その頃の裏切り者は……

 何処を見回しても果てが見えない、白くて広い空間――。



 そんな場所に、まるで王が座るかのような豪華な椅子がポツンと置かれていた。

 この白い空間を創り出している人物が座っているのだが、姿は椅子の背凭れに隠れて見えない。

 しかし、椅子の脚の間から覗くプラプラと動く足や話し声で、椅子に座る人物がまだ子供なんだと分かる。



 セクター・シェリクスは椅子の後ろに跪き、頭を下げていた。



「はぁ~……思わぬ展開になったね」

「申し訳ありません」

「いいよ、いいよ。僕だって、まさかこんな事になるなんて思いもよらなかったしねー」

 子供の表情は見えないが、椅子の肘から手を出して横に振り、怒ってはいないと言う。

「でも、新しく入った二人は要注意かな」

「はい。あの者達が入って来てから、計画が何度か露見しそうになったりしました。それに……」

「それに?」

「……一人、気になる能力持ちがいます」

「へぇ……?」

「ルイと言う、瞬間移動の能力を持つ少女です」

「何がどう気になるの?」



 子供の言葉にセクターは少し考えてから、口を開く



「その……私が今まで見て来た瞬間移動の能力持ちと、少し違和感があるんです」

「違和感?」

「はい。何が、とは明確には言えませんが……」

「ふぅ~ん」

 足を揺らしながらセクターの話を聞いていた子供は、それから直ぐに分かったと言う。

「まずは、君がに戻って来てからだね。その後に詳しく聞こうかな」

「はい」

「じゃあ、前に言っていた子と一緒に、指定の場所で待ってて? 迎えを行かせるから」

「分かりました」



 子供の言葉に頭を更に下げ、暫くしてから顔を上げると――セクターは今までいた白い空間から、潜伏していた空き家の一室に一人で跪いていた。



 ふぅーっと息を吐き出しながら立ち上がり、部屋の隅へと視線を向ける。

 そこには、血塗れの状態で床の上に転がされているイーグニスがいた。

 傷口が炎症して熱があるのか、荒い息をしている。

 しかし、セクターはそんなイーグニスを冷めた目で見てから掌を翳し、その体を陰で包み込む。

「くそっ……こいつが作戦を失敗したお陰で、私の計画が全て狂ってしまった」

 頭を乱暴に掻きながらも、でも、と呟く。

「こいつには、まだまだ働いてもらう必要がある……復讐を遂行する為にも」

 セクターはそう言いながら、己にも地面から伸び上がる影を纏わせる。

 それは足元から徐々に上に上がり、全身を陰で黒く染め上げる。



「次に私が動く時……その時こそ、お前が大事にしている生徒を残らず殺してやる。エルス・ランナル、覚悟をしておけ」



 その言葉を最後に、セクター・シェリクスとイーグニスの姿は空き家の部屋から一瞬にして消えたのだった。

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能力喰いの少女 ちびすけ @chibisuke

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