第七話「正体不明の襲撃者」


 あの後、サイドポニーの少女、愛坂 メグミと気の強そうな女の子、桐嶋 リオに武器を持たせてその場を離れた。


 二人によればずっと学園内を逃げ惑っていたらしく、その過程で木下に捕まったらしい。


 結局木下は何処に姿を消したか分からないが生きている限り、また姿を見せるだろう。それも敵として。それだけに仕留めきれなかった事を後悔した。


(確かにヤバい奴だが木下が謎の襲撃者と言う線は無いな……あのギャング化した連中でもない)


 東校舎の生存者を襲った未だ存在すら分かっていない謎の襲撃者。

 両社ともシロである可能性は高いと考えた。


 と言うのも両者とも共通点がある。

 それは自らの欲望、特に性欲などに忠実だと言う点だ。


 現場には女性の被害者もおり、それにゾンビによる襲撃であり銃撃での犠牲者はいなかった。これは瞬が調べてくれた。東校舎の生存者はほぼ2ーFのクラスメイトであり、精神的なショックを受けている本野 真清委員長や宮里 萌先生に代わって瞬が遺体を調べたのだ。


「お腹空いてるのに悪いな、付き合って貰って」


「うんうん。私も手伝いたいから」


「私は仕方なくだからね」


 今現在屋上に向かっている。と言うのも――


「屋上にいるわ! 誰か助けて!」


 声がしたからそれを確かめる為に探索しているのである


(一回目はともかく二回目はロケットランチャーやら手りゅう弾とか使ったからな――流石に気付いたんだろうな)


 問題になるのが屋上にどうやって行くかだ。

 取り合えず二階の連絡通路へと上がる。


「さて、どうするか?」


 連絡通路から外壁に設置された上へと続く階段を見上げる。四階まで行けるようになっている。

 注目しているのは位置関係上見えないが四階への扉部分である。


「直接四階まで行かないの?」


「最初の騒ぎの時、ゾンビ達は下から上の階へ侵食するように上がっていった。逃げ遅れた人間がゾンビの仲間入りしている可能性は十分にあり得る。つまりかなりの数がまだ残ってる可能性が高い」


「そ、そうか……」


「でも銃で蹴散らせばいいんじゃない?」


 リオが銃を見せつける様にして言う。

 確かにリオの言う通りそうすれば楽だが。


「いいか。武器は無限にあるわけじゃないんだ。なるべく用心するに越した事はない」


「顔に似合わず偉そうね」


「ちょっとリオちゃん」


「……とにかく慎重に様子を見る。危ないと感じたらスグに逃げろ。俺に万が一の事があったら俺の名前を出して保健室か西校舎を目指せ、分かったな」


「ちょ、ちょっと?」


「分かったわ。そうさせて貰う」


「……お前友達少ないだろ」


「何よ!? 友達ぐらいいるわよ!!」


「リオちゃん、声下げて声!」


 とにかく四階まで行く事にした。

 本当は二階から慎重に進む事も考えたのだがあれだけの騒ぎが起きたにも関わらず、校舎内のゾンビが大人しいと感じていた。


「あの将一君って銃使った経験あるの?」


「いや、今日が初めて」


「でも随分詳しいじゃない」


「知り合いに専門家がいたからな――後ラノベとかゲームの知識」


「ふーん」


「さてと、付いたぞ」


 四階に辿り着いた。血痕や遺体があるが、慎重にとどめを刺しながら進む。


「何て言うか手慣れてるわね……本当に元一般人?」


「ああ――」


「あの、ゾンビを撃つの恐くないの?」


 おそるおそると言った感じでメグミが話しかける。


「死にたくないから殺してるだけだから別に恐いとかそんな気持ちは沸かない」


「クールなのね」


「それ程でも」


 リオも結構クールだと思いつつも将一は四階を見た。


(四階への防火扉が開いてる――廊下にはゾンビもいない――教室にいるのか? それとも西校舎方面に溜まってるのか?)


 アレこれ頭を捻らせながら考え、踏み込んだ。

 スグさま銃口を階段の方へと構える。

 誰もいない。生々しい血痕だけが残っていた。


 他の二人はどんな表情をしているかあえて見ようとはせず、将一は足を進める。


 そして屋上への扉に目をやる。

 そこには血痕が大量に付いていた。

 床にも夥しい量の血が飛び散っている。

 血が固まるぐらいの時間は経ったようだ。


 コンコンコン。


 規則正しく三階ドアを叩く。


「誰かいませんか?」


「助けに来ました!」


「ちょ、声が大きいわよ」


 それから外が騒がしくなった。人の騒めく声がする。 

 確かに生存者がいたのだ。


「ッ?」


「ど、どうしたの?」


 将一は反射的に拳銃を階段の方へと向けていた。

 しかし誰もいない。


「いや、気のせいか」


「ちょっと脅かさないでよ……」


「なあ、何か変な気がしないか?」


「変な気? 私は何も感じないけど……」


「気のせいじゃない?」


「……そうか」


 少しばかり待ってドアが開かれた。


 そして微妙な空気になった。

 助けに来たのが重武装した高校生と銃を所持した女学生二人なのだから。

 対して助けを待っていたのは十数名である。


 男性生徒や女性徒だけでなく、外国人英語教師、美人先生、男性教諭もいる。


(屋上は無事――とは行かなかったみたいだな)


 遺体が転がっている。

 ここも保健室と同じく誰かがゾンビに噛まれたまま封鎖されようとしている屋上に避難し、そのままゾンビ化、そこで鈍器などで誰かが殺したと言う流れがあったのだろう。


 園芸部の花壇などがあるし、スコップやクワなどもある。将一は今の自分達と同じ状況のアニメを思い出していた。

 手を下したのは遠巻きにされている少し離れた男勝りそうな髪の毛を染めた女の子だろう。この辺りも保健室と同じである。


 念の為扉を閉め直してどうするか考える。


 勿論謎の敵に関してだ。


(もしも奴が存在するなら――絶対何処かのタイミングで仕掛けて来る筈――)


 そして木下や暴徒も動く可能性もある。


「えーと君達は一体――」


 このグループの代表者なのか背の高いスーツ姿の若い男性教諭が訪ねて来た。

 真田 俊矢先生と比べると頼りない印象があるが、比較対象にちと無理があるかと将一は考え直す。


「俺は二年F組の荒木 将一、西校舎に立て籠もっている生存者です」


「あの、その銃は一体?」


「学校に隠して置いてありました」


「先程激しい音がしていたが……アレは何なんだ?」


「不幸な事に同じ学年の木下君や他の生徒と銃撃戦になりました。現在この学園はゾンビだけでなく銃で武装した勢力が独自に活動していて危険な状態です」


「そんな――こんな時に限って……」


 若い女性教諭が驚いた様子を見せた。その気持ちは将一も分からなくは無かったので置いておく。


「ともかく助けは呼べないのか?」


「現段階では不可能です」


「そんな……」


 話の内容を理解しているのか理解していないのか彼方此方で口が開かれる。


(困ったな……)


 正直謎の襲撃者の実態を暴くのに手一杯で生存者に出会ってどうするのとか考えてなかった。

 皆困惑している様子で、ここに三日後に学園が爆発しますとか言っても混乱するだけだろう。


「ともかく、無事でよかったね」


 ノホホンとメグミが言う。


「何が無事なモンか! 折角助けに来たと思ったのに!」


「ちょっとアンタ――」


 メグミの言葉に反応した生存者にリオが食ってかかる。


「そーよそーよ、アンタらに何が出来るっていうの」


「自衛隊は何してるんだ?」


「お前達はいいよな。銃持ってて」


 しかし皆々口々に不平不満をぶち撒け始めた。


 心の中で将一は(報われねえ……)と呟く。

 被災者からの心無い言葉で傷付いた自衛隊の気持ちもきっと今と似たり寄ったりだろう。将一の場合命賭けてここまで来たと言うのに。

 もしも今の世界に将来があるのなら絶対自衛官にはならないと誓った。


「おい、俺達にも銃くれよ」


「そーだそーだ。銃さえあればゾンビだって恐くないんだ」 


(ヤバい雰囲気になって来たな……)「先生、自分達は一旦、食料確保の為にルートを開拓して来ますんで――」


「え? でも――」


 そう言って足早に去ろうとする。が、周囲は納得せずに追い掛けようとして来る。


 その時だった。

 ドアが爆発した。

 そして同時にゾンビの呻き声が聞こえ始める。


「なになに!? なんなの!?」


「何が起きたんだ!?」


 こっちが聞きたいと言う気持ちをグッと堪えて見てみると――屋上の入り口が完全に吹き飛ばされていた。

 そしてゾンビの姿が。


「キャー!!」


「あいつらが来た!!」


「逃げろ!!」


「何処に逃げるんだ!?」


 逃げ道は無い。

 いや、あるが、見捨てて行くのは心苦しい。

 やるしかないと思った。


「それ、貸せ!!」


「あ、テメェ!」


 生存者の男子生徒の一人が血走った目で将一の背中にぶら下げてあったショットガンを奪い取る。

 そして出鱈目にゾンビに向かって発砲した。

 物凄い銃声音が鳴り響く。


「スゲェ!! これが本物の銃か!! これさえあればゾンビだって恐くないぜ!!」


「馬鹿か! ちゃんと頭を狙え!」


「お、俺にも銃をくれ!」


「私も!」


「いい加減にしろ!」


 集団心理か、群がるように将一へ銃を求めて集まってくる。

 リオやメグミにもたかって来ていてマトモに迎撃態勢も取れやしない。

 最大の危機がゾンビではなく、マトモな生存者と思われた人間の手で引き起こされるなど思いもしなかった。


「あれ、弾が――弾が――うわああああああああああああ!!」


 弾切れになって恐くなったのか途端に逃げ始めた。ご丁寧にショットガンを持ち逃げして。

 その間にゾンビは入り口からドンドン入って来ている。やがて将一達の周囲に群がっていた人間達も蜘蛛の子を散らすように逃げ始めた。


「出し惜しみしている場合じゃないか!!」


 入り口目掛けてグレネードを投げ込む。

 複数投げるのではなく、下手投げで一つずつ投げ込んでいく感じだ。

 そうして大量にゾンビを倒すがそれでも後から後へと大量に入り込んでくる。焼け石に水と言う言葉が似合う状況だった。 


(一体何体入り込んできてるんだ!?)


 とにかく心の中でも愚痴っても仕方ないので生存者の近くのゾンビを優先的に射殺していく。


「いやああああああああああ!!」


「誰か助けて!!」


「死にたくない!!」


(クソが――誰のせいでこうなったと思ってんだ!!)


 少なくとも最初の段階で乞食のように群がって来なければ被害は拡大せずに済んだ。自分達も何かしら悪いかも知れないがそれでも憤りを感じずにはいられなかった。


(それにしても扉を爆破して、ゾンビがやって来るまでの感覚が短か過ぎる。何処に潜んでたか分からないが統率者がいるとしか思えない!)


 将一の頭の中で確証に代わっていた。ゾンビを統率する襲撃者がいる事に。でなければ爆発からの一連の流れに説明がつかない。


 そして一番大事な事も理解できた。


 襲撃者は生存者をどんな手を使ってでも殺したがっている。正気ではない。


(ともかく今は!)


 男子生徒に唾液を垂らして掴みかかっているゾンビに飛び蹴りをかます。フェンスに押し込む形になり、そして頭部にゼロ距離からサブマシンガンの弾丸を撃ち込む。


「下がってろ! 邪魔だ!!」


「ッ!!」


 助けられた生徒はコクコクと頷いて情けなく逃げて行った。

 それから先も次々と同じ戦法で救助していった。

 その様を見て逃げ惑っていた人々は皆呆然としていた。


(それにしても数が多い!)


 学生服のゾンビが中心からして学生のゾンビをありったけここに呼び寄せた感じがする。

 最初に比べてゾンビの投入も逐一になって来ているがそれでも大勢の他者を守りながら戦うのは無理だ。

 せめて瞬と真田先生の二人がいて欲しかった。


(ともかくやるしかない!!)


 こうして屋上での戦いが始まった。

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