第二十四話「獣の王」


 荒木 将一は思う。


 自分はこれまでどれだけ信じられないアクションをしただろうかと。

 もしも世の中が平和になったら、アクション俳優とか目指してもいいかも知れないとか考えつつも銃を発砲する。


 今戦っている黒い毛むくじゃらの、五m近くある巨体の化け物。

 大体二階建ての一軒家ぐらいの大きさが物凄い俊敏なスピードで腕を振り落としたり、物を投げつけたりしてくる。

 それを将一は間一髪で回避する。


 さっきからこれの繰り返しだ。


 てか何故か自分だけが狙われている気がするのはきっとの気のせいだろう。


(てか、こいつエクスキューショナーよりも強くないか!?)


 地面を滑りながら後退りして少年は考える。

 銃弾を何発も撃ち込んでいるかまったく聞いている気配が無い。

 グレネードを投げ込んでも怯むだけだ。


(戦う場所を変えるか?)


 ふと特別校舎に目をやる。

 自分達が通っていた校舎と違って外装からして違う。

 玄関前もまるで遊園地のゲート前みたいに煉瓦造りの道でアートを刻んでいた。噴水まである。

 ゾンビの数がやたら少ないのはたぶん今戦っている奴の餌食になったからだろう。


「グオオオオオオオオオオオオオ!!」


 ふと遠くにいた装甲車に搭載された銃座が火を噴く。

 何度も解説しているが銃座に搭載されている12.7mm弾の重機関銃の威力はビルのコンクリートを穴空きチーズにし、その向かい側にいる兵士を原型止めずにバラバラにする破壊力がある。 

 自然界の生物が耐えられる威力では無いが、この生物に対してはそれでどうにか通じる感じだ。血を吹き出して雄叫びを上げている。


「クソ、アイツやっぱり学習してやがる!!」  


 だがこの獣、意識があるのか装甲車の攻撃に敏感になり、直ぐに注意を向けて回避行動を取る様になった。

 巨体に見合わない跳躍力で飛び上がり、回避して装甲車の近くに降り立つ。


「うぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


 将一は走る。

 幾ら装甲車と言えども引っ繰り返されて、あの巨体のパワーで何度も殴られればスクラップになる。

 そうなれば瞬や、梨子が死ぬ。

 足元にグレネードを投げ込む。

 少し遅れて起爆。

 怯んで持ち上げようとしていた手を止める。

 足は焦げ目が付いたぐらいだ。


「今がチャンス!!」


 梨子が銃座から思いっきり弾を至近距離で叩き込む。

 どうでもいいがとても度胸がある女である。

 胴体から血が噴き出している。


「大丈夫?」


 真清が銃を乱射しながら近寄ってくる。

 正直あまり効果が無いのが分かっているのか散発的にだ。

 それよりも銃を発砲しているせいで聞き取りにくい。


「恐かったよ~~将一く~~ん」


 本気で涙目になりながらメグミが近寄って来て抱き付いてきた。

 真清は「ヤレヤレね」と言った感じで顔を覆う。


「恐かった気持ちは分かるけど、アイツまだ死んでないわよ?」


 その真清の一言でハッとなる。

 思わぬ痛手を負って獣は飛び退いた。

 胴体から血を大量に流しているが、それでもまだやるつもりのようか、口元から涎を垂らして咆哮をあげている。


「あれどうやったら殺せるの?」


「ロケットランチャーで吹っ飛ばすぐらいしか思いつかん。対戦車用の奴」


 ふと激しく距離を取って牽制を続けていた装甲車が止まった。

 そして梨子と瞬が降りる。


「ちょっと時間稼ぎお願いします!!」


「分かった!!」


 瞬がそう言ってくる。実家の様な安心感を感じた。

 彼なりに考えがあるのだろう。


「お待たせ」


「来たか」


 完全武装の梨子が駆け寄る。

 将一達同様に制服姿の上に軍隊が使うベストを見に包んでいた。

 手には何故かゴツイ、槍の様に長居スコープが付いた銃――と言うか小型の大砲を持っていた。


「なんで対物ライフル?」


「今度シノンのコスプレHしてあげよっか?」


「変なフラグ立てんな!? てか真清さんとメグミさんここ普通怒る所だからね!? てか相手来てるから!!」


 馬鹿なコントをしていると、化け物が殴りかかって来た。

 まるで非リア充の恨み、辛みの気持ちを込めたかの様な一撃。

 煉瓦造りの地面に軽いクレーターが出来上がる。


「しまった!?」


「「「将一!?」」」


 そしてその隙に人一人を包み込めそうな程の巨握の手で握られる。

 咄嗟に背中に背負っていたショットガンを取り出す。


(ああ、映画でこんなシーンあったな。あの豪華客船を舞台にしたメチャクチャグロイ、触手の化け物が出て来る映画)


 木曜洋画だが金曜ロードだかを思い出しながらショットガンを構える。

 将一をまるでトロフィーの様に怪物はかがげて大声を上げる。

 握り潰すか、食うか、投げるかは分からない。

 普通の一般人なら絶対絶命コースだ。

 しかしこの化け物が握っているのは相手はこの三日間で何か人間と人外の境を彷徨い始めている遂最近まで本当の普通の高校生だった筈の高校性である。


 体全身が物凄い力で握られているが、ショットガンで狙いを付ける。

 頭部、馬鹿みたいに開けた口元目掛けて発射。


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」


 そのまま手を離す。

 よろめき、体を激しく揺らす。

 その隙に将一は後頭部に飛び乗り、毛を掴んでどうにか離れまいとする。

 そしてグレネードをピンを咥えて引き抜き、化け物の口の中にグレネードを放り込み、気色悪い毛むくじゃらな体を上手い事、滑り、毛を掴みながら降りていく。


 爆発。

 のど元周辺が吹き飛んだ。

 かなりグロイ状態になっている。


 続けて瞬がロケットランチャーを発射する。

 RPG-7、中東のゲリラ御用達の使い捨ての一品。使い方次第で先進国の最新鋭戦車すらスクラップに出来る威力がある。

 これをぶっ放した。

 そして胴体に命中。

 誰もがやったかと思ったがまだ動く。

 上半身の骨やら臓器やら筋肉繊維が丸見えの状態になってもだ。


「私がトドメ刺すわ」


 梨子は対物ライフルを構えて地に伏せて、そして雷が近くにでも落ちたかの様な轟音が鳴り響いた。

 弾は運良く胴体の臓器の一つを破壊した。


「耳栓してもこれとかマジでありえないですけど!?」


「ちょっと梨子、貴方その場の勢いでこの銃を選んだでしょ!?」


「耳がキンキンするよ~~!?」


 女三人はそれぞれ身悶えていた。

 特に梨子は発射音で耳が一時的に耳鳴りで苦しむと同時に想像以上の反動で体を痛める結果になっていた。

 その前に銃座の銃を乱射したり(銃の口径が大きくなると、当然体に伝わる銃の反動も大きくなる)と体を酷使しているのだ。

 ある意味当然の結果と言えよう。


「この化け物、まだ生きてるのか?」


 三人はともかく将一はまだ動きを止めないこの化け物に戦慄を覚えた。 

 実はバイオ兵器じゃなくてバイオ兵器を産み出す為に魔界から連れて来た生物のサンプルとか言われても将一は信じてしまいそうだった。

 普通の生物ならとっくに死んでるダメージである。もうここまで来たら五体バラバラにして焼却処分するまで戦いは終わらないだろう。


「ではもう一発」


 瞬は躊躇う事無く、もう一発のロケットランチャーを向けていた。

 今度は小型のM72、使い捨て式の筒型の対車両用のロケットランチャーである。

 これが胴体部に吸い込まれた。

 しかし右腕の巨腕で防ぐ。

 腕が大きく抉れただけに留まる。どうやら学習したらしい。


「本当にしぶといわね?」


 真清の言う通り本当にしぶとい。


「どうやったら倒せるのこれ!? 教えて将一先生!?」


「いや・・・・・・たぶんもうコイツ死んでると思う」


「「「え?」」」


 将一の一言で場が静まり返った。


「恐らく既にもうゾンビ化してると思う。よくよく考えればさっきから動作が緩慢になってるのはそのせいだと思う」


「だけどあれ一種のウイルスを元にした生体兵器でしょ?」


 そんなのありえるの? と真清は言いたげだった。


「死者をゾンビにするウイルスだからこそありえると思う。それに前にこう言う光景見たんだ。」


 一日目のトカゲの化け物、リザードとの戦いでも起きた現象だ。

 生物学的にはもう死んでいる。だが死んでいてもウイルスのせいで生者の死肉を求めて彷徨う屍となる。


「その対物ライフルで頭を狙えるか?」


「うん、やってみる」


 そして梨子は狙撃体制に入る。


 遅れて。


 再び轟音が鳴り響いた。



 やっとの事で特別校舎内を探索できる。

 そう思った。

 瞬と梨子とメグミが先行して調査に入っいた。

 将一と真清の二人が殿の形である。


 曰く、将一は無茶しすぎとの事らしい。


 そのため将一と監視で真清の二人きりになった。


「生存者いると思う?」


 装甲車にもたれ掛かって真清はふいにそう尋ねて来た。


「いたら先程の騒ぎで何かしらのアクションを起こすだろう」


「あの毛むくじゃらの化け物に殺されたのかしら?」


「さあな・・・・・・もう少しで長い長い戦いも――終わり――じゃなくて一区切りの筈だ」


「一区切りね。世界は今ゾンビだらけなんだっけ?」


「らしいな。だがこの学園よりかはマシだろう。それにしても火炎放射器とかよく準備してたな瞬の奴」


「そうね」


 毛むくじゃらの化け物は轟々と焼却中である。

 嫌な臭いが鼻につく。


「しかし、何だかんだでここまで生き残れるとは思わなかった」


「そうね。私も生き残れるとは思わなかった――何時まで続くのかしら」


「少なくとも暫くはゾンビが相手になるかさっきの化け物が相手になるかの違いにしかならないと思うぞ」


「大丈夫、きっと良くなるぐらいは言えないのかしら?」


「ハーレム系ラノベの主人公じゃ無いんだ。無責任な事はあんま言いたくない」


「あら、女の子三人抱いといて今更何を言ってるのかしら」


「そ、それは・・・・・・」


 顔を真っ赤にして視線を明後日の方向に目をやる。


「まあ二人きりだし、これぐらいしても良いわよね」


「え?」


 真清は唐突に体を引き寄せて唇を将一の自分の口元に押し当てた。


「お預けされてた分、今はこれで我慢してあげる」


 と、小悪魔的な笑みを浮かべて真清は微笑んだ。

 将一はハハハと渇いた笑みを浮かべる。

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