12

「ぎゃあぁぁ゛あ゛ぁぁぁあ!?」

「ルイーっ!?」

 シンディーに体を引っ張られ、そのままの勢いで地面へと二人で倒れる。

「う、うで……私の腕が……」

「ルイ、しっかりして! 大丈夫よ、この木は能力を知らせてくれるだけで、その人を傷付ける事は絶対にないから」

「……あ? ……ぁ……あぁ、ほんとだ」

 シンディーにぺちぺちと頬を叩かれながら腕は大丈夫だと言われる。

 確かめるのが怖くて見れなかったんだけど、確かに痛くないし、見ればちゃんと腕から先が存在していた。

 ほっと息を吐く。

 それから、シンディーに手を引かれて立ち上がりながら、無言で穴の中にある『唇』を見詰る。



 大きな『唇』は暫くの間くちゃくちゃと口を動かしていたが、ゴクリッと何かを飲み込むような行動をしてから、グェーッとゲップをしてから消えてしまった。



「…………」

「…………」

 真っ暗な穴を見ながら、辺りには微妙な空気が流れる。



 時が止まると思っていたのに、何で“あんなの”が出てくんの!?



 口元を引き攣らせていると、私より早く立ち直ったシンディーが大きく息を吐き出しながらビックリしたと言うから、私も頷く。

 噛み切られたと思った腕を片手で擦りながら、確認する。

「ねぇ、あれって……なんだったの?」

「私も分かんない。けど、一つだけ言えるのは、ルイの能力は時を止めるものじゃないっって事かな」

「でも、実際に使ってるのに?」

「ん~……まずは、ルイが能力を発現した時のことを詳しく教えてくれる?」



 私はクルコックスに襲われた時だと教えたが、その時の状況を更に詳しく話すように言われた。



「確か……私が地面に倒れている近くに、あのお婆さん達が折り重なった状態で飛ばされて来たの」

「それで?」

「それで、驚いてその場から離れようとしたら、お婆さん達を襲ったクルコックスに見つかって、凄い勢いで向かって来たの。その時……咄嗟に逃げようと地面に手を着いたら、そこがちょうど水溜まりだった」

「ふんふん」

「顔を上げればクルコックスがこっちに飛び掛かって来ていて、殺されそうで……死にたくないっ! て、心の中で叫んだの。そうしたら、急に掌から腕に掛けて『何か』が流れて来て、それを“飲み込んだ”のは覚えてる」

「ふ~ん、で?」

「そしたら時が止まってた!」

 そうだそうだ、そうだった。

 今思い返せば、そんな事があったわ。



 思い出してスッキリしていると、目の前のシンディーはなぜか微妙な顔をしてから溜息を吐いた。



 え? どうしたの?

 額に手を当て、空を仰ぐ仕草をするシンディーに首を傾げるしかない。

「参ったわ」

「何が?」

「ルイの能力は、時を止めるってものじゃない。それよりも、もっと特殊な能力だって事だよ」

「ん?」

「分からない?」

「うん、ぜんぜん」



 首を振ってハッキリそう言えば、頭の悪い子を見るような目で見られた。失礼な!



「ねぇ、水溜まりには、そのお婆さん達の血が流れ込んでいたんじゃない?」

「うん、結構な量の血が流れて来てたから……水溜まりが血で赤く染まってた」

 嫌な事を思い出し、眉間に皺を寄せながらそう言えば、顎を指で擦りながら考え込んでいたシンディーは、うーんと呻る。

「と、言うことはよ? その時の状況と今の『知らせの樹』の事を考えると……ルイ、あんたの本当の能力は『時を止める』んじゃなくて……」

「じゃなくて?」

 シンディーの次の言葉に、私は驚く事になる。



「たぶん、他人の能力を取り込んで、自分の能力として使える――だと思う」

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