14

 シンディーの言葉に、否定出来ない私がいる。

 確かに、あの時お婆さん達は重なり合って倒れていた。

 だから、そこから二人の血が流れて水溜りに混ざっていたとしても、不思議じゃない。

 シンディーは壁側に置かれている机のに歩いて行くと、机の引き出しから紙と鉛筆みたいな物を取り出す。

 机の上で何かを書いていたが、書き終わると私の前にまで来て紙をぴらぴらと振る。。

「ねぇ、この紙に書いた文章をあのお婆さんみたいに変えるのを試してみてよ。もしかしたら、出来るかもよ?」

 そう言って手渡された紙に視線を向けると。



『シンディー。十六歳。能力無し』



 とだけ書かれていた。

 流石にそこまでは出来ないでしょ、と思いながらも、お婆さんと同じように紙に手を翳し、『能力無し』の部分を『治癒・痛覚麻痺』に変われ――と頭の中で命じてみる。

 すると、紙の上に書かれていたシンディーの文字がカタカタと動き出した。

「えっ!?」

「わぁ~、本当に出来ちゃったよ」

 顔を引き攣らせなが動く文字を二人で見ていると、それはカタカタと動いてからフワリと紙から浮き上がる。

 それから紙と掌の間で一つに集まって固まり、黒いビー玉みたいになった。

 すると、直ぐにそれは紙の上に文字として戻って行く。

 恐る恐ると言った感じに掌を紙からどけて見てみると。



『シンディー。十六歳。能力――治癒、痛覚麻痺』



 シンディーが言った通り、本当に出来ちゃっていた。

「まさか、本当にやれるとは……」

 シンディーは紙を見ながら、本当、規格外の能力を持ってるわーと呟く。

 お互い、能力で文字を変えた紙を眺めていたのだが、疲れて来たので休憩を取る事にした。





 先生と孤児院の子達が作ってくれた色んな種類のクッキーをシンディーが貰って来たので、それを食べながら今後の事を話し合う。



 まずは、学園に入るにしても、攫われた時に書き換えられた出生管理書がどうなっているのか確認したい。

 自分達が能力無しの孤児として書き換えられていたのは、教えられていたから分かっている。

 でも、それ以外はどんな内容で書かれているのか分からない。

「まずは、先生に『推薦状』を書いてもらって、それを役所の中にある『出生管理課』に持って行こうと思う」

「推薦状?」

「そう、『能力に目覚めた子供がいます、学園への編入手続きをお願いします』って言うような内容が書かれてるんだよ」



 どうやら、その推薦状なるものが有るか無いかで、学園に入る手続きがかなり違うとのこと。



「出生管理書のは……ふふふ。まぁ、私にいい考えがあるの」

「どんな考え……って、それ私が食べようとしてたクッキー!」

「こういうのは早い者勝ちなんです」

 最後に食べようと思って、残していたナッツ入りのクッキーを食べられてしまった。



 くぅっ、こんなことなら最初に食べておくんだった。



 ジト目で見詰めるも、シンディーはナッツ入りのクッキーを食べながら話し続ける。

「書き換えられた出生管理書は、ルイの『時を止める』能力と、『情報を書き換える』っていう新しい能力で何とかなると思うんだ。それよりも問題なのが……ルイの能力を“どうするか”だね」

「どういう意味?」

「あまりにも希少な能力は、良い意味でも悪い意味でも目を付けられやすいんだよ。最悪、その能力が外――他国に出ないよう、国の『監視』が付くかもしれないし」

「それはヤダ」

「でしょ? だから、ルイの能力を最初に何にするか決めておいた方がいいと思うんだ」

「じゃあ、時を止めるって言う能力だけにしたらどうかな?」

「悪くないけど、時を止めるのもかなり珍しい能力だからね……あ! それならさ、『瞬間移動』の能力って事にしたらどうかな?」

「……瞬間移動?」



 何で瞬間移動なんて言葉が出て来たのかと首を傾げると、思い出さない? と言われる。



「囚われていた時にさ、お婆さんがあの牢の中と外を行ったり来たりしているのを見てて、私達にはそれが瞬間移動をしているように思わなかった?」

「あぁ、確かに!」

「能力を使っている本人には『時』が止まっている時に動いているだけなんだけど、それ以外の人には、能力者が瞬間移動しているように見えるんだよ」

「なるほどね。……でも、それも珍しい能力じゃないの?」

「そこそこ珍しいけど、時を止める能力よりは多いはず。軍の中にも数人いるって聞いた事があるしね」

「そうかぁ……じゃあ、私の能力は『瞬間移動』にしようかな」

 こうして、私の今後の能力は『瞬間移動』と言う事で決まった。

 だけど……本当の能力の『呼び方』は何と言うんだろう? と首を傾げる。

 シンディーに聞いても、今までそんな能力なんて聞いた事もないと首を振られた。

 う~ん、と考えた後に、シンディーは指を立ててこう言う。



 能力喰い――なんてどうかな。



「能力……ぐい?」

 や、なんかもっといい表現とかないの?

 微妙な顔をしていると、シンディーは肩を竦める。

「だってさ~、ルイの話を聞いてると他人の能力を食べてる感じがするんだよね。他人の能力を『奪う』訳じゃ無さそうだし、それに相手の能力をそっくりそのまま『コピー』したのなら、時を止める能力を持っていたお婆さんと時を止められないはずなのに、その能力を大幅に上回る能力を発揮してるでしょ?」

「まぁ……確かに」

「でしょ? 後は、『知らせの樹』の穴から出て来た『でっかい口』も、何かを食べるかのようにむしゃむしゃ動かしてたしさ。見た感じも可愛らしいもんじゃないし、もう『能力喰い』でいいと思う」

「……そうですか」

 


 こうして、私の能力は『能力喰い』で決まったのである。

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