23
クラスで自己紹介をした後、エルス教官直々に学園内を案内してもらいながら、これから私達が学ばなければならない事を教えてもらっていた。
まず、私達は途中入学者な訳で、クラスの皆が学び終えている授業内容を急いで覚えなければならない。
軍での規律を学んだり、他国の情勢を知る事。それから国語や歴史、物理、地理、地学、それに戦闘訓練等々……覚える事が山ほどあった。
ただ、それらの授業は全体を通しても二~三時間ほどしかなく、それ以外の時間はほとんど自分達の能力を使った訓練に振り分けられているんだって。
だから、自由時間を使って遅れている授業内容を覚えてね――って笑顔でエルス教官に言われた時は、力なく頑張りますと頷くしかなかった。
エルス教官の話を聞きながら、生徒も使える図書室や戦闘訓練をする教室を見て回る。
色々な話を聞いて、驚いた事があった。
それは、この学園では運動服と言うものが無い事。
そう、ずっとこの服――軍服に似た制服を着っぱなしなのだ。
運動……戦闘訓練をするのに動きにくくないかと聞けば、戦争をする時、運動服に着替えてからするか? と逆に問われる。
戦場でジャージ姿の人達が溢れているのを想像して……有り得ないなと苦笑する。
いざ戦争になれば、軍人は重い装備を担いで軍服のまま戦う。
その時の事を想定して、学園では元の世界の学校で着替えていたジャージみたいな服に着替える事はしない。
訓練中服が裂ける事がかなりあるから、だから予備の制服が多めにクローゼットの中にあるんだって。
それと、シンディーが知りたいと思っていた、他の生徒の『治癒能力』も見せてもらえた。
どこで見せてもらえたかと言うと、『保健室』だった。
戦闘訓練の授業がある時は、負傷する生徒が大勢運ばれて来るため、治癒能力を持つ生徒が数人ほど『治療者』として月替わりで待機しているんだって。
しかも、今回は学園でも上位の治癒能力者が待機していると言われ、私とシンディーは上位治癒能力がどれほどのものかと思いをはせる。
保健室の隅で見学させてもらっている時、シンディーは真剣な表情で彼らの行いを見詰ていた。
結論から言うと、シンディーの能力はここにいる誰よりもずば抜けているのが分かった。
思い出すのは、私達がクルコックスに襲われていた日の事だ。
噛み切られ、千切れそうになっていた腕を一瞬にして直していたし、私の脚の噛み傷も直ぐに治してくれた。
この世界に来てから、シンディーの能力しか見ていないから、“そんなもの”だと思っていたんだけど……全く違った。
私達の前で怪我の治療をする生徒達は、少し抉れた腕の傷や折れた足等をかなり時間を掛けて直している。
一人、淡々とした表情で手早く治療しているけど、それでもシンディーに比べたら全てにおいて劣って見える。
シンディーをちらりと見れば、真剣に目の前の光景を見ていた。
暫く治療している光景を見ていたんだけど、エルス教官が次の所へ行く時間だと言ったので、その場を離れる事になった。
どんどん保健室へと運ばれ来る学生を眺めながら、シンディーなら一瞬でこの生徒達の怪我を治せるんだろうな――と思いつつ部屋を出ると、廊下の先から長い白衣を着た若い男性が歩いて来る所だった。
エルス教官と同じくらいの若さに見える男性は、不審そうな表情で私達を見ていたんだけど、エルス教官の姿を認めた瞬間苦虫を噛み潰したような表情に変わる。
「やぁ、シシリー先生」
エルス教官はへらっと笑いながら、片手を上げた。
「私の名前を気安く呼ばないでくれ。――あぁ、その子達が会議で出ていた途中入学の子供ですか」
シシリーと呼ばれた男性は嫌そうな顔をしながら、私達を再度見て納得したような顔をする。
「そう、僕が受け持つ事になったんだ。シシリー先生から見て右側にいる子がルイで、瞬間移動の能力を持ってる。そして左側の生徒は治癒の能力を持っているから、今度シリリー先生がいる保健室に治療者としていく事になるので、その時はよろしく」
「……そうですか」
シシリー先生は冷めた目でエルス教官を見てから、もう用が無いなら失礼しますと言って、私達が出て来た保健室の中へと入って行った。
その後を、シシリー先生の後ろに控えていた白衣を着た青年が、申し訳なさそうに頭を下げてから部屋の中に入り、扉を閉めた。
私達……保健室の先生に嫌われてる? と驚いていると、そんな私達を見たエルス教官が苦笑した。
どうやら、エルス教官とシシリー先生は仲が悪いみたいだ――と言うより、エルス教官は別に何とも思っていないらしいけど、シリリー先生が教官を毛嫌いしてるんだって。
なぜか、学生時代から嫌われてるんだよね。
へらへら笑いながらそう言う教官を見ながら、そういう所が嫌われているんじゃないかな? とは言えなかった。
ちなみに、保健室の常勤医は能力持ちでも『教官』ではなく『先生』と呼ぶらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます