第十三話「体育館を血に染めて」


 その頃、体育館は武装勢力に占拠されていた。


 考えていたより想像以上の規模と武装であり、下手に抵抗すれば犠牲者が出るので、真田 俊矢先生は大人しく従った。

 構成員は全員この学校の生徒で何の目的もなく、やりたいようにやる。ゾンビが闊歩している状態に当てられたのかでタガが外れており、損得勘定も出来なくなっている性質が悪い連中だ。

 今も女子に乱暴しようとしたり、教師に銃を突き付けて玩具にしている。


「私達はどうすれば――」


 小声で同じ教師の、小学生みたいな容姿の宮里 萌先生が困惑して訊ねる。


「今は出来うる限り様子見だ――」


 観察したところ、この群れのリーダーは心堂 昴。

 教師の中では問題児として有名人だが、悪知恵が働くようで中々尻尾を掴ませないでいた。

 彼が起こした悪行は数知れず、殺人以外の犯罪には手を染めているのでは無いかと言われているぐらいだ。


 今はおらず、別の場所に向かったようだ。


(問題は人数だ――)


 体育館に混じっていたらしい、元々屋上に避難していたメンバーと合流して人数も増えている。

 今仕切っているのは角谷かどや 士つかさと言う、垢抜けた今風の若い男子だ。


 問題は武装勢力達と教師達とのやり取りである。 


「なあ、お願いだからこんなバカな真似はしないでくれ!!」


「何が馬鹿だって?」 


「銃を降ろして話し合おう! なっ!?」


「はぁ? こんな状況になっても教師気取りかよ、馬鹿じゃねえの?」


「こいつまだ自分達がおかれた状況が理解できてないみたいだぜ」


 ゲラゲラと彼達は笑うが真田からすれば理解できていないのは君達の方だろと言いたかったがグッと堪える。


「ちょっと離して!!」


「いいじゃねえかちょっとぐらい!!」


「誰か助けて!!」


 挙句の果てには女子達に乱暴を働こうとしている。


「へへへ、昨日はあんまりお楽しみ出来なかったんだ。なあーにスグに気持ちよくなるって」


「いや、誰か!!」


 もう見てられないと思ったその時――


「もう止めろ!!」


「ああん?」


(無謀だ少年!!)


 気持ちは痛い程分かるがこの状況下では不味い。

 相手の様子から見てもう人を撃つのを躊躇わないだろう。下手すれば殺される。

 仲裁しようとも考えたが逆に状況が悪くなる危険性があるため傍観するしかなかった。


「これが見えないのか?」


 銃を突きつける。

 大きなアサルトライフルだ。

 正直不良生徒が使いこなせるとは思わなかった。様々な人の話を聞く限り、将一は違うようであるがこの生徒が将一と同じレベルとはどうしても思えなかった。


「そんな事恥ずかしくないのかよ!」


「なに良い子ちゃんぶってんだテメェ?」


 そう言って銃を発砲した。

 皆咄嗟に身を屈める。

 悲鳴が上がった。


「ギャハハ!! ビビッてやんの!!」


 脅しで天井に向けて発砲しただけだった。

 その時、一人の教師が掴み掛る。


「テメェ! 何すんだ! 話せ!」


「もう止すんだこんなバカな真似は!」


「ウザいな! 離れろよ!」


 突き飛ばして銃を乱射する。

 体育館内全体に響き渡る程の銃声と共に鮮血が舞い散った。


「はあ……はあ……生きた人間を撃つのは初めてだぜ……」


 肩で息をして血溜まりになって倒れ伏す教師を見下ろした。

 空になるまで銃弾を打ち込んだのだ。誰がどう見ても即死だろう。  


 だがそこで傍観を決め込んでいた角谷 士が動いた。

 教師を射殺した子分を思いっきりぶん殴り、そして何度も蹴りつける。


「何勝手な真似してんだああ!? 身ぐるみ剥いでゾンビの中に放り込んでやろうか!?」


「す、すいません!! すいません!!」


「テメェも、テメェらもこの状況分かってんのか!? いいか!? 俺達に逆らったら容赦なく撃つ! テメェもだ!」


 そう言って呆然と立ち尽くしていた少年が士が持っていた拳銃で撃たれた。


「あ――あぁああああああ!!」


「悲鳴あげてんじゃねえ! 気色悪いんだよ!」


 言ってる事とやってる事が滅茶苦茶だ。

 とにかく応急処置に向かった。

 当たった場所は肩部だ。


(何とかなる)


 幸い最低限の医療キットは携帯している。

 これを使えば何とかなるだろう。 


「おい、オッサン。お前も何勝手に動いてるんだ!」


 武装勢力側の生徒の一人が銃口を向ける。


「私は保険医だ。手当させてくれ」


 だが怯むわけには行かなかった。

 助けられる命は助けたかった。

 多少のリスクは犯してでも。


「んな奴死なせときゃいいだろう」


 あまりな物言いだ。思わず視線を鋭くさせる。


「なんだその反抗的な目は? テメェも殺してやろうか?」


 睨まれた生徒はやや怯えながら銃を向けた。心なしかガタガタ震えている。


(もう対決は避けられんか――)


 覚悟を決めたその時、外で銃撃音が起きた。


☆ 


 少し時間は遡り、


 銃器で武装した朝倉 梨子と共に荒木 将一は徒歩で別れて体育館を目指していた。

 他の避難民達を乗せた装甲車は――この学園に今、絶対に安全な場所があるのかどうか分からないが一先ず武道館を目指していた。近くには屋内プールもある。

 瞬なら大抵の脅威には対処可能であろうと言う考えと、短時間で決着を付けて再び再合流させて体育館で避難民を降ろしたいと言う狙いもあった。


「体育館の入り口付近は意外と綺麗ね」


「校舎と体育館の間を行く時は覚悟しとけよ。地獄絵図になってるから」


「わ、分かったわ……」


 校舎と体育館の間は大量の遺体がトカゲの化け物含めて未だに散乱している。

 死体を処理する手間暇考えればもう燃やした方が早いだろうとすら思える。


「それにしてもあいつらこんな状況下で良く暴れる気になったな」


「元々そう言う連中なのよ。この学園、少子化だからってある程度成績度外視して誰彼入れるもんだからああ言う馬鹿も入れるわけなのよ」


「勉強の出来不出来と頭の良し悪しは関係ないって聞いたぜ?」


「強ちそうとも言えないわよ?」


「まあその辺は議論は置いといて……静かだな……」


「皆人質とかになってるかも?」


「人質ねえ……」


 真田 俊也先生がいるので逆に皆殺しになっている可能性も考えたが、大人数で突然押し寄せられて人質になっていると言う考えも確かに筋は通っている。

 体育館には大勢の避難民がいて武器を持った武装勢力十名近くが雪崩れ込めば、仮に撃退出来たとしても避難民に被害が出る。

 大人しく人質になって機会を伺っているかも知れないと将一は考えた。


「それで、どっから中に入るの?」


「さあな――ちょっと周辺をグルッと回ってみる」


「分かった」


 南側正門はバリケードが手付かずの状態だ。だとすれば他の部分から侵入したと考える。

 西側に回り、そこで階段を目にした。


「反対側にも階段あったんだな……」


「そうね」


(当然バリケードで封鎖されていると思うが――)


 などと考えつつ西側の階段を見る。横幅は広く、角度もそうキツくはない。足に優しい階段だ。

 ヒモでグルグル巻きにされて補強された机の壁が階段の終わり付近に置かれている筈……だった。


(こっから侵入したんだろうな……)


 しかし無理やり引きちぎられていて破られていた。

 周囲にはゾンビの遺体が転がっており、二人一組で銃火器を持って見張っている。


「どうするの?」


「君はどうしたい?」


「物凄くぶっ殺したい。あいつら見た覚えがある顔だわ。昨日散々レイプして――」


「OK、じゃあ殺してもいいな」


 アサルトライフルを構える。

 彼女もアサルトライフルを構えた。


「あんまり派手にドンパチやるとゾンビやら訳の分からん生命体がが寄って来る」


「ならどうするの?」


「手早く始末する」


 そう言って将一は素早く、階段前まで移動する。

 将一の銃の腕はそれ程高くないと自分自身思っている。

 ある程度必中距離まで近付いて先制攻撃かまして倒すところまで考えた。


「私が援護するわ」


「いや、ちょっと待て」


 そう言って梨子が銃を構える。

 銃の銃床を肩に押し当ててしっかりと構えるような、素人の将一と似たり寄ったりな構えだ。


「大丈夫、映画でも大体そんな感じでしょ?」

 

 本当に大丈夫かと思っていた矢先――


「おい、そこで何をやっている?」


「しまっ――」


 上の階から見下ろす様に敵が現れた。

 反射的に梨子が銃をぶっ放す。

 けたたましい銃撃音が響く。フルオートで発射したのだろう。余りの強烈な反動で銃身が制御できず、狙った目標から上の方へと銃弾が勢いよく放たれる。

 撃たれた相手は血飛沫を挙げてそのまま体育館の塀の裏へと消えた。


 それが戦いのゴングだった。


 ゾンビの呻き声も聞こえ出した。


「何があった!?」


(もうどうにでもなれ!!)


 将一は駆け出した。

 彼にしては珍しくアサルトライフルをフルオートモードにして階段を駆け上がる。どの道走ったままでは禄に狙いは付けられない。数撃ちゃ当たる戦法に切り替えた。

 敵は将一を認識する。瞬間にアサルトライフルをフルオートで乱射した。

 サプレッサーを付けていても激しい銃声が鳴り響き、銃の制御が碌に出来ないがそれでも血飛沫が上がっている。つまり当たっている。机を遮蔽物にしていたようだが、現代の銃は拳銃でも車を貫通する破壊力がある。軍用の突撃銃なら机なぞ容易に貫通できる。


 そうして相手をハチの巣にして、何故か爆発して木っ端微塵になり、思わず将一はその場に倒れ込んだ。


「ちょっと、大丈夫?」


「ああ大丈夫――」


 慌てて梨子が駆け寄り将一を抱き起そうとする。


「どうして爆発したの?」


「たぶん手留弾携帯してそれに銃弾が直撃して爆発したんだろう。俺も気をつけねえと……」(その辺りどうするのか瞬とかに聞いてみよう・・・・・・)


 するとガチャガチャと言う金属音と共に敵が走って来る音がする。

 体育館の内部でも銃撃音が響き始めた。


「やっぱ気付かれるな――予備のマガジンはあるな?」


「ええ、今セットしてるところ!」


「今度はフルオートでぶっ放すなよ! 出来る限り三点バーストで狙って撃て! いいな!? 三点バーストだぞ!?」


 そう言って自分のM-4突撃銃の弾を補充する。 


「ど、どうするの?」


「この丸いスイッチを中間にすればいい!! てか来たよ!」


 将一はグレネードを投げた。


「ヤバい! 爆弾だ!!」


「に、逃げろ!!」


 数瞬後に爆発する。


「行くぞ! GO! GO!」


 一気に階段を駆け上がる。

 そして二階南側正面玄関近くの壁まで来て覗き見る。

 慌てて飛び出して来た敵が数名現れた。


(3点バーストだと、間が空いて反撃される。反動がキツイがフルオートのまま一掃するか……)


 壁に隠れて、玄関前にいる敵に対して銃身を左右に制圧する様に射撃した。

 再び爆発。ガラスの窓が割れる音がする。また相手のグレネードにも直撃して誘爆したのだろう。


「自分でやっといて何だけどもう滅茶苦茶だ……耳がキーンってする」


「ええ――貴方って見掛けによらず過激な人なのね……」


「遂先日までは普通の学生だったんだよ、これでも……」


 そして体育館二階南側玄関を見る。

 人体のパーツだった物が散乱していて、酷い惨状になっている。


「平気か?」


「何が?」


「この光景」


「ゾンビに人を食われてるのを見て慣れた」


「そうか」


 良くも悪くもこの状況が彼女をタフにしたらしい。

 ガチャガチャと言う音が更に聞こえる。

 体育館の中から敵が三名追加で出現した。その中には角谷 士の姿もいた。

 二階の入り口で鉢合わせる形になった。 

 相手は構えるのが遅れて将一達に二人ほどハチの巣にされた。


「一人逃した!」 


「アイツ知ってるわ、角谷 士って奴よ」


「そいつも仲間か――」


 とか言っているウチに体育館の中で悲鳴が起きた。


「急ぐぞ!!」


「ええ!!」


 状況を確認する為に体育館に突入する。

 そこで見たのは――人質になったらしい生徒や教員。

 そして馬鹿どもの遺体があった。


「角谷の奴は!?」


「この状況見て逃げたんだろう」


 必死に梨子は探すが見当たらない様子だった。

 なので逃げたんだろうと将一は考えた。体育館二階南側のへの入り口には他に三階の体育館を上から眺められるフロアと一階へと続く階段が左右に別れて配置されてある。上が東側、左側が西側である。

 問題はどちらかだが。

 取り合えず上に警戒しながら体育館の中に踏み込む。皆どう言う感情で視線を向ければ良いのか分からないと言った表情をしている。


「来てくれたか」


 と、ここで聞き覚えのある声がする。

 真田 俊矢先生だ。

 返り血を浴びているが無事だったらしい。傍にはサプレッサーのピストルと薬莢が転がっている。状況から察するに隙を突いて体育館にいた連中を皆殺しにしたのだろう。

 今は生徒の一人の救急作業をしている。


「ここは任せて、出来れば角谷を追って欲しい。一階に逃げた筈だ」


「瞬ならともかく、それ普通生徒に頼みます?」


「あくまでお願いだ」


「了解――行くか。あ、バリケード破壊したんで修復頼みます」


 それだけ言い残して将一は立ち去った。

 梨子は「ちょっと待って」と言って追い掛けていく。



 角谷 士はとにかくデタラメに走り回った。

 何が起きたかさっぱりだった。

 気が付けば自分以外全員殺されていた。 

 もしこれが昴に知られれば自分が殺される。


(クソ! どこもかしこもバリケードだらけかよ!!)


 思わず一階へ逃げたが逃げ道が何かしらのバリケードで封鎖されている。

 何処かの窓をぶち破って外へ逃げるしかない。

 体育館の一階は更衣室や柔道部屋、シャワールームにフローリングの卓球部屋があった筈だ。


 直感で柔道部屋に向かった。

 しかし畳部屋の柔道部屋は高い位置窓以外が全て塞がれている。

 力付くでどけようかと思った時――


「動くな――」


「ちょっと、こいつ活かすの?」


「まあ聞きたい事があるんでな」


 追手が来た。

 一人は見覚えがある。散々食堂でレイプした女だ。

 もう一人は知らないメガネを掛けたジャージ姿の生徒だが雰囲気が明らかにあの怯えた子ウサギの様に縮こまっていた生徒達と違う。

 銃を構えて此方に近寄って来るだけでプレッシャーを肌で感じた。


「て、テメェ俺を撃てるのかよ?」


 ビビッて撃って来ないと踏んだ。


「ああ」


 しかし彼――荒木 将一は違った。

 躊躇いなく足に向かって発砲する。


「うあああああああああああ!! ああああああ!!」


 足を撃たれ、その場にうつ伏せに崩れ落ちた。

 士の手から拳銃が離れる。


「テメェマジでふざけんなよ!? 正気かよ!? 俺達にケンカ売ってタダで済むと思ってんのか!」


「知るかシャバ増が」


 近付いてサッカーボールを蹴る様にして顔面を蹴り飛ばされた。

 梨子は「痛そ――」と軽く笑みを浮かべながらその様子を眺めている。


「テメェらのリーダー、心堂 昴は何処に行った?」


「誰が教えるか」


「そうか。それは残念だ――」


 将一はナイフを取り出して、歩み寄り、躊躇いくなく背中側から肩に突き刺した。


「あああああああああああああああああああああああああ!?」


「言う気になったか?」


「いてぇえええええええええ!! いてえええええええええよちくしょおおおおおおおお!!」


「……」


 将一は無言でナイフを回転させる。 

 グチュグチュグチャと言うエグイ音と共に角谷は絶叫した。

 梨子もドン引きして顔を青くしている。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!!! ああああああああああああああ!? あああああああ!?」


「言う気になった?」


「あああああ……ああああああああ!! 助けてくれ!! こいつ頭のネジとんでやがる!!」


「……」


 無言でナイフを引き抜き、もう片方の肩に背中側から突き刺した。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


「言う気になった?」 


「言う!! 言うから!! 言うから助けてくれ!!」


「さっさと言え」


「心堂 昴は――昴は学生寮に向かった!! その後お坊ちゃん向けの校舎に向かうとか言ってた!!」


「お坊ちゃん向けの校舎? 特別校舎か――」


「なあ、言ったよな? 言ったから助けてくれるよな!?」


「いや、この出血じゃどの道助からん。安らかに死ね」


 足とナイフで抉って引き抜いた肩から流れ出る大量の血を見てそう判断した。

 特に足はアサルトライフルの3点バーストで打ち抜いたのだ。弾が貫通し、大量に血が流れている。素人判断でも、もう輸血が必要なレベルだ。


 それに助ける気は最初からないし助けても恩を仇で返されるのは目に見えているので心を鬼にして告げた。


「そんな!! 嘘だろ!? ふざけんなよ畜生!?」 


「……」


 無言でナイフを引き抜く。

 またしても絶叫が上がった。


「もうこれどっちが悪役よ――」


 梨子の言う通りどっちが悪党なのか分かった物ではなかった。


「お前は何もしなくてもいいのか?」


「そうしようかと思ったけど、あんな光景見せられた後じゃね……」


 その後の柔道室から叫び声が上がり続けたが段々と涙声になり、そしてすすり泣く声になって血の池の中に沈んだと言う。 





 こうして体育館での騒動は終わりを告げた。


 細かい事後処理は残っているが一先ず危機は去ったらしい。


 将一の想像通り、一旦真田先生は人質になって様子を伺っていたそうだ。


 しかし将一達が派手に動いたせいで事態が急変。

 動揺し、人質のガードへの注意が疎かになり、人が減った所を突いてあっと言う間に制圧(皆殺し)した。


 と、不機嫌そうに本野 真清が語ってくれた。


「で? その人誰?」


「ああ、食堂で助けたんだ」


 真清の視線の先には梨子がいた。

 服も体育館にあった予備の体操服に着替えている。


「どうも~朝倉 梨子です。梨子って呼んでもいいわよ」


「本野 真清よ。こちらも真清って呼んで貰っても構わないわ」


「だれだれ? もしかして将一の彼女さん?」


「ま、まあそんなところな?」(一線超えてるし間違いじゃないよな?)  


「てか真清さん。その血は――」


「私も撃ったのよ。生きている人間をね。将一はもっと沢山撃ったんでしょうけど――」


「…………」


 何も言えなかった。

 後から判明した事だが、屋上で助けた面々の中にも仲間がいたらしく、それに合流した人員がいたらしい。

 そいつが真田先生を撃とうとした為、反射的に隠し持っていた銃で射殺したそうだ。血が付いたのはその時の返り血である。


「これからどうするの?」


「瞬と合流して学生寮まで行く。そこで武装集団を壊滅させる」


「今回の騒動は貴方のせいじゃないわよ。誰も想像なんて出来なかったわ」


「でもな――もう決めた事だから」


「将一――」


「お二人さん。ここ体育館の真ん中なの分かってる?」


「「ッ!?」」


 梨子にそう言われて周囲から視線を集めている事が分かって顔が真っ赤になる。


「と、とにかく無事でよかった」


「そうね――」


「そう言えば……」


「何かしら?」


「武器の管理云々の話はどうなったんだ?」


「ああ、あの話やっぱ将一の耳にも届いてたんだ……実はね」


 真清が語るのはその教師の末路だった。

 最初は話し合いで解決しようとしたが掴み掛かったが揉み合いになった末に突き飛ばされて射殺されたらしい。


 と、ブルーシートを掛けられた遺体を見つめながらそう説明した。


「つまり主導する人間がいなくなり――独自裁量になったって事か――って、アンナの奴、何やってんだ?」


「ああ、同じ部員の子だっけ? 何か銃の扱い方とか教えてるみたいよ」


 アンナの周りには男子、女子の人だかりが出来ていて銃の扱い方をレクチャーしている。

 本当に彼女は何者なんだろうかと将一は不安になって来た。  


「まあともかく、ちょっと合流まで時間があるだろうし、休憩するわ」


「ねえ、それ私も付いて行っていい?」


「……どうしてもって言うんならアンナに必要最低限指導してもらえ」


「じゃあ私も付いていくわ」


「ライバル心燃やすな。ハーレム作る気ねえから」


 突然対抗心を燃やす真清に将一は頭を抱えた。


「でも本当は作りたいんでしょ?」


「え? そうなの将一?」


「お前達人前で何口走ってんだ……」


 何故か真清の頭の中では将一はハーレムを作ろうとしている人になっているらしい。

 梨子は口元を押さえて顔を真っ赤にしている。何を考えているのだろうか――将一はあまり意識を向けない様にした。


「こんな状況だからこそよ」


「ヤケッパチになってないか?」


「冷静に考えた末の判断よ」


「自分が死ぬ可能性を考慮しての判断がか?」


「うん……」


 もしこれで自分が死んだらどうするんだと将一は溜め息をついた。

 とにかく今は色恋沙汰にうつつを抜かしている暇はあんまりない――体の良い現実逃避にも感じるが、あと一日半もすればこの校舎は灰になるのだ。


「……その考えが変わる事を祈るよ」


 これからどうするか考える時間を得る為にも将一は瞬との合流地点に向かう事にした。

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