8
片側が開いている門の近くに行くと、厳めしい表情をして辺りを警戒する門番の人達がいる。
その横を横目で見ながら通り過ぎ、そのまま門を通って街の中へ入る。
あっけなく中に入る事が出来てしまった。
ホッとするも、辺りを見回せば街の中を警戒する内側の門番がいたから、ここで時を動かせば怪しまれると思った私はそのまま歩き続けて、人気のない場所で時を動かした。
「――っとと!」
「中に入る事が出来たよ」
女の子を地面に下ろしてから時を動かすと、反動で前のめりになって転びそうになって慌てていたが、きょろきょろと辺りを見回してから街の中に入っている事に気付いて「よっしゃ!」とガッツポーズをしていた。
「ねぇ、これから行く所とか決まってるの?」
「ん? あぁ、まだ言ってなかったね。これから孤児院に行こうと思ってるんだ」
「孤児院?」
「そっ! 私、この街にある孤児院に数年前までお世話になってたんだよね。だけど、ちょっとやりたい仕事があって孤児院を出て別の街に移っちゃったから、今はそんなに会うこともなくなったんだけど……そこの先生はめちゃくちゃいい人だから、こんな時間に行っても助けてくれるはず!」
女の子はそう言うと、こっちだよと私の手を引いて孤児院まで案内をしてくれた。
連れられてたどり着いた孤児院は、私が思っていたよりも小さな建物だった。
二階建の小さな一軒家で、孤児院と言うより普通の民家のように見える。
二階の窓の光は消えていたけど、一階の一部の窓から光が灯っているのが見えたから、まだ誰かが起きているみたいだ。
それを見て、私達はホッと胸を撫で下ろす。
女の子はドアを何度か控えめにノックした。
すると、中から物音がして、次にドアの向こう側からどなたですか? と言う女性の声が聞こえてきた。
「先生、遅い時間にごめんなさい。私です、シンディーです」
「……シンディー!?」
小声で女の子が名乗ると、驚いた声と共に中から慌ただしい物音がしてから、鍵が開けられる音がした。
中から出てきた人は、ふくよかな体の優しそうな中年の女性だった。
女性は女の子を見ると、感極まった感じでその腕の中に抱きしめた。
「あぁ、シンディー!」
「ふふふ、先生苦しいってば」
「もぅ、あなたって子は……本当に昔から私に心配をかけさせる天才ね。薬草学を学びたいから薬師の元に行くって言って、そのままここを出てから手紙の一つも寄越さないんですもの……心配していたのよ?」
「ごめんなさい。でもね? 本当は早めに手紙を出す予定だったんだけど、師匠にしごかれててそれどころじゃなかったんだよね」
「そうだったの……でも、元気そうでよかったわ。――あら?」
感動的な再開シーンを後ろで静かに眺めていると、私に気付いた先生と目が合ったので会釈をしておいた。
「先生、この子は……色々と事情があって詳しくは言えないんだけど、私の命を助けてくれた子なの」
「命を助けるって……」
「大丈夫、先生が思っているような事じゃないから。……ただ、ちょっと今お金が無くて泊まれる宿も無いから、明日のお昼までここに泊めさせてもらってもいい?」
「それは……構わないけど……」
色々と事情を聞きたそうな雰囲気の先生に、本当はきちんと説明をした方がいいんだろうけど、女の子は先生にごめんと頭を下げた。
「ちょっと、『能力』の事で色々とあって……あまり詳しく話すと、今後先生に迷惑を掛けるかもしれないから、これ以上は言えない」
「……分かったわ。今日は一人、出稼ぎで出てる子がいるから部屋が一つ空いているの。そこを使ってちょうだい」
「ありがとう、先生」
さぁどうぞ中に入って、と家の中に案内され――私達は狭いながらも、安心して休める部屋でゆっくりと休息を取る事が出来たのであった。
「はぁ……疲れた」
この部屋を使ってね、と先生が案内してくれた部屋へお礼を言ってから入り、壁際に置いてある椅子に座ったら――溜まっていた疲れがどっと出て来た。
手足をだる~んと投げ出し、はぁーっと溜息を吐いていると。
「ほらほら、お湯をもらって来たから、服を脱いで固まった血を拭き取るよ」
椅子の背凭れに乗せていた頭を起こし、部屋の中央に立っている女の子の足元を見ると、いつの間に用意したのか、たっぷりのお湯が入った大きな盥が置いてあった。
「これがお風呂!?」
「んなわけないでしょ? これの中に布を入れて絞って、それで汚れた体を拭くんだよ」
そう言いながら、女の子は服を躊躇いなく全て脱ぎ捨てると、盥の前にしゃがんで顔を洗う。
ポケーッとそれを見ていたら、変な顔をして私を見上げる女の子に何やってんの? と言われる。
「早く洗わないと、お湯が冷めるし、汚れるよ?」
「え、へ?」
女の子はショートカットの少し短い髪の毛先を抓みながら、毛先に付着した血を見せ付ける。
「髪の毛を洗えば、泥や血が付いているからお湯が一気に汚れるけど……汚れたお湯で顔を洗いたいって言うなら、別にいいけどさ。言っておくけど、替えのお湯は無いからね?」
「や、洗います! 今直ぐ洗いますんで!」
私はそう言うと、慌てて服を脱いで盥の中に手を入れて顔を洗い出した。
温かいお湯で顔を洗うだけでも、とてもスッキリした。
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