最後の戦い

城王院 紫

 彼女は歩いて直ぐに生存者と出会えた。

 長い黒髪の外国人の美女のアンナだった。

 同年代にも関わらずとても大人びていた少女であり、銃を持つ姿もとても様になっている。


 特別校舎の制服姿であっても特に何の疑問もなく、安全な場所に案内してくれた。

 話によれば、特別校舎の人間も何人か普通の校舎に来ているらしい。


 普通の校舎には心堂 昴との付き合いで何度か出入りしていた。


 確かに心堂 昴は恐かった。


 だが大人しく言う事を聞いていれば大切に扱ってくれる。


 最も最初のウチは何度か輪姦された事もあったが。


 そうして少々乱暴ではあるが体を重ね合っていくウチに暴君の少年の過去を知った。


 元々父親はミーミルの重役だったらしい。


 だが何かしらの理由でミーミルから追放されたそうだ。


 後で独自に調べてみたが一種の権力争いである。


 何が原因かまでは突き止められなかったが、ともかくそのせいで父親は荒れ、家庭内で不和が起き、そして心堂 昴は悪童への道を突き進む事になった。


 悪童と言っても色々と種類はあるが、心堂 昴の場合は頭がある程度回る性質の悪い悪童だ。


 その上比良坂学園は学園の規模に対して少子化対策で幅広い層の生徒、逆を言えば近隣の中学の不良の受け皿になっていた部分もある。


 特別校舎と言う建物が出来たのも頷ける。


 特別校舎は一応はごもっともな建前はあるがある種の、人の上に立つ優越感の様な者を在学生などに植え付けるためのシステムだ。


 同時にミーミルの人類間引きの計画を備えるための施設でもある。



 だが今となってはそんな事彼女はどうでも良かった。


 ミーミルも城王院家も。


 何もかも全てが。



 だが同時に死にたくないと言う気持ちもある。


 そして孤独に耐えられないと言う気持ちも。



 だから心堂 昴との関わりは出来うる限り隠す方向で決めた。


「落ち着いた?」


「貴方は――」


「柊 マリナ、マリナで良いわ。城王院さん」


 体育館は一種の避難所になっていた。

 渡り廊下を歩く時に眼下の遺体の絨毯を見て吐いて気分を悪くし、体育館の壁に背を預けるようにして三角座りしていた。

 そこに同じ特別校舎の人間らしい髪の長い、特別校舎の人間特有のお上品そうな綺麗な少女が近付いて来た。

 柊 マリナと言うらしく、保健室で保護して貰っていたらしい。


「・・・・・・私は」


「正直貴方の悪い噂は知っているわ。心堂 昴とのね」


「それは――」


「皆噂している。心堂 昴のせいで学園がメチャクチャになったから、余計にね。アンナさんが抑えてくれてる。今モノレールがあるからそれで外に脱出出来る筈よ」


「どうして――」


「勘違いしないで。許せないわけじゃないから。ただね・・・・・・もう疲れたのよ。誰かが死んだり、殺し合ったりとか、そう言うの・・・・・・復讐は何も生まないって言葉あるけどこう言う事かも知れないわね。たぶん皆も心の奥底でそう思っている」 


 ふと、周囲の生存者を見る。

 遠巻きに眺めているだけで何も言わない。皆暗い顔をしている。

 彼女の言う事はある程度的を得ているのだろう。


「・・・・・・貴方は強いのね」


「そうでも無いわ。保健室で保護された時に、一種に避難した子がゾンビ化して、助けて貰ったのにその人を憎んだりして・・・・・・だけどこの三日間で色々あって何となく理解してしまったの」


「そう・・・・・・」


 引き籠もっていた自分とは偉い違いだなと思った。


「ところで、私達以外の生徒は?」


「・・・・・・加々美君達に予め伝えたけど、正直生存は絶望的だと思う。ゾンビ達に学園を取り囲まれる前に私は脱出出来たけど――あれだけの量に突然襲撃されたら一溜まりもないわ」


「よく生き残れましたわね・・・・・・」   


 心堂 昴に渡した情報を覗き見たが、確か特別校舎の近くにはミーミル本社と地下で繋がるゲートがある。

 モルモットと言う名のゾンビ達や化け物がそこから近場にある特別校舎を襲撃したようだ。

 柊 マリナは運が良かったのだろう。あるいは決断力や行動力が素早かったのか。


「でね、今装甲車で救助に向かってるの。粗方学園内のゾンビを掃討したから。だけどゾンビ含めてまだ化け物が彷徨いている可能性があるから油断しちゃダメよ」


「化け物――ミーミルの生物兵器ですわね」


「やっぱりミーミルの生物兵器とかなのね。将一と加々美て言う人が率先して倒してる感じよ。戦車とかロケットランチャーとかアクション映画見たいにバンバン使って。遠目から将一の動き見てたけどアレ、ミーミルが産み出した生態兵器とかじゃないわよね?」


「荒木 将一・・・・・・もっと情報を探ってみれば分かるかも知れませんが・・・・・・」


 そう言えばシェルターのモニター越しに、心堂 昴との最後の戦いで生身と銃で装甲車からロボットに飛び移ってケリを付けたメガネの生徒がいたなと思い出す。

 他にも様々な場面で目撃したがもしかしてあの生徒だろうかと思った。


「だけど意外だわ。もっとこう、何て言うの? 漫画に出て来るようなお嬢様キャラみたいなのを想像してたんだけど、かなり大人しいのね」


「ハッキリと言いますわね。だけど学園の女王として振る舞う一方で心堂 昴に奴隷の様に従うあの時代に疲れていたのかも知れませんわ」


「そう・・・・・・」


 心堂 昴との仲は最初から良くは無かった。

 最悪で隙あらば社会的に抹殺や直接殺害する事すら考えた事もある。

 その後はもう何度も語っている様な仲になった。


「今、学園に仕掛けられた自爆装置を解除しに行く班と地下のモノレールで外を偵察している班とで別れている感じよ。だけど、両方が上手く行ったとしてもこの先どうなるのかしら」


「ええ・・・・・・」


 ミーミルの計画によればミーミル主導の元で世界復興が行われる筈であるが・・・・・・そう上手くいくだろうかと思った。

 それにこの身はミーミル側の人間であるが、何もかも全てがミーミルの思惑通りに進むのは癪に感じていたのもあるかもしれない。 


「とにかく生き延びないと。私だって彼氏とか作りたいし・・・・・・子供とかも・・・・・・」


「あらこの状況下で?」


「うん――」


「お相手は?」


「保健室で知り合った人。知り合ったばかりでお互いの事、まだまだ知らないけどね――」


「上手く行くと良いですわね」


「貴方の口からそんな言葉が出るなんてね。だけどありがと」


 そう言われ、紫は微笑を浮かべた。


「どういたしまして」   


 そしてふと紫は天井を見上げる。 


 自分の世界は確かに崩壊した。

 けれどもまだ本当に世界が崩壊したわけではない。

 もし許されるのならやり直してみよう。

 そう思った。

 

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