22
全ての……って言っても五人だけだけど、ここにいる生徒全員の能力を教えてもらってから、今度は私達の能力を教える番になる。
シンディーの能力は普通クラスにも沢山いるから、敢えて見せなくてもいいだろうという事で、私の能力――瞬間移動を皆に披露する事になった。
まぁ、本当は時を止めるだけなんだけど。
私は椅子から立ち上がると、教室の一番後ろへと歩いて行く。
そんな私の行動を、ツインテールの女の子――アシュレイ以外が好奇心を含んだような目で見詰めていた。
後ろの壁へ到着し、後ろに振り向いて教官や皆の方へ体を向ける。
「それじゃあ……いきます」
何となく手を上げ、いきますと言ってから時を止める。
そのまま歩き出し、元いた場所に戻りながら後ろを振り向いている皆の間を通り過ぎ、教卓の横を回って教壇の上に乗ってエルス教官の横へと並ぶ。
横を見上げれば、変わらずへらっとした表情で笑っているエルス教官がいたんだけど……。
でも、私がいた場所を見詰るその目は、真剣で――何かを見極めるように細められていた。
上位教官と言うくらいだ。
見た感じへらっとしてるけど、本当は違うんだろうな。
そう思いながら、私は気を引き締め直し、止めていた時を動かす。
すると、私がいた部屋の後ろ側に体を向け、立っていた場所からいなくなった私をどこに行ったんだと探すように、きょろきょろと辺りを見回していたんだけど……私が自分の隣に立っていたのに気付いたエルス教官の驚いた声で、一斉に教壇の方へと振り向く。
皆の驚いた顔がちょっと面白かった。
私はちらりとエルス教官を見上げ、目を見開く顔を見てからもう一度時を止め、教壇を下りて自分の机の場所まで戻る。それから時を動かした。
瞬きし、見下ろしていた態勢からゆっくりと体を元に戻したエルス教官は、頭を掻きながら参ったと呟く。
「瞬間移動の能力は昔何度か見た事があったけど……ここまで初動も何もかも分からないのは、君が初めてだよ。僕が見た事のある『瞬間移動の能力』の中では、一番かもしれないね」
どうやら、エルス教官が思ってた以上の事をしてしまったようだ――と気付く。
やり過ぎたかな? でも、瞬間移動をする時の初動って何なんだろう? とシンディーを見る前に、周りが賑やかになる。
「これは、また……」
「うわぁ! 凄いねぇ」
「瞬間移動って初めて見たよ」
「もう一回、もう一回やってみてよ!」
「…………」
「ぴっぴょー!!」
ワイワイ騒ぐ皆を見て、エルス教官が静かにするように言う。
「ルイの瞬間移動の能力を見たいなら、これから先いつでも見れるんだから騒ぐな。――あ、ルイは座ってもいいよ」
「はい」
「それじゃあ、紹介時間はこれで終わり。次は来月行われる野戦訓練についてだ」
教官は私が座ったのを見てから、次に教卓の上に置いていたプリントを配り出した。
配られるプリントを見れば、一番上に『野戦訓練のお知らせ』と太い字で書かれている。
野戦訓練……嫌な予感がする。
内容をよく見てみると、野戦訓練の危険性が長々と書かれていて、最後には怪我……それも命に係わる大けがを負う場合があるし、最悪死亡する事もある……ともあった。
プリントの一番下には小さな文字で、怪我や死亡した場合でも学園は一切の責任を負わないとあり、眩暈がしてくる。
そんな危険な訓練をしなきゃならないの?
プリントを見ながら顔を引き攣らせていると、イーグニスが手を上げてエルス教官に質問をする。
「教官、今年の訓練の内容は?」
「今年は学園が所有する『光樹(こうじゅ)の森』で、魔獣から身を守りながら一週間過ごすというものだ」
「又魔獣ですか?」
「……又って言うなよ。まぁ、今年も去年と同様初級の魔獣を使うが、種類は変えると会議で決まったから、今までのようにはいかないと思っておいた方がいい」
「はいはーい!」
「何だ、キャス」
「その時って、持ち物制限あります?」
「ある。……と言うか、持ち物は、渡した紙に書いてある物しか持ち込み不可、って書いてあるだろう? ちゃんと読んでくれ」
「……あ、本当だ。ごめんなさい」
頭を掻いて笑うキャスを見ながら、教官が他に何か聞きたい事は無いかと皆を見たので、シンディーがおずおずと手を上げた。
「あの、この野戦訓練ってどんな事をするんですか?」
「野戦訓練は、戦争になった時の事を想定して行われる訓練だ。実際に軍で使わていれる装備を使い、魔獣が住む森の中で一週間、終了の鐘が鳴るまで脱落しないように過ごすんだ」
「どうして魔獣がいる森で訓練するんですか?」
「なにも、戦争――戦闘が起こる場所は人が多くいる街だけじゃない。山の中や荒野だってありえるだろう? もしも、そこが危険な魔獣が生息する地だとしたら? 魔獣との戦い方を学園では学ぶが、知識で知っているだけなのと実際戦って経験するのだと、雲泥の差だ。だから、軍に入る前に学園である程度魔獣との戦い方を経験しておく必要があるんだ」
「なるほど」
「シンディーとルイは入ったばかりで、いきなり野戦訓練をしなければならないのは大変だとは思う。だけど、軍に入れば学園を卒業したてであっても、直ぐに戦地に送られる場合があるからね。まぁ、訓練までまだ一ヶ月はある……それまでには今よりももっと能力を磨き、体力を付けて臨んでくれ」
「はい」
「分かりました」
他に分からない事があったら皆に聞くように言われて、私とシンディーは分かりましたと頷いた。
学園に入ったらどんな事をするのかと思っていたんだけど……なんか、自分が思っていたよりも危険なものになりそうだなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます