13

 いまいちシンディーの言っている事が理解出来ないでいると。

「ねぇ、ちょっとこっちに来て」

「え? ちょ、ちょっとシンディー?」

 そんな私を無視して、シンディーは歩き出す。

 慌ててその後を追うと、どうやら孤児院の中に戻るようだった。

 中に入り、厨房らしき場所に来ると、中で小さな子供達とおやつを作っていた先生に「先生ー! ちょっと果物ナイフ借りるね!」と言って、戸棚の中に仕舞われていたナイフを手に持つと、又どこかへと歩き出す。

 そのまま後を付いて行くと、どうやら元の部屋に戻るみたいだった。

 部屋に入り、内側から鍵を掛けると、シンディーは私に椅子に座るように言うから、その通りにした。



 何をするんだろうと思いながら黙って座っていると、シンディーは突然持っていた果物ナイフで腕を斬り付けた!



「わぁーっ!? 何やってんのシンディー!!」

 傷はあまり深くないみたいだけど、傷口から流れて来る血を見ながら慌てて止血しなきゃと立ち上がれば、「大丈夫だって」と至って落ち着いた声で椅子に座り直すように言われる。

「こんな傷、直ぐ治せるし、それに私には痛覚麻痺の能力があるから痛くないんだって」

「シンディーは痛くなくても、見てるこっちが痛い!」

 血がにじむ傷口を顔を顰めながら見ていると、シンディーに笑われた。

「まぁまぁ、そう言わずに。ルイの能力を確かめる為なんだから、ちょっと我慢して」

「私の能力を確かめる?」

「そっ!」



 シンディーはそう言うと、傷がある方の腕を私の目の前まで持って来て、触ってと笑う。



「え~っ」

「そんな嫌そうな顔をしないで! まぁ、他人の血を触るのは嫌だろうけど、ちょっと触れるだけでもいいから」

「本当に、そんなので分かるの?」

「絶対とは言い切れないけど、もし私の血に触った後に“あの時”と同じ現象が起きて、ルイに私と同じ能力が備われば――まぁ、それはやってみなきゃ分かんないわ」

 だからさっさとやっちゃって! と言われ、仕方がなくシンディーの血に指先でちょんと触れてみる。



 すると、血に触れた指先から温かい“何か”が腕を通り、それは口の中に少しずつ溜まる。



 私は慌てて指を血から離しながら口を閉じ、その“何か”をこれ以上口の中に入れないようにしながら、少量の“何か”を飲み込む。

 それは食道を通り、胃の中で広がっていく。

 喉を鳴らし、何かを飲み込む仕草をした私を見ていたシンディーは、「ちょっとこの傷を治してみて」と言う。

 私は胃のところを擦りながら、シンディーが傷を治していた時みたいに傷口に掌を翳す。



 ――治って。



 心の中でそう唱えると、私の掌から薄紫色の光が出て来た!

 ぎょっと目を見開いている間に、直ぐに光は消えてしまう。

 それを見ていたシンディーは、ポケットに入れていた布で血を拭き取ると、傷口の状態を確認する。

「ん~……ほんのちょっと傷が塞がってるくらいだね」

 そう言うと、さっさと自分で傷を治す。

 それから、血が付いた布をゴミ箱に入れて、ベッドにボスンッと音を立てて座る。

 シンディーは暫く何かを考えていたみたいだったけど、ねぇ、と声を掛けて来た。

「ちょっと気になったんだけどさ」

「何?」

「今と“あの時”とで、何か違いはない?」

「違い?」

 首を傾げながら、うーん、と考え込む。



 違い違い違い……あ、そう言えば。



「あのね?」

「お! なんかあるの?」

「うん。“あの時”は『何か』が、“口の中いっぱい”に……口から溢れそうになるまで入ってから飲み込んだんだけど、でも、今回は口の中に“ほんのちょっと”だけ入れて直ぐに飲んだの。指も傷から直ぐに離したから、それ以上入って来る事も無かったし」

「……ふむ」

「味は無いんだけど、どっちも食道を通って胃の中に熱がじわーっと広がる感じがした」

 ご飯を食べている時だって、こんなにハッキリと分かる事なんてない。



 胃の辺りをスリスリと擦っていると、そんな私を見ながらシンディーは仮説を立ててくれた。



「たぶんだけど……やっぱりルイの能力は他人の能力を、自分のものにする事が出来る能力なんだよ。でも、相手の能力を奪う訳じゃないから、力が弱まる訳じゃないから今までどうりの能力が使える。だから、相手がルイの行為――能力に気付く事は無い」

 シンディーはそう言いながら、それに、と言葉を続ける。

「ルイが相手から取り入れた能力は、飲み込んだ量によって強さが変わってくるんだと思う」

「量?」

「そう。ほら……口の中に溜まったものを飲んだって言ってたじゃん?」

「うん」

「飲み込んだものの量が多いなら、相手の能力を最大限に使う事が出来るけど、少ないとさっきみたいに少しの能力しか使うことが出来ないんだよ」



 だって、私の能力を取り込んだのなら、さっきみたいな傷なんて痕も残らず治す事が出来るしね、と言う言葉に確かにそうだなと頷く。



 それに、時を止める能力を持っていたあのお婆さんは、数秒しか時を止められないとあの役人が言っていたのを思い出す。

 だけど、私はそのお婆さんよりも長時間時を止める事が出来る。



 シンディーが言う通り、飲み込む量によって私が使える力の強さも変わって来るのかもしれない。



「次に。これもたぶんだけど、その能力は他の能力者の血を触っている時じゃないと取り込む事が出来ないんだと思う」

「何で?」

「だって、触っただけで能力を取り込む事が出来るなら、私と一緒に馬に乗っていた時とかでも出来たでしょ?」

「あ……なるほど」

「それにね? 能力は『血』に宿るって言われてるの。だから、ルイの能力の真価は、相手の『血』に触れてから初めて発揮されるんだよ」

「……あまり嬉しくない能力なんだけど」

「えっ、何で?」

 私の言葉に、シンディーは驚いていた。



 だってさ、他人の血に触りたくないじゃん。



 そう言えば、シンディーはやれやれと言った感じに首を振る。

「馬鹿だなぁ~、他人の能力を自分のものに出来るって言う事はだよ? 自分に有利になるような能力を沢山持てば、軍に入った時に『上』に行きやすくなるって事じゃん。それにいざ戦場に出た時も、生き残れる確率が格段に高くなる」

「そんなに簡単に出来るとは思わないけど」

「為せば成る、為さねば成らぬ何事も――だよ」

 シンディーはそう言ってから、最後にもう一つと指を上げる。



「ルイ、あんた……もう一人のお婆さんの能力も持ってるんじゃない?」

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