第十九話「起源」
「そうですか・・・・・・そんなメールが・・・・・・」
瞬は驚いた様子だった。
一先ずエントランスホールで瞬や霞にスマフォの内容を相談した。
何故二人かと言うと偶々近くにいて相談出来そうなのがこの二人だったからだ。
「ミーミルの生き残りがこの学園の警備システムを使って高見の見物をしていたのだろう」
(まあ戦車からロボットまで何でも隠されてる学園だもんな・・・・・・そんぐらいのセキリティシステムは当然か)
将一はこれまでの事を思い出して霞の意見に納得した。
「なあ、如月さん」
「なんだ?」
「自爆装置の事、心堂の奴には?」
「いいや、あの当時追い払う事に夢中で言葉を交わす暇は無かった」
「そうか・・・・・・」
ごもっともなご意見だ。
これで疑問の一つが解消出来た。
次に将一は最も重要な質問を投げかけた。
「今更過ぎるけど、ミーミルって何なんだ?」
「・・・・・・」
少し黙った後、
「この事態を引き起こした一端を担っていると言っても納得しないだろうな。まあ言い。瞬もよく聞け」
「はい――」
と、彼女は口を開いた。
どうやら知っているようだ。
真田先生に聞こうかと思った事があるがずっとずっと、生き延びる為だけにその事を先送りにしていた。
「先ずミーミルは裏でウイルス兵器を開発していた会社と言うのは間違いない。この現状を見れば明白だな?」
再確認するように尋ねた。
「本当に有名なゾンビゲーの設定そのままだな」
もう使い古された設定だ。
驚きもしない。
「ああ。そのままだ。だがある部分に置いて大きな違いが存在する」
「大きな違い?」
「元々ゾンビはアフリカ大陸で発生した物だ」
「はい!?」
「なっ!?」
瞬も驚いた。
ゾンビが元々自然発生した?
どう言う事だろうか。説明して欲しい。
「それも以前から確認されていた。第二次世界大戦前にな。始まりはアフリカ大陸のとある人食いの習慣を持つ部族が発端だったらしい」
「確かにそう言う部族の話しは聞いた事がありますが――」
「何かヤバイウイルスが含まれてる魔法の粉でもキメたんだろうよ」
確かにあり得そうな話しだなと二人は思った。
「当時の記録によれば今のゾンビと同じく、噛む事による接触感染を行い個体数を増やしていたそうだ。それを見て生物兵器として運用しようと枢軸国と連合国が利用を目論んだ用だが失敗に終わった」
「人類の業が深いのは今も昔も同じなのね」
今も昔も人間は愚からしい事に将一は頭を抱えた。
「確かにな・・・・・・話を続けるぞ? 特に枢軸国側はその研究を連合国側よりもリードしていた。しかし戦後になると枢軸国側は残党下し、極秘裏に研究を進めた」
「何か話聞いてる限りだと、ちょくちょく今回みたいな災害は起きてる感じなんだけど」
「そこは分からない。当時は今の時代の様にインターネットは発達していなかったし、起きても隠蔽は難しくなかったがそれでも限界はある。かなり慎重に進めてたんだろう」
「で? そいつらがミーミルの前身に当たると?」
枢軸国と言えば当時の日本、イタリア、ドイツを中心とした国々の事である。
特にドイツはオカルト的な話題が尽きない。
アドルフ・ヒトラーは世界征服する為に魔術や宗教などにも手を出していたと言う話があるぐらいだ。
霞の話しが本当で今の状況を考えるならネオナチスがミーミルの前身に当たると考えても別に不思議でもなんでもない。
すんなりと将一は納得してしまう。
「いや、違う」
「違う? どう言う事ですか?」
「戦後になると、東西の冷戦が勃発した。お互い相手の上を行く為に様々な技術を手に入れようとした。その一つがウイルス兵器だ。それを手に入れるために半ば東西と元枢軸国の組織間での争いがあった。結果は組織力の差が出て、東側はソ連の崩壊により、西側の勝利で幕が降りた」
冷戦の時代にそんな暗闘があったらしい。
どんな内容かはあまり深く考えない方が良さそうだ。
「ミーミルが誕生したのはその時だ。本来の目的はゾンビから世界の平和を守る為――と言うのがお題目だった。感染源は物理的に抹消したらしいがウイルスその物のサンプルや技術などはかなり流出していた。それを未然に防ぐのがミーミルだ。いや今となってはだったと言うわけか」
「あーそう言う事か?」
「将一さんも分かりますか?」
「ああ、時が経つに連れて組織が変貌して行ったんだろう。ウイルスを狩る側じゃなくて、ウイルスを生物兵器として積極的に利用する側になったんだ。違うか?」
ありふれた話だ。
どんな国家や組織にも時間の流れによる腐廃や衰退は存在する。
ミーミルもその例に漏れなかっただけの話しだ。
「その通りだ。ミーミルはいつ頃からそうなったかは分からない。だが大国をパトロンとしていた企業は何時しか主従が逆転し、世界規模で影響を及ぼす組織になった。そしてある計画を実行に移した」
「計画?」
「君のスマフォに書いてあっただろう。新たなる秩序の礎となる――と、先日のミーミルの本社ビルへの攻撃はその計画を知った者達の阻止行動だ」
「あ~ちょっと待て。その計画も気になるんだろうがどうして日本の地方都市の、比良坂市に本社ビルがあるんだ?」
ふと気になってしまった。
そんな大規模な多国籍企業のミーミルの本社ビルがどうしてこの町にあるのか今更気になったのである。
日本に建てるにしても他に場所はあるだろうにと思ってしまった。
「戦後、枢軸国側がウイルス兵器の研究資料などを持って地下に潜った時、一番規模がデカく、そして本拠地だったのがこの土地だった。冷戦での暗闘が終わった後、その研究を全て引き継ぎ、封印する形で最初のミーミルの、すなわち本社ビルが建てられた」
「そんな歴史が・・・・・・」
「ああ。それに戦後日本のウイルス研究が続けられた土地でもあったんだ」
(もう呪われてるようなもんじゃねえか)
よくもまあ戦後半世紀以上も隠し通していたもんだと思った。
「で? 話し戻すけど計画ってのは?」
「人類の間引きだ」
「なに?」
「それがミーミルの目的だったんですね?」
将一も瞬も理解出来た。
ただ方法としてはどうなのか、将一は疑問に思った。
「人類の総人口は年々増加している。既にもう食糧危機に陥っている。それを阻止するのに思い付いたのがて人類の数を減らす事だったのさ。問題はその方法だった」
「それが今の状況か・・・・・・」
「分かりましたか?」
「ある程度はな・・・・・・ゾンビを使い、世界中を満遍なく大量虐殺を行って、どうやってこの災厄から復興を成し遂げるかは分からないが何十年もの長い間研究していた連中だ。ワクチンなり予防薬などの何かしらの有効的な対策手段は完成させてるだろう。それを使って救世主の様に降臨すれば目論見達成。真相は騒ぎに乗じて適当にでっちあげるなり、闇に葬れば良い」
少なくとも呑気に情報収集してデーターをフィードバックするぐらいの施設は確保しているぐらいだ。
かなりの期間、計画を練って実行したのだろう。
計画発動後の段取りも出来てる筈だと将一は思う。
「で? その大量虐殺計画、世界は知ってたのか?」
続けて将一は尋ねた。
「ああ。だから、本社ビルに世界各国の軍隊が共同で突入した。恐らく本社ビルでは壮絶な戦いが行われた筈だ。エクスキューショーナー・・・・・・君達が先程倒した化け物の他にゾンビや様々な生物兵器も投入されただろう。結果はどうなったかは知らん」
「え? 知らないんですか?」
「私はテッキリ知ってる物かと――」
瞬でさえも結果は知らなかったようだ。
(たぶんウイルスやらゾンビやらが流出ぐらいしか知らなかったんだろうな・・・・・・)
何だか遠い昔の事の様にその時の事を思い出す。
初めて教室で銃を浸かってゾンビの手からクラスメイトを助け、そして安全な場所まで先導してくれた事。
自分だけ逃げると言う選択肢もあった筈だ。にも関わらず彼は自分達の為に最善を尽くしてくれた。
長いこと瞬とはプライベートでも接して来たがここまで聖人君子に近い人間だとは将一は思わなかった。
「ああ、生存者の報告は聞いてない。もしかしたらいるかも知れないが甚大な被害は出た筈だ。少なくとも日本陣営は全滅だろう」
「そうですか・・・・・・」
何か思う事があるのか瞬が悲しげに呟いた。
彼の悲しげな顔はとても将一の心に響いた。
だがどうする事も出来ない。何も言えなかった。
「ここからはあくまで予想だ。ミーミルは国境の概念が無い独立国家の様な物だ。そしてウイルス兵器は彼達にとって核兵器に相当する最重要機密に当たる。それを奪われそうになって何かしらの危機感を持ったのだろう。それで計画を早めた恐れがある」
「それで今に繋がるのか・・・・・・」
「あくまで予想だがな。真田と言う男に聞いてもこれ以上の情報が出るとは思えん」
「確かにミーミルの一員っぽいけどそれ以上の事は知らなさそうだもんな――」
真田 俊也がミーミルの一員である事は何となく想像は付いているが今迄お世話になっておいてたかだかそんな理由で敵視したくはなかった。
ミーミル全員が悪者ってわけでも無いのだろう。
あの体育倉庫前で出会った人の様に――
(そう言えば――)
ふと思い出す。
(この学園はミーミルの施設と地下で繋がっている。誰かが逃げ込んだ際にゾンビの大軍も学校に招き入れたんだろう――俺はモノレールでここに来た時にはもうこの状態だった――)
そう。確かにそう言っていた。
それで閃いた。
「なあ、瞬、それに如月さん。無理に壁を破壊しなくても地下のモノレールで脱出出来るかも知れない」
「モノレールだと!?」
「そんな物があったんですか!?」
二人は驚いた様子だった。
「ああ、どうして忘れてたんだ!! 真清も聞いてただろうに!! 自爆装置の事やら何やらで頭が一杯だった!!」
本当にどうして今迄忘れていたのだろうかと自分の大間抜けさを呪った。
だが今は間抜けさを呪うよりも行動に移すべきだと考えた。
「念の為真田先生に会いに行くぞ! もしかしたら本人も自分みたいに見落としているかも知れない!」
「分かった。瞬も付いていってやれ」
「分かりました――お気を付けて――」
早速行動を開始した。
「他の女性陣は置いといて良いんですか?」
メグミ、リオ、梨子、真清の四人とも今は学生寮にいる。
置いていく形になるが今は一分一秒が惜しかった。
「あいつら結構逞しいから置いといても大丈夫だろう。とにかくモノレールの場所を探そう。真田先生に頼んで東校舎の地下にあるモニタールームを使えば場所は分かるかも知れない」
「成る程、その手で行きますか」
そうして二人は真田先生の元に急いだ。
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