奥には映画館のスクリーンの様なモニターがある。

 そこには自爆装置のカウントダウンらしき物が刻まれていた。

 まだまだ時間に余裕がある。

 早速瞬は自爆装置の解除に取り掛かった。


 将一は念の為、周囲を警戒する。


「たったの三日間だったのに随分長い間戦った気がするな・・・・・・」


「ですがそれで済んで良かったです。本当に幸運が幾つも重なった結果ですよ。でなければ三日以内にここに辿り着く前に我々は死んでいた可能性もあります」


「そうか・・・・・・」


 確か瞬の言う通り本当に幸運だった。

 最初に瞬に助けられ、そして事件の黒幕であるミーミルの職員に助けられて武器庫を発見し、真田先生などの協力者を得る事が出来て、更に生存者の皆殺しを目論んだゾンビを操る能力者である南 静香を早い段階で倒す事が出来た。

 他にも運が良かった要素は幾つもある。

 何はともあれこれで一段落――


 そう思った矢先だった。


「・・・・・・少々不味い事態になりましたよ」


「ん? なに? アクセスでも受け付けないとかか?」


「ええ――正にその通りです」


 ふと日記帳状態になっているスマフォが鳴り響いた。

 時折謎の人物からメールが来る様になったがもしかして――と思う。

 しかも通話だ。

 スマフォを耳に当てて出る。


「もしもし?」


『こうして直接話をするのは初めてだな』


 聞き覚えの無い女の声だった。


「あのメールの差出人か?」


『そうだ』


「自爆システムのアクセスを防いでいるのはお前か?」


『ああ』


「何故だ?」


『私の研究成果は世界を変える筈だった。だが・・・・・・たった一人の何の変哲も無い・・・・・・・いや、もはやその例えは不要か。謎の少年の手で覆されようとしている』


「何が言いたい? ミーミルの人間か?」


『そうだ。ミーミルの過激派と言えばいいかな?』


「過激派・・・・・・」


 なるべく平静を装いたかったが怒りの炎がメラメラと燃え上がって来た。

 ミーミルの過激派。

 ミーミルの目的はゾンビを使った人類の間引きっと人類社会の再建である筈だ。

 だがそれに両勢力に別れて対立し、そして一日目の前日に起きたビルの爆発事件、実際は反対派と計画を察知した世界中の工作員の合同作戦と思われるが――が起きた筈だ。

 それが原因で計画を早め、今の状況になった筈である。


『私達の組織力を持ってすれば人類社会の再建をするのは容易い。だが問題がある』


「問題?」


『どうやって人類を管理し、運営するかだ』


 話が嫌な流れになっていっているのを感じた。

 だが流れに乗らないと話は進まない。


『どうせ再建するなら考え得る限りの理想の政府にしたいだろう? ならばどうすればいいか? 人類の共通の敵を作るのさ』


「言いたい事は良く分かった。ゾンビや化け物達を核兵器の代わりにすると同時に、人類同士の争いを防ぐためにゾンビや化け物を仮想敵にするつもりなんだろ?」


『理解力が早くて助かる』


 反吐が出る程の最悪なプランだと思った。

 同時に効率的でもあると思った。

 だがこの理論には穴がある。


「なにが人類の再建だ!? テメェ想像力が欠けてんじゃねえのか!? 本気でゾンビ達や化け物共を制御出来ると思ってんのか!?」


『散々その化け物を殺して来た人間が吐く台詞とは思えんな――だが良い指摘でもある』


「あ?」


『確かに生物兵器は制御し辛いと言う欠点がある。それは覆しようが無い事実だ。それに――君達が大暴れしたせいで自分達の作品に疑問を抱き始めている』


「どう言うことだ?」


『武器の恩恵があったとは言え、ただの高校性如きに殺される生物兵器は必要か不要かと言う事だ』


「はっ、確かにな。お前達の研究なんざその程度のもんだって事じゃねーのか? んでどーするつもりだ? 研究続けてもっと強い生物でも作るか?」


『そうだ』


「で? その為にも俺を殺すか? だったら自爆装置をさっさと作動させろ。そうすりゃアンタの勝ちだろう」


『・・・・・・』


「何を悩んでるんだ?」


『貴様の存在を認めるわけにはいかない。私は生物兵器を作り続けなければならない。だから私の作品で排除する。来るがいい場所はミーミルの本社ビル、地下の機密エリアだ』


「行かなかったらどうする?」


『自爆装置を作動させる。私の指示に従えば起爆は解除する。ただし離脱したら起爆させて私の作品達を町中にばらまく』


「上等だ。こっちから乗り込んでケリ付けてやるよ」


 そうしてスマフォを切った。

 モニターを見ると自爆システムのタイマーのカウントダウンが止まっていた。



 瞬に事情を説明した。

 話の内容を理解したのか深刻な顔をしていた。


「成る程、厄介な話になりましたね」


「女性の科学者で相手に心当たりはあるか?」


「ええ、霧崎 レイラ――重要人物として世界各国からマークされていました。優秀な科学者であると同時にミーミルの重役であり、同時に我々が遭遇した生態兵器の開発に関与していました」


「で? 行くんですか?」


「ああ、それにあのビルまだ化け物がウヨウヨしているらしいんだわ」


「なら尚更――」


「だからこそ始末しなくちゃなんねえだろ。何れ放って置いても何時かビルから出て来る」


「だからって一人で全部背負い込む事がありませんよ?」


「追いて来る気か?」


「ええ」


「まあ人数の指定はしなかったし、別にいいか――死んでも文句言うんじゃねえぞ。後俺が死んだらあの3人の面倒任せられるか?」


「それはお断りですので死んでも生き延びてください」


「そっか」


 そうして二人はコントロールセンターを後にした。

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