16

 学園の入学許可証が入った封筒を渡された私達は、そのまま直行で学園へ行く事になった。




 役所では、稀に私達のように後から能力が覚醒する子供が来る事がある為、そのような能力者を保護するという意味で、その日の内に役所からそのまま直接学園へ能力者の子供を送る決まりになっているみたいだった。

 能力課を出てから、更衣室みたいな所で用意された学園指定の黒に近い青色の制服――肩章と飾緒が付いた、襟と後ろの裾が長いジャケットとズボンに着替え、膝下くらいまである編み上げブーツを履いて、先程の受付のお姉さんの案内で役所の裏門みたいな所に行き、外へ出た。

 外には、窓が一切ない頑丈な造りの馬車が止まっていた。

 そして、馬車の周りには紺色の軍服を着た軍人が前後二名ずつ馬に乗って立っていて、辺りを警戒しながら見回していた。

 受付のお姉さんはそんな人達に軽く挨拶をしてから馬車のドアを開け、振り向いた。

「学園には、私物などの持ち込みは一切禁止となっております。先程まで身に着けていた服や靴、貴金属などはここ――役所にて一定期間お預かり致します。学園卒業後に取りに来て頂ければお引き渡し致しますが、保管期間や何らかの理由で死亡した場合は廃棄されますのでご了承下さい。詳しくは、後ほど学園へ説明書をお送りしますので目を通して下さい」

「分かりました」

「はい」

「それでは、馬車にお乗り下さい」

 促され、私とシンディーが馬車の中に入ると、そこは思ったよりも広かった。

 窓が無いのに明るく見えるのに不思議に思っていると、天井に光る石が嵌められているのに気付く。

 どうやら、ライトみたいな役割をしているらしい。それで窓が無いのに中が明るいみたいだった。

 軽四自動車よりも少しだけ狭い空間にシンディーと向かい合うようにして座ると、ドアが静かに閉められ鍵が掛けられた。

 そして、直ぐにガタッと馬車が振動してから動き出す。



 誰もいなくなった空間で、シンディーは両腕を上げて伸びをした。



「ふぃ~っ! めっちゃ緊張したぁ~」

「まずは、第一関門突破だね」

「だね」

 首をコキコキ鳴らすシンディーを見ながら、私も体を楽にする。

 シンディーと同じく、私もかなり緊張していたみたい。

 掌の汗が気持ち悪い。

 ズボンに掌を拭いながら、私は馬車の中を見回す。

「学園に行くまでこれに乗り続けるのかな?」

「そうだと思うよ? 周りにいる軍人や……それに御者も含めて、私達の警護兼監視役ってところだろうしね」

「随分厳重だね」

「国の戦力になる能力者だもん。そりゃ逃したくないんじゃない?」

 ふ~んと答えながら、後どれくらいで学園に着くのかと聞けば、二~三日くらいで着くんじゃないかと言われる。

 こんな何も無い空間で二日以上もいなきゃいけないのかぁ……。

 携帯とかあれば別だけど、結構きついな。

 そう思いながら、今後の事を今の内に話し合おうとシンディーに話し掛けようとしたら。



 突然、視界がグニャリと歪む。



「――っ!?」

 咄嗟に、片手で壁を押さえながら体が倒れないように支える。

 目を強く瞑って頭を振りつつ、何が起きているのかと視線をシンディーへと向けると。

「くかぁー」

「…………」

 いつの間にか椅子の上に横になり、爆睡している姿が目に入る。

 幸せそうに涎を垂らして寝ている姿を見て、強張る体が一瞬緩む。

 すると、耐え難い程の睡魔が襲って来て――視界が徐々に暗くなり、意識を保ち続ける事が出来なかった。






 ガタンッという音と共に馬車が揺れ、その振動でハッと目が覚める。



 寝過ぎた時みたいに頭や目の奥がズキズキと痛む。

 目頭を揉んでいると、向い側で寝ていたシンディーがガバっと勢い良く起きた。

 髪が短いから寝癖が凄い。

「はにゃ?」

「あ、シンディー起きた?」

「……あれ、いつの間に寝てたんだろ?」

「馬車に入って動き出したと思ったら、凄い眠たくなって……そこからお互い眠っていたみたい」

「うーん。それは確実に……私達の気が変わって逃げたりしないよう、強制的に眠らせたのかもね」



 くぁっと大きな欠伸をするシンディーを見ながら、眉間に皺を寄せる。



「傍迷惑な……おかげで寝過ぎて頭と体が痛いよ」

「私も~。治してあげるから、ほら頭をこっちに向けて」

 シンディーの治癒の能力で頭痛や凝り固まった体の痛みを治してもらう。

 お礼にぐしゃぐしゃになっているシンディーの髪の毛を整えてあげていると、馬車のドアがノックされた。

 返事をするとドアが開き、馬車を護衛していた人に外に出るように言わる。

 床に落ちていた、役所から渡された封筒を手に持って外に出てみれば、両開きの巨大な鉄の門が目の前にあった。

「ここって……」

「たぶん、学園に着いたんだと思う」

 どうやら、私達は移動中の時間を一度も起きる事なく眠らされていたらしい。

 門の前で護衛の人達に囲われるようにして立っていると、門の奥から数人の男性が歩いて来るのが見える。



 程なくして彼らが近くにまで来ると、一人の男性が門の前で片手を振る。



 すると、門が音を立てながら両側に開く。

 門がある程度開くと、護衛の人達は目  の前にいる男性に敬礼してから馬に乗り直し、馬車と共に元来た道へと戻って行った。

 それを見送ってから前を向くと、門を開けた男性が話し掛けてきた。

「やぁ、君達が役所から連絡があった子達だね?」

「はい。私がシンディーで、この子はルイです」

「シンディーとルイだね。まず学園の中に案内をする前に、役所から書類……封筒を受け取っていると思うけど、渡して貰える?」

 私達に向かって手を出す男性……見た目年齢が二十代中頃の、なよなよとした感じのお兄さんに私とシンディーは持っていた手紙を渡す。

 後ろにいるゴツイ見た目の人達とは正反対の外見を持つお兄さんは、後ろの人達の鋭い視線もなんのその、その場で封筒の中から書類を抜き取ると中を確認する。

 中に書かれている文書を読む視線が上から下に行くにつれ、お兄さんの口元が緩んでいく。



 何か面白い事でも書かれているんだろうか?



 それから少しして、私とシンディーの書類を全て見終わると。

「いよっしゃ!」

 と、何故か小さくガッツポーズをしていた。

 一人嬉しそうにするお兄さんに、私とシンディーはポカーンとするだけで、この雰囲気についていく事が出来ずに固まってしまう。

 後ろにいた人達は、お兄さんが喜びながら腕を上げるのを見ると、何も言わずにそのまま元来た道を戻って行く。

 その中でも、一人だけ……がっしりとした体を持つ強面の男性が、ガッツポーズをしているお兄さんを苦々しく見ていたのが印象的だった。

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