第二十八話「全てに決着をつけるため」


 将一達は瞬や梨子達三人と一緒に地下施設へと改めて潜り込んだ。

 あの植物の化け物が道中のゾンビの遺体などを片っ端から食ったのが不自然までになくなっている。

 その変わり、床などがあちこち溶けていた。

 改めてとんでもない化け物を殺した物だと思った。


 ちなみに件の化け物は駆け付けて来たアンナ達が焼却処分するようだ。

 そりゃあんなデカイバケモンが広い学園とは言え、校舎内で暴れれば一目に付くわなと将一は思った。


「嵐の前の静けさがここまで似合う状況もピッタリだな・・・・・・」


 と助手席で将一はぼやいた。


「やはり女性陣を連れて来るのは間違いだったのでは?」


「・・・・・・今更だ」


 運転している瞬の言う事は最もであるがそう言い出せる空気では無い。


 だが、これもありかもと思った。学園の安全も十分に確保されたわけではないし――皮肉ではあるが、まだ危険と分かっている分、気を緩めずに済むので逆に安全とも考えられる。


 とにもかくも、長い戦いがようやく終わる。

 いや、長い戦いを始めるための戦いでしかないかも知れないが。


 それに――この事件の舞台裏はある程度知ったが、「今どうなっているのか?」と言う点においてはまだ分からない部分が多い。


 例えばミーミルについてもそうだ。

 今回の件はミーミルの反対派と賛成派の抗争、そして三日前のビルの襲撃で少なくとも各国政府の特殊部隊が突入したのは間違いない。

 その戦いにおいて生物兵器が実戦投入され、更にはウイルスが流出した。


 今のミーミルは生物兵器による人類間引き後の新政府を作り上げる体制作りと実戦投入した生物兵器のデーター収集を行っている。


 全てがミーミルの計画通りに動いているならば。


 だがミーミルは三日前の事件でどれぐらいのダメージを受けたのか?

 少なくとも生物兵器の戦闘データーを収集するぐらいにはまだある筈であるが、どれぐらいの規模でやってるのかも分からない。


(考えるのはやめだ)


 どの道、全ての答えはこの先にある。


「辿り着きましたよ」


「案の定、解放されてるな」


 一同は装甲車から降りる。

 白い巨大なゲートが開放されていた。

 綺麗に片付いているのはあの植物の胃袋に収まったせいだろう。


「さてと。何が出て来るやら」


 どうせ碌な化け物が出てこないだろう。

 そう思いつつ、俺達はゲート内部に突入した。


☆   


 白塗りの綺麗な空間。

 実験施設と言う言葉が相応しい。

 窓から都会の景色が見え、ここが地下だと忘れてしまいそうになる。

 昔見たゾンビ映画の実験施設もこんな感じだったなと思いつつトラップに気を配る。


 瞬が戦闘に立ってトラップを探知していく感じだ。


「どうだ?」


「不思議なぐらいにトラップが作動しませんね――恐らく解除されたか破壊されたか・・・・・・それに作動してるのならゾンビ辺りが引っかかってるでしょうし」


「だよな・・・・・・」


 と思いつつ、白塗りの空間の中で真っ赤に染まっている部分を見た。

 一つや二つじゃ無い。中には人間の臓物らしき物が転がっている。慣れはしたがあんまり長く直視はしたくなかった。

 この極秘施設も惨劇の現場になったらしい。


「それよりも相手から挑戦状叩き付けられたみたいだけど、何処に向かえばいいの?」


 当然な疑問を梨子が投げかけた。メグミは怯えた様子でキョロキョロしている。


「実はと言うと具体的な事は何も言われて無いんだよな――またB級映画みたいな化け物とでも戦わされるのかな?」


 将一は頭の中で色んな怪物の姿を想像した。

 ゲームやら映画やら、とにかく色んな化け物を考えてシュミレートしている。


『まずはよくここまで辿り着いたと言っておこうか』


 丁度特別校舎で聞いた女の声が館内に響いた。

 感情が感じられない淡々とした口調だ。


「お、タイミング良く放送来たな」


『其方の行動は逐一監視しているからな』


「だよな」


 学園と違ってここは謎の人物のホームグラウンドだ。

 監視するのは楽勝だろう。


『試験場で待っている。そこで決着を付けよう』


「試験場か――」


「近くですよ」


『そこで私の最高傑作と戦って貰う』


「そうか――」


 それが最後のやり取りだった。 



 彼女にとって、研究が人生の全てだった。

 研究内容が例え非人道的であれだ。


 そうする事で両親から褒めて貰える。


 だから一生懸命頑張った。


 だが段々と両親から、そして周囲からその才能を疎まれるようになる。


 認めて貰えるのは上層部だけ。


 理解してくれる人間は周囲に誰もいない。


 そんな人生を歩んでいくウチにある答えに辿り着いた。


 それは己の理解者は己だけでいい。


 組織の理念など知った事では無かった。


 それは今の状況になっても変わらない。


 先日の本社の襲撃の時に自分の作品達が世界各国の特殊部隊達を殺して回った時はとても嬉しかった。


 ゾンビ達がこの世を地獄に変えた時は自分は新世界の神になったかの様な高揚感を得た。


 だがそんな気持ちはある少年との出会いで一変する。



 荒木 将一。


 データーベースを見る限りではただの一般人である。


 何度何度も探ったが本当に一般人である。


 目に見えて分かる勢いでドンドン彼は自分の人生その者を否定する存在へと変貌しつつあった。



 ――武器の恩恵があったとは言え、ただの高校性如きに殺される生物兵器は必要か不要かと言う事だ。


 ――はっ、確かにな。お前達の研究なんざその程度のもんだって事じゃねーのか? んでどーするつもりだ? 研究続けてもっと強い生物でも作るか?


 ――そうだ。


 ――で? その為にも俺を殺すか? だったら自爆装置をさっさと作動させろ。そうすりゃアンタの勝ちだろう。



 彼の言う通り自爆装置を遠隔操作で作動させれば自分の勝ちだ。 


 いや、そもそも対決を避けると言う選択肢もあった筈だ。


 だが認められない。


 どうしても荒木 将一の存在をこの世に生かしておくわけにはいかなかった。



 だから殺す。


 絶対に殺す。


 そうすれば自分の人生が何なのか分からなくなる。


 だから最強のカードを切る事にした。




「ふーん、ここが試験場」


 と言いつつ、天井を見上げる。

 試験場は地面から競り出た分厚い遮蔽物などが沢山ある、まるでサバゲーの会場の様だった。

 天井も高く、六角形のドーム状の部屋である事が分かる。


「次はどんな化け物が出て来るかしら?」


 と、梨子は当然の疑問を口にする。

 今ルーム内には二人しかいない。

 他の三人はリスク分散のために念の為、別行動して貰っている。

 決してタイミング良くどこからともなく武器を投げて貰ってそれでトドメを刺したいわけではない。


『二人だけで来たのか?』


 と、スピーカーから女性の声が聞こえた。


「まあな。人数の指定はしてなかったろ?」


『後悔するなよ』


「そっちもな」


 それだけやり取りする。

 そして地下のハッチから何かが競り上がって来た。

 取りあえずグレネードを投げ込んでおく。


『ちょ、おま――』


 珍しく狼狽する様子を見せた。

 誰が待つか。

 出て来る相手が敵であるのなら先手必勝である。

 爆発。


 更に投げ込んで爆発が何度も起きる。





「派手にやってるね~」


 爆発音と振動を感じつつメグミは呑気な事を良いながら施設内で生き残ったゾンビを電磁警棒で倒して行く。時折銃も使うが彼女はどちらかと言うと接近戦の方が性に合うらしい。

 時折トカゲの化け物とかも出て来るが、其方は瞬と梨子が銃で始末した。


「で? 二手に別れた理由は何なのかしら?」


 突然の事だったので真清は不満タラタラにして言う。


「まあ、そのウチ分かります。今自分達が出来る事をしましょう」


「自分達が出来ること?」


「相手も気付いているでしょうし、時間との勝負です。一刻も早くデーターベースにアクセスしに行かないと」


 そう言って瞬は手早く片付けていく。

 するとある最大の強敵に出くわしてしまった。


「おや――まだいたんですねコイツ」


 今日戦ったばかりの、何か随分間が空いたような気もするが――大きな斧と黒いコートを持ち、銀色のバケツを被った怪物。

 エクスキューショナーが現れた。


 返り血で真っ赤に染まっており、銃弾やら爆発物がかなり叩き込まれのかコートがボロボロになっていて逞しい肉体がところどころ露出していた。

 頭部のバケツ型ヘルメットも破壊されておりグロテスクな顔を覗かせている。


 こいつは三人は知らない事だがミーミルの襲撃事件の時に投入された奴の一体である。

 エクスキューショナーは確かに強力な生物兵器だが相手も特殊部隊出身だかで固められたプロである。壮絶な激戦があった事に違いない。


 現在はコントロールを受け付けず、そのまま放浪している。


 二人はともかく、瞬は「これは不味いかな?」と思った。



 現れたのは爆発でボロボロになった少女だった何かだった。 

 生前は綺麗な少女だったのだろう。肌も髪の毛も真っ白である。

 まるで両手足と下半身がまるで壁画に埋め込まれているような体勢で胴体に配置されている。

 悪魔を連想させる頭部。

 熊の様な化け物を連想させる屈強で逞しい上半身。ご丁寧に爪が伸びていた。

 下半身が屈強なボディビル選手程度のボリューム。 

 尻尾や鳥の様な羽まで生えている。


 生態兵器の一種と言うより神話の化け物か何かの様に思えた。


「何アレ?」


「俺が聞きてえよ。ゾンビ学者の最高傑作だからどんなグロイもんが出て来ると思ったらアラガミの新種みたいな生物を創りやがって――」


 そう言いつつ銃弾を撃ち込む。

 取りあえず柔らかそうな、胴体に埋め込まれた少女の体に撃ち込んでいる感じだ。

 血が出ているが効いているのかどうか怪しいもんである。


「来るぞ!」


 そうこうしているウチに羽を羽ばたかせて飛び上がり、空中を飛行しながら胴体上のグロテスクな悪魔面の顔の方から火炎弾を乱射してくる。

 特撮物よろしく激しい爆発が巻き起こった。

 それをどうにか凌ぐ二人も人間としてどうかと思う段階である。


「一体何をどうすればこんな化け物が産まれるのよ!? 実は密かに魔界の門でも開いてんじゃないの!?」


「冗談に聞こえないなそれ――ってあぶね!」


 今度は両手から電撃を放って来た。

 咄嗟に遮蔽物に隠れて逃れる。

 本気で将一は「アレは魔界から呼び出した生物の一種じゃねえのか」とか思い始めていた。

 もしそうなら銃じゃなくて異世界産の伝説の武器が欲しかった。


「何か腕から触手生えて来た!!」


「右腕も一本増えた――質量保存も何もあったもんじゃねえな」


 銃弾を撃ち込んで行くがダメージを負う度にドンドン形状が変化して行っている。

 左腕が触手が出て来て、右腕が一本増え、増えた体重を支えるために今度はコウモリの翼が生えて来た。

 胴体上の頭部からは角や牙が出て来た。

 もうまるで何処までグロテスクな生物を作れるかの限界点を模索しているようだ。


「ねえ、部隊を分けた理由ってやっぱりこう言う事?」


「なんだ?」


「惚けないで――よくゾンビゲーとかでさ、普通の銃弾とかじゃ倒せない生物とか出て来るじゃない。それを見越して分けたんでしょ?」


「ああ――もしかしてアイツ、その類いかも知れない」


「ならどうして先に――」


 倒す方法を探してからでも、と言おうとしたが、


「そうすると妨害される可能性があったからな。少しでも注意を惹きたかった」


「成る程ね」


 言われて合点が行った。


「だけど最高傑作とか言ってるからな。無い可能性もある」


「その場合はどうするの?」


「今思いついたが一旦逃げる」


「どうやって? ゲート閉まって――ああその為に部隊分けたのね」


「そゆこと」


 とやり取りしながら銃弾を撃ち込む。

 既に百発以上は撃ち込んでいる。

 二人とも素早く場所を変えながらの銃撃である。ボケッと突っ立ていると障害物もろとも殺されるのでそうする他無かった。

 相手もそれに合わせて素早く飛び回り遠距離攻撃を加える。


 既に地面は敵の遠距離攻撃で絨毯爆撃でも受けた爆心地の様になっていた。


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 女性の様な甲高い声で咆哮を挙げる怪物。

 そして飛び掛かって来た。  


「いいぞ、来いよ!」


「やれやれ、とんでもない人を好きになったもんね」


 将一はそれに応じ、梨子もそれに合わせる様に銃を向けて飛び込む。

 勝利の女神はどちらに微笑むのか?


   

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