第九話「決着」
現在、将一は新たに表れた緑色のウロコのトカゲの化け物と対峙していた。
ゾンビを食べ終えた後、此方にも紅く鋭い双眼を向ける。
「ッ!」
一体何がどうさせたのか将一は階段側に飛び引いた。少し遅れてトカゲは体育館へと続く連絡路のドアへと飛び込む形になった。
車が衝突した様な音が全体に響く。
それが合図となってゾンビも動き始める。不幸にもやや斜め側に飛び込んでしまったらしい。階段の、それも三階側に飛び込む形だ。
「どうしたの!! 将一!!」
メグミの声がした。心配になって来たんだろう。勢いよく階段を下る足音がする。
「来るんじゃない!! 屋上に逃げろ!!」
「え?」
将一はゾンビも無視してサブマシンガンをトカゲに向かって発砲した。
本当はフルオートで乱射したいが今はそんな心の余裕はない。
「キャシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
背中に当たった。血飛沫を挙げながら化け物らしい鳴き声を上げる。とにかく弾が尽きるまで連射した。
しかし、それでも奴は死ななかった。銀色の首輪を付けたトカゲはギロリと此方に顔を向ける。口元は人間の血液で真っ赤だ。
急いで立ち上がり、一歩、二歩と引いていく。相手も様子を伺い、ジリジリと近寄っていく。
(もう手持ちの武器は――殆どない)
MP5サブマシンガンの弾倉が二つあるぐらいだ。
そして空の弾倉を床に落として、残りの二つの内の一つを入れた。
(来る!!)
将一は逃げた。
だが単純に走って逃げるだけなら追いつかれる。だから階段から飛び降りるようにして逃げる。
「ああ!?」
足に痛みを感じながらも転がりながら前へ、前へと移動する。
トカゲは飛び降りて来た。壁の窓ガラスに突き破りながら着地した。
何とか上体だけ起き上げて、銃を向けた。それに反応してトカゲは体を捻った。まるで銃弾から逃れるように。
(こいつ学習しているのか!?)
感染体と言われているゾンビを食らうこの上位存在。
理性を無くしてただただ人を食らうだけかと思った。
(ともかく逃げないと――)
サブマシンガンの横にあるコッキングレバーを引いて弾を装填し、そしてダイアルを引きっ放しで弾を乱射出来るフルオートモードにする。もう四の五の言ってられない。殺るか殺されるかだ。援軍も期待出来ない。生き延びるにはこの目の前のトカゲをどうにかしてぶっ殺すしかない。
将一はそう結論するに至った。
「シャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
胴体目掛けて銃を乱射した。初めてのフルオートモードなので銃身の制御が難しいがそうも言ってられない。勢い良く弾が排莢される。反動も凄まじく、録に狙いも付けられないが、それでも銃を撃っている時は生きていると言う実感を持てた。
(ダメだ!! 銃の威力が足りない!!)
相手の左半身に数発当たったのが見えたがスグに避けられた。しかしあんまり血は出ていない。人間よりも頑丈な体の作りをしているのだろう。
打ち抜くには口径が大きい強力な銃が必要だ。
相手が怯んだ隙に三階まで降りた。
そして二階の連絡通路へと続く外側の扉へと出る。
そこから二階の連絡通路へジャンプした。
昔の経験上、これぐらいの高さならどうにか人間の体は耐えられる仕組みになっているらしい。
「~~~~~~~!!」
足が痺れた。
しかし背中から感じるプレッシャーが休む暇を与えてくれない。
「お前も来るか!!」
相手も飛び降りて来る。
すかさず将一は再び体育館の連絡通路から地面へと躊躇いなく飛び降りる。
両足からグシャッと言う嫌な音がした。
(最悪だ・・・・・・)
何せここら一帯のゾンビだった遺体のカーペット状態なのだ。贅沢は言ってられない。
そして将一は目的の物を見つけて走る。
「借りるぜ――」
そこにはチンピラの遺体が転がっていた。
木下との銃撃戦に巻き込まれて死んだ奴だ。
強力な厳つい銃が傍に倒れている。
銃の種類はコルトM4カービン。米軍とかが正式採用している銃だ。
奪い取り、死体を漁って、カートリッジを探る。用心深い性格だったのか結構な量を持っていた。
(来たな!!)
チラ見すると相手も飛び降りて、此方に目を向ける。
弾の空を確認。カートリッジ排出。予備のカートリッジを差し込み――
「うぉおおおおおおおおおおおお!!」
作業を中断してサブマシンガンを撃つ。
フルオートから三発同時発射モードで。
何も考えられなかった。
とにかく当てる事だけを考える。まるでB級映画の世界に迷い込んだような気分だった。
(嘘だろ――)
相手は無情にも両腕でガードしながら巧みなステップで回避し、此方に近寄って来る。
「チィ!!」
途中で撃つのを辞めて、その場から離れた。
飛び付き様の爪が振るわれる。
「ああああああああ!?」
爪が左腕を切り裂いた。深いかどうかは分からないがともかく鋭い痛みが走った。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
相当な弾を食らっているにも関わらず奴はまだ動けるらしい。
「うわああああああああ!!」
「な、なんだアレ!!」
「ば、化け物だ!!」
運がいいのか悪いのかここに来て第三勢力が現れた。
学生が副業で本業でギャングやってます見たいな人相の悪さだ。恐らくあのチンピラのグループが木下か将一目当てに報復に来たと言う感じだろう。
彼達は武装した銃器で反射的に化け物へ発砲した。
「シャアア!!」
化け物は先程と同じく巧みな四足歩行と跳躍力を生かして敵を翻弄する。
校舎の壁側面に一旦着地し、そして飛び掛かる。
血飛沫が舞った。
一人は尻持ちを付いて銃を向けるがその前に止めを刺される。
最後の一人は逃げようとしたが殺された。
(流石に同情するぜ……)
あの勢力の目的は分からないがこの機会に乗じて女を犯す為ならドンパチだってやる連中だ。マトモでは無いだろう。おまけにこの騒動で彼達のグループも減少している筈だ。これで五人が死亡し、一人が戦闘不能になった事になる。今回のグループの規模を考えると多く残ってないだろう。
ともかくも将一にとっては逆転の機会が訪れた。
「死ね」
地面に這い蹲りながらコルトM4カービンの弾丸を三発同時発射モードにして構えて撃つ。口径は5.56mm、徹甲弾か通常弾かで破壊力は大分変わるが少なくともMP5サブマシンガンよりかは威力は上だ。
「キシャアアアアアアアアアアアア!!」
相手の右腕から血が噴き出た。
そこからもう何発も何発も撃った。全弾空になるまで撃った。空になって引き金を引き続けた。
相手は死んだのか、血を噴き出して倒れ、ピクピクと痙攣している。
ハア、ハア――と肩で息をしつつ左肩を押さえながら立ち上がる。
「嘘だろ――」
奴は立ち上がった。二足歩行で。二m以上の巨体を晒しながら。彼方此方から血を流しながら立ち上がった。
目から生気を感じない。やや早足になりながら……
「ああ、そうか。お前もなったのか――」
そこまでで理解出来た。
今の奴がどう言う状況なのか。
奴は完全にゾンビ化したのだ。
こうなったら止める術は一つしかない。
「なら、こうするしかねえよな」
ゆっくり歩み寄って、構えて、頭部目掛けて銃を発射した。
☆
「嘘でしょ――アレを殺したの――」
あの化け物を嗾けた彼女は外で一部始終を見届けていた。
実は傭兵とかこの学校に派遣されて特殊な訓練を受けた潜入工作員とかそう言う設定が思い浮かぶ。
それ程までに彼の信じられない行動力、度胸、判断力に驚かされた。確かに運の要素があったがそれでもあの化け物を殺せるとは思わなかった。
(だけど、アイツも限界の筈――ここで仕留める!!)
運動場にはまだ大量のゾンビがいる。彼女は一瞬で目に映る範囲のゾンビ、三百体近くを支配下に置いた。ダメ押しで自分も攻撃に加われば流石に殺せる筈。
「行きなさい!!」
そして運動場のゾンビ達が一斉に動き始める。
将一に目掛けて。
自分も発砲するが見当違いの方向に飛んでいく。右肩を撃たれて上手く構えられないし、どんなに良い銃でも素人が数十メートル先の目標に当てられるようになるのは相応の訓練がいる。
だがそれでも良かった。
まずはアイツを殺して。
屋上の連中を殺して。
保健室の連中も、西校舎の連中も食堂の連中も学生寮の連中も特別校舎の連中も全員全員殺して――
「何だ、そこにいたのか――」
「ッ!?」
構えて此方に発砲して来た。
彼女のすぐ傍のゾンビの頭が吹き飛んだ。血を浴びて彼女は恐怖に支配される。
「あーあ、ご丁寧にこんなもんまで持って来て……まあ有効活用させて貰おうか」
何やら先程怪物に殺された死体漁りを初めて、ゴツイ重火器を取り出した。
よくニュースとか映画とかでテロリストが使ってるロケットランチャー。
正式名称RPG-7。
「死ね」
ロケットランチャーを躊躇いなく発射した。急いで彼女は逃げた。
爆炎が上がったのはその後の事だった。
爆発が、爆風がゾンビをなぎ倒し、固まっていたゾンビが数十体以上纏めて一掃される。
「はぁ……俺今日何体ゾンビ倒したっけ?」
弾頭がなくなったロケットランチャーを放り捨て、疲れ切った体を引き摺りながら彼は爆心地へと歩み寄る。近寄るゾンビを一体、二体、三体と撃ち殺しながら徐々に、徐々に――
(こ、このままじゃ殺される――私殺される――目的果たせず私は死ぬの!? そんなの嫌よ!!)
爆風で吹き飛ばされ、ゾンビが倒れ込んでいて上手く身動きが取れない。
先程の爆発で他の外にいるゾンビがやって来るだろうが殺される方が早いだろう。
泣いて謝ってもたぶん許してくれない。そもそも許す気ならロケットランチャーをぶっ放す真似はしない。
ゆっくりと近付いてくる。
倒れたゾンビの頭を的確に打ち抜きながら迫りくる。
そして遂にご対面となった。将一の表情は怒りでもなく、悲しみでもない。とても疲れ切っていて今にも倒れそうな感じがする、そんな感じの表情だった。
「ゆ、許して――」
「俺はラノベの主人公じゃねえ。復讐するなとは言わんがやり方を選ぶべきだったな。少なくとも復讐とは無関係な人間を巻き込むべきじゃなかった」
「い、いや、私――私死にたくない、まだ復讐果てしていないのに!! 死にたくない!!」
「お前に殺された奴も同じ気持ちだっただろうぜ…………声聞いてて思い出したが、あの二人を体育倉庫から助けてSOSの声を出したのお前だったんだな――」
「そ、それは――」
「そして屋上の人間諸共殺すつもりだったと――」
「う、あ……」
「最後に聞かせてくれ」
「え?」
「お前の名前は?」
「み、南 静香――」
そして銃声が響いた。
☆
夕焼けとなり、あの後将一は念の為保健室に運ばれた。
他の面々は一先ず、西校舎に避難する形になった。校内のゾンビを数百体単位でほぼすべて屋上で倒してしまった為に避難誘導は楽だった。その辺りは南 静香さまさまだった。
屋上に避難していた生き残りの生徒達や教員は今のこの学園の現状を、世界を嫌が上でも理解した事だろう。道中の惨状の酷さに吐いていたが。それでも将一は気が収まらなかったのでショットガンを持ち逃げした野郎を思いっきりぶん殴って返してもらった。
普通なら退学物であるが正直退学でこんな学園とオサラバ出来るなら喜んで退学しようと思った。放っておけば学校の自爆システムで廃校ならぬ灰校になるが心中するのは将一もごめんだ。
「それにしても大変だったみたいだね」
「ああ――もう流石に限界」
将一は保健室に置いてあったジャージに着替えている。
本当は体育館のシャワールームでも使いたいが今の状況だと死に繋がるため、我慢だ。
今度は保険医用の個室で精密検査と言う大義名分の元、真田先生と一体一で話をしている。
前回は上手い事言い訳したが、二回もなると怪しまれるからだ。
「流石に無茶し過ぎだ。暫くこの部屋で休んでくといい。この部屋にも銃器が保管されてたみたいだから万が一の時は使うといい」
「ええ、分かりました――」
そうして横になる。
左肩は痛むが我慢だ。
本当に色々な事があった。
決着を付けていない事がまだあるがそれでも疲労には勝てなかった。
あれだけ派手なアクションをしても壊れなかった頑丈なスマフォを起動し、今迄起きた出来事を入力しながら布団を被る。
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