29

 ある程度歩き進めてから、大きな岩場がある所で休憩をしようとなった。



 バックは背負ったままで、中から水筒――この中に一度お水をいれると、どんな毒水でも綺麗な水に変えてくれる魔法の水筒(先程の湧き水を入れた)を取り出して喉の渇きを癒す。

 かなり歩いていたから、少し疲れた。

「ちょっと、これを見て欲しいんだけど」

 水筒を仕舞っていると、平たい岩場の上に方位磁針と地図を広げたシリルに声を掛けられる。

「今、僕達がいる場所はここ。それで、皆で話し合って合流場所に決めた所はここなんだけど」

 まるで猫の顔の形に似た地形の光樹の森であるが、私達が今いる場所はだいたい右目の辺り。

 そこから少し下って、髭にあたる部分の場所で川が流れているところがある。

 そこをイーグニス達がいる隊との合流場所に決めていた。

 二日経っても合流しない場合は、鼻の辺りに移動するとも話し合っている。

「あっちの隊がどこに飛ばされているかは分からないけど、まずは最初の合流地点には、夜になる前に移動した方が良さそうだよな……どう思う? アシュレイ」

「私も夜になる前に到着した方がいいと思う。ここは普通の森より暗くなるのが早いから、休憩も出来る事なら少な目にした方がよさそう」

「だよね。シンディーとルイも、これから歩き続ける事になるけど大丈夫?」

「私は大丈夫」

「うん、私も大丈夫だよ」

「よかった。でも、無理は禁物だからね? 辛くなったら声を掛けて。もしも怪我をした場合はシンディーにお願いすると思うけど、よろしく」

「任せて!」

「それじゃあ、行こうか」

 地図をバックの中に仕舞い、立ち上がったシリルに続いて、私達も立ち上がる。



 それからまた、歩き続ける時間がやって来た。



 方位磁針を手に持って歩くシリルの直ぐ後ろにアシュレイが歩き、その後ろをシンディーと私が続く。

 アシュレイの『千里眼』の能力で事前に魔獣の存在を察知すると、迂回して回避するか、気付かれて襲ってきた場合は戦ったりしてやり過ごしていた。

 ただ、出会う魔獣も私達が退治出来るくらいの強さだったので、ほとんどがシリルの能力――魔獣の体を植物を操って雁字搦めに縛り付けてから、木に吊るす。



 ほぼ、私とシンディーの出番は無かったに等しい。



 そんな調子で必要最低限の休憩を取りつつ歩きながら、アシュレイが導く安全で最短距離で行けるコースを進む事により、思ったよりも早く――夜になる前に合流場所にたどり着く事が出来た。

 周りに危険がないかアシュレイに確認してもらい、安全だと分かると川原の砂場に背負い続けたバックを置く。

 シンディーが流石に疲れたと腰を下ろす。

「ふぁ~、疲れたぁ」

「シンディーには僕達全員の疲労回復までしてもらって助かったよ。ありがとう」

「どういたしまして」



 歩き続けて疲れて来ると、シンディーに定期的に体力の回復をしてもらっていた。



 そのお陰で、早くに合流場所にたどり着いたともいえる。

 治癒能力者って凄いなと思った瞬間でもあった。

 そして、同じ隊になれて本当に良かったと心から思った。




 


 川原で私達がした事は、まず『隠密粉(おんみつこな)』という蛍光色のサラサラとした粉を自分達が休む場所へ撒く事だ。

 一回で使える量の粉も決められている為、私達四人が寝れるであろう大きさの円をまず地面に石か枝を使って掘り、そこへ端と端が途切れないように粉を流す。

 この粉は、不思議なものでサラサラしているのに風が吹いても飛んで行かず、水に濡れても解けないらしい。

 なのに、私達が手や足で払えば、簡単に飛ばす事が出来るんだって。

 不思議だ。

 そして、その粉の効力の凄いところは、この粉で円を描いた内側にいる時だけは、野生の危険な動物、更には魔獣からも身を守ってくれる。

『隠密粉』と言う名前の如く、円の内側にいる間は私達の存在そのものだけでなく、体温や匂いも隠し、魔獣がその円の内側に入れない仕組みになっているんだって。

 なんて便利なものがあるんだと思っていたんだけど、その粉も一日一回分しか支給されてないらしく、こういった夜に使うものらしい。

 一応、風で飛ばないけど間違って足で粉の円を切ってしまえ大変な事になるから、そうならないように地面に溝を掘ってからそこに入れるんだって。



 まぁ、虫や人間相手には効かないらしいけど。



「まだ、あっちの隊は到着してないみたいだね」

 私が辺りを見回してそう聞けば、じっと森の先を見詰ていたアシュレイが頷く。

「この付近にはいないみたい」

「そっか……寝る時以外は一か所に長時間留まっていれない決まりになっているから、明日の朝、朝食を取ったら次の地点を目指そうか」

「そうだね」

「うん、分かった」

 円の中に入り、一息ついた所で各々バックの中から携帯食を取り出し、ご飯を食べる準備をする。

 その前に、ウェットティッシュに似た厚手の紙を一枚缶ケースの中か取り出し、顔を拭く。

 魔法の水筒と同じような物で、このウェットティッシュに似た紙も一回で体の汚れを綺麗にしてくれる優れものだった。

 顔と首を拭いてから掌を拭き、そこから頭、腕、体、脚と服を捲って順番に拭いて行く。

 全身を綺麗に出来ないとしても、かなりリフレッシュ出来た。

 拭き終わった紙をバックの内ポケットに入れてから、いざ食事タイム。



「何を食べようかなぁ~」



 食事をする頃には、辺りは真っ暗になっていた。

 焚火をすれば魔獣を誘き寄せることになって危険だが、この隠密粉が淡い光を発してくれているお蔭で焚火をする必要もない。

 それに、季節も寒い時期ではないので、バックに入れている薄い布を体に掛けるだけで足りてしまう。

「やっぱり、あんまり美味しくないね」

 携帯食を口に入れ、しょんぼりした表情でそう呟くシンディー。

 私も袋を開け、干したお肉なようなモノを齧る。



 ……あ、顎が外れる。



 まるで石を噛んでいるみたいに硬い。

 その分唾液が出るけど、いつまで噛んでなきゃならないんだろう。

「かひゃひ……」

「あはは、こういった携帯食は腐らないようにしてあるから硬いんだよ」

 煮たりすればかなり柔らかくなるらしいが。

 ちらりとアシュレイの方を見れば、彼女もうんざりした表情で違う携帯食を食べていた。

 基本的に、支給された携帯食は美味しくないらしいというのが分かった。

 たまに、魔獣と戦闘中にバックをどこかに落としてしまい、訓練期間中携帯食も食べれないで野草を食べて凌いでいた人達もいたらしいから、携帯食を食べれるだけありがたいと思った方がいいんだろうな。

 硬いお肉をたくさん噛んでむりやりお腹の中に収めつつ、明日も早いからと、その日はそのまま早く眠ることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る