第二十九話「神を殺す者達」


 真田 俊也と如月 純夏のペアは自衛隊駐屯地に辿り着いた。

 案の定ゾンビだらけである。

 自衛隊ゾンビや避難民と思われるゾンビも混じっていた。


 二人とも目にしたパターンだ。

 避難民の中に感染者が紛れ込んだか、もしくは自衛隊員が状況も分からずに噛まれてそのまま放置してゾンビ化したか、あるいは両方か・・・・・・

 それでも生き延びた民間人、自衛隊員はいて感謝されたが放置して手早くレーダーを無力化する事にした。  

 ただレーダーへの電源を落とせばいいだけであるので楽だった。


 それでスマフォなどの通信機器が使えるようになった。

 まだ事件から三日して経過してないのが幸いだったかも知れない。

 だが今の状況が使えばやがてまた使えなくなるだろう。


 ネットニュースなどでは都市部が壊滅状態になっているらしい事が分かった。

 政府は「ただ救助が来るまで国民は外に出歩かないように」としか言ってなかった。

 その裏で政府関係者は安全地帯まで逃げ延びているがアリアリと分かるが、彼達がいなければこの災害の復興がままならなくなるのは事実だ。

 上手くシビリアンコントロール出来たらの話だが――


 そこで真田 俊也のスマフォからコールが鳴る。


「アンナさん――荒木君の友達から電話が来た」


「番号交換していたのか?」


「もしも使えるようになったらと思ってな」


 そしてスマフォに出る。

 暫く話し込み―― 


「なんだって?」


「どうした?」


「ミーミル本社の地下施設に突入したらしい――研究員の生き残りに目を付けられて学園を人質に決闘を申し込まれたらしい」


「それは本当か?」


「ああ――」


 あまりにも無謀とも思える行為だ。


「せめて私達が帰るのを待ってからにすれば――」


「いや、相手の性格が分からない。あんまり大人数で押し掛けると何かしらの手を打ってくる可能性はある――」


「しかし」


「ともかくミーミルの本社ビルに急ごう」


「分かった」


 そして二人は動き出した。



 その頃瞬達は命懸けでエクスキューショナーと戦っていた。

 爆発物も大口径の武器(と言ってもリボルバーだのデザートイグールだののハンドキャノンレベルの武器だが)も惜しげも無く使っている。


「こうして戦ってみると信じられない程にタフだね!!」


「よくこんな化け物前回倒せたよね!!」


 真清は毒づき、メグミは泣き言を言いながら応戦する。

 前回は戦車の重火力を得られた部分が大きい。

 だが今回は違う。手持ちの武器で応戦しなければならない。


「銃撃音でゾンビが――」


「何かトカゲまで来てるよ!?」


 ワラワラと戦闘音に引き寄せられて湧いてくる。

 軽く絶体絶命の危機であるが――


『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』


 エクスキューショナーは咆哮を挙げてゾンビだろうが怪物だろうが無差別に攻撃を行う。


「こいつ――暴走しているみたいですね」


 と、冷静に瞬が分析した。

 エクスユーショナーは暴れ狂っていてもう手が付けられない。

 爆発に次ぐ爆発やらでコートが破れてエグイ体を晒しているがそれでも一向に死ぬ気配がない。

 逆に攻撃を与えれば与える程、元気になっている錯覚すら陥る。


「で? どうする? 放っておくの?」


「僕が引きつけます! 二人は急いで――今将一が戦っている相手の弱点とか、部屋へのロックの解除の仕方とか――ともかく将一君達の生存させるだけの事を考えてください!!」


 と、呼吸を入れずに矢継ぎ早に指示を飛ばす。


「でも」


「今は一刻を争う状況なんです! 急いでください!!」


「行くわよメグミ!」


「え、でも」


「メグミ!」


「ヒッ!」


 そう言って真清はメグミを引っ張ってその場から退散する。


「ごめんなさい」


「カシにしとくわよ」


 去り際に真清は瞬に答える。


「ちょっと、良いの?」


「いいわけ無いでしょ!? だけどアレが最善なのよ! 特に今は!」


 そう言ってデタラメに施設内を走り回る。

 怪物の死骸やら遺体やらがそこかしこに転がっていた。

 とても普通の殺され方をしてない死体もあったがそれはエクスキュ―ショナー辺りがやったのだろう。


「ともかく研究室か何だかのデーターベースか――アクセスして情報を集めないと――」


「わ、分かった――」


 そうして二人は駆けずり回る。


☆ 


 その頃、将一と梨子は必死に戦っていた。

 幾ら攻撃をぶち込んでも死ぬ気配が全くない。

 それどころかドンドンパワーアップしていき、バトルフィールドはもう廃墟と化していた。

 正直埒が明かないと思った。


「読みが当たったわね」


「ああ、嬉しくないけどな」


 同時に将一の読みは当たっていたと言っていい。

 流石最高傑作と言うだけある。


 善戦しているが決定打は現状与えられていない。

 まるで神話の生物をデタラメに融合させたような怪物は猛攻を咥えてくる。炎や電撃、液体、肉弾戦、女性の胴体上の頭部の双眼からレーザーまで発射して来た。

 だがその猛攻の御陰で脱出口が出来たのはありがたかった。   


 もっとも、背を見せればヤラれるので戦い続ける他無かった。


「中央の女性の部分だけ変化が無いみたいね」


「あれがアイツの本体なんだろう――あそこが弱点ぽいけど、もう何百発も鉛玉撃ち込んでるし――それに段々と人の原型無くなって来てクトゥルフ辺りに出て来る生命体になって来てるんだが」


「どうする? 一旦体勢を立て直す?」


「いや、最後のパーティーだ。トコトンまで付き合ってやるさ。」


「そう――」


 そして二人は飛び込んで行く。

 武器は半分以上消費した。

 それでも戦い続ける――



 真清とメグミは研究施設に辿り着いた。

 途中ゾンビ達の妨害もあったが、それよりも恐ろしい化け物を目にして来たのだ。

 今更ゾンビ程度で恐がってられない。


「真清さん、よく案内板覚えてたね」


「まあね。覚える事が取り柄みたいなもんだし」


 そう愚痴りながらコンピューターにアクセスする。

 部屋は純白で様々な高級そうな機材が立ち並んでおり、何に使うのか不明な用途の物が多い。

 腐ってもミーミルは世界規模の会社だ。それの秘密施設の研究施設となればこうもなるだろうと真清は思った。


「エグイ死に方してないわね。銃とかで射殺されてるこの感じ――襲撃を受けたのね」


 端末を操作しながらも不自然な点が多くあった。

 真清の言う通りエグイ死に方をしてないのだ。

 比較的人間らしい死に方をしている。

 特に頭部を打ち抜かれていない人間が多いのも特徴だった。


 これから導き出される答えは一つ。

 武器を持った人間達による襲撃を受けたのだ。


「将一君達が逝ってたミーミルの反対派と賛成派とかで殺し合ったのかな?」


「たぶんね・・・・・・今はそんな事を言ってられないわ」


「て、真清ちゃんデーターベースにアクセス出来るの?」


「普通なら出来ないわよ。だけど襲撃するためにハッキングしたりしてパスワードが破られたりしてそのまま放置されてたみたい。ついてるけど――」


「けど?」


「あの斧持ったグロテスクな化け物とかを一撃で倒せるようなアイテムが中々見つからない」


「えーとこう言う時どうすれば良いのかな?」


「ウイルスを研究して生物兵器に転用してたのよ。それにミーミルの計画はそれを使った人類の間引き。ならワクチンなり何なり開発している筈よ。今それを探しているの」


「え? もっとこう強力な兵器とか必要なんじゃ――」


 将一を助けるためにここに来たのだ。今はワクチンを探している暇はない。

 真清はハァとため息をついた。


「ゾンビにワクチンを入れたらどうなると思う?」


「え? それは――」


「たぶん元には戻らないかも知れないけどゾンビからただの死体に戻る可能性が大よ。その可能性に賭けて今探してるんだけど、情報量が膨大でそれが見つからない――」


「そ、そう」


「これも違う、これも、これも――」


 それらしいファイルに目を通していく。

 真清はとても焦っていた。

 体全体がおかしい。

 気がどうにかなりそうだった。


 そして――


「あった!! ワクチンの保管場所――」


「見つかったの!?」


「ええ。万が一生態兵器が暴走した場合の保険も兼ねてたみたいここから少し離れた所にあるわ」


「良かったね!」


「案内するわ。付いてきて!!」


 そして少女達は駆け出した。 



 モニターから戦いの様子を見ていた一人の科学者がいた。


 将一と梨子、そして自身の最高傑作が戦っている。


 自身の最高傑作は上空に滞空し、火炎や電撃やレーザーなど様々な攻撃を振りかざしている。

 それを回避し、二人は必死に反撃していた。


(あいつら――頭のネジが二、三本どうこうとかじゃないわ!! 普通ならもう諦めて逃げるわよ!?)


 いや、それよりも――


(どうして殺せない!? 殺せないの!? 相手はたかが高校生二人よ!?)


 銃火器で武装しているとは言え、高校生二人殺せない最高傑作。

 何とも滑稽なフレーズだろうか。

 暴走状態のエクスキューショナーが工作員らしき少年に手こずっているのはまだ理解出来る。


 だがこのモニターの光景を認めるわけにはいかなかった。 


 自分の人生は何だったのか分からなくなるからだ。


 だからと行って手出しする事は出来ない。


 許されない。


 それは敗北を認めるのと同じ事だからだ。


「誰!?」


 後ろのドアが開かれた。



「霧崎 レイラ博士だな?」



「アナタは――真田 俊也――学園の外にいたんじゃ?」


 真田俊也だった。

 全身に銃火器を背負って銃口を突き付ける。

 監視モニターで確かに外へ出た筈――


 いや、外へ何をしに行っていたのか?


「この三日間碌に寝てないようだな。睡眠はキチンと取った方が良い。思考もスッキリするだろう」


「どうしてここに?」


「駐屯地の妨害電波を無力化したらスマフォで生徒達がここに突入したと聞いて地下のモノレールを使って急いでここに来たと言うわけさ。駐屯地にもレールを轢いてたとは担当者は余程用心深い性格だったみたいだね」


 丁寧にこれまでの経緯を語ってくれた。

 確かに地下の極秘モノレールは比良坂町全体に行き渡っている。

 ミーミル関連施設全てに止まれる。この極秘研究施設も例外ではない。


「――私を殺しに来たの?」


「確かに君は――僕達の仇の一人だ」


 そう言って真田 俊也は銃口を突き付ける。彼の銃の腕ならこの狭いモニタールーム内にいる彼女を一発で頭を撃ち抜けるだろう。


「だが結末を見届けてからでも遅くはない」


「何を言って――私の最高傑作が、新しい世界の神が、負ける筈が――あの子達はワクチンを手に入れて撃ち込めば勝てるとか考えているようだけど――既存のウイルスとは違う新型ウイルスにそんな物無いわ! 殺す方法なんて無いのよ!」


 自らを奮い立たせるように彼女は言ってのけた。

 だが真田 俊也はヤレヤレと目を閉じて首を振った。


「だが彼達はそれでも諦めていないようだぞ」


「ッ!?」


 モニターに目をやる。

 まだ戦いは続いていた。

 二人は諦めずに戦っている。

 戦い続けている。


 本当ならとっくに死んでる筈だ。

 にも関わらず、二人はまだ戦っていた。


 その光景に軽く目眩を覚えた。 


「・・・・・・良くもまあこんな物を産み出した物だ。」


「ええ、そうよ。私の最高傑作よ。他の子供達はワクチンを探して撃ち込もうなどと考えてるみたいだけど――」



「だが追い詰められているようだぞ?」


「なっ!?」


 モニターに目をやる。

 三mを超える巨体が倒れ込んでいた。そして埋め込まれていた少女が胴体から這い出ていた。

 ヨロヨロと立ち上がろうとするが上手く立ち上がれない。その間に再生、進化を行うが勢いが最初に比べて目に見えて衰えている。


「どうして!? 何が起きたの!?」


「短時間の間に進化、再生を繰り返し過ぎたようだな」


「アナタに何が――」


「腐ってもミーミルの一員だ。ある程度は分かるさ。確かに君の神は生物兵器として驚異的だが生物兵器として見ればエクスキュ―ショナーが優れてるんじゃないかな?」


「どう言う事――」


「君程の科学者がまだ分からないのか? 激しい戦闘の中で恐らく進化し過ぎてウイルスがそれについていけなくなったとは考えられないのか?」


「なっ――」


 それを言われて初めて気が付いた。

 最初の状態に必要なエネルギーを100とする。

 そして戦いの中で再生、進化を繰り返す度に120、140と必要になっていく。

 本来ならばウイルスの自己増殖能力などで補えた。

 しかし戦いが激しくなるに連れて維持するためのエネルギーが200、300、400と天井知らずに増えていき、更に激しい戦闘行為を行えば維持するエネルギーに運動するために必要なエネルギーが上乗せされる。

 それに火炎弾、電撃、レーザーまで使用したのだ。


 ウイルスの再生が追い付かなくなり、今の醜態を晒しているとは考えられないだろうか?  


「だ、だけどそれも一時的な物よ。時間が経てばスグに元の能力を取り戻すわ――」


「彼達がそれを許すと思うかな?」


「え?」


 再びモニターに目をやる。



「無事だったか瞬!!」


「軽く死にかけましたけどね。二人(真清、メグミ)は如月さんが守っています」


 戦闘音を聞きつけ、重武装した如月 純夏が駆け付け、そしてワクチンを見付けた真清とメグミもその後に見付けた。それをリレー式で受け取り、この場に駆け付けたのだ。


「で? 見つかったのか?」


「はい。ワクチンらしき物がありました! それを奴にぶち込みます!」


 そう言って見せつける。トリガーが付いていて水鉄砲の様に液体が入ったタンクが付いている。細い針を相手に突き刺し、トリガーを引くことで容器の中の液体が注ぎ込まれる仕組みなのだろうと思った。


「そうか――て、またアラガミ化してやがる――」


 将一は眼前の化け物を見た。

 徐々にだが元の形態、羽を生やした悪魔の巨体に埋め込まれた少女になりつつある。

 最高傑作を名乗るだけあってとてもしぶとい。


「何処に差し込めばいい?」


「胴体の少女の部分でしょうか? すいません、奴のデーターまでは――」


 真清に軽く聞いたが結局奴のデーターを見つけられなかったが、そもそも今回の作戦は将一の突発的な物から始まった物であり、根本的に何と戦っているのか分からないのだ。

 取り合えずワクチン探しを優先させたのは正解だったと言える。


 そうかと呟き将一は相手を視界に捉えてこう尋ねた。


「人間の心臓の位置って何処だっけ?」


「はい?」


「人間の心臓の位置」


 突然妙な質問を始めたが瞬はクソ真面目に答えた。


「胸の中央やや下の左側ですけど」


「分かった」


 そう言ってワクチンの入った注射器を強引に奪い取る。


「援護頼む」


「ちょ、ちょっと!!」


「最後までこんな感じかしら――」


 将一は弾幕をバックに駆け抜ける。

 前方からも電撃、火炎弾、レーザーが飛んで来る。

 それをジグザグに動いて回避しながら、三m近くの巨体に飛び掛かった。

 ブス。

 感触がある。

 相手の体を足場にし、そしてトリガーを引いてシリンダー内の液体を注入し切ってその場から離れた


『ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』  


 悲鳴の咆哮を挙げる。

 悶え、苦しみ、のたうち回る。

 進化が止まり、ボロボロと崩れていく。


 そして――再び這い出て来た。


「ゾンビ物のラストはこれがお約束なのさ」


 そう言って大口径リボルバーガンを構える。


 躊躇いなく引き金を引く。


 轟音が敵を打ち砕いた。


 ――ありがとう。


「!?」


「どうかしたんですか?」


 瞬に声を掛けられる。


「いや、何でも無い」


 一瞬少女の声が聞こえた。

 空耳だったのだろうか?

 ともかく後始末をしなければならない。


☆   


「バカな!? 旧型用のワクチンしか無い筈!! 新型のウイルスにワクチンが効く筈が!!」


 だからこそ、ワクチンを撃ち込むなどと言う古典的な方法を楽観視した。


「新型と言っても察するに元は旧型ウイルスの改良型だろう? それに度重なる戦闘で弱った体だ。例え耐性があったとしても効果はあるんじゃないか?」


「そんな凡ミスで私の最高傑作が――そうよ、私の最高傑作が――負けるはずが――」


 現実を認められず、泣き崩れてその場にへたり込む。

 自分の最高傑作がたかが高校生達に負けた。

 その事実が認められなかったのだろう。


「さて――」


 取り合えず放って置いて色々と調べなければならない。

 主に今世界がどうなっているかについてである。


 確かにミーミルはゾンビによる人類大量虐殺し、新たな世界を創り出そうとした。

 計画通りに行けば近いうちにミーミルの息が掛かった新政府が誕生する筈だが。


 そうなった場合、少年達はどうするつもりだろうか。

 映画とかならば、新政府相手にレジスタンスを組織して徹底抗戦と言うルートもあるが。


 とにもかくも今どうなってるのかを知るのが先決である。

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