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「助けてくれて、ありがとう」
たぶん、私達よりも年上の生徒だと思うけど、その人達が頭を下げる。
服もボロボロで酷い有様だったけど、傷はシンディーに治してもらったから、穴から覗く皮膚は綺麗なものだ。
「いえいえ、助けが間に合って良かったです」
シリルの言葉に私達も頷く。
駆け付けた時には、私とシンディーがクルコックスに襲われた時と同じような光景が広がっていた。
ハッキリ言って怖かった。
でも、あの時とは違って私にも能力が備わっているし、頼りになる仲間もいたから勇気を出して足を踏み出す事が出来た。
先にシリルが植物を使って襲われている生徒からクルコックスを離すと、私が時を止めてからアシュレイを連れて、襲われている生徒達の側まで移動する。それから止めていた時を戻して倒れている生徒を一か所に纏めて置き、もう一度時を止める。
時を止めている間は重さを感じないので、二回に分けて怪我をしている生徒とアシュレイをシンディーとシリルの元へ運ぶ。
血を見ると倒れるシリルは、なるべくシンディーが治療している場面を見ずにクルコックスを植物でぐるぐる巻きにして動きを封じていた。
シンディーが治療し終えると、私達はその場から急いで離れたのだった。
そして、年上っぽい人達は震えながらも感謝の言葉を口にした。
話を聞けば、彼らは普通クラスの能力者達であったが、それなりに力も強いからクルコックス程度ではこんな状況になるはずがなかったそうだ。
でも、先程アシュレイが言ったように、普通のクルコックスよりも断然動きが早く、自分達が使う能力に怯える事も無く襲い掛かってきたらしい。
三、四体くらいは倒したらしいけど、それ以上の数のクルコックスに一斉に襲われ、なすすべも無かったと言う。
昨日までは今までどうりの戦い方で普通に倒せていけたけど……野戦訓練三日目の今日、魔獣が突然異常に強くなったと語る。
「助けられた俺達が言う事でもないが、これからは気を付けた方が良い」
「いいぇ、お気遣いありがとうございます。――それでは、僕達はそろそろ行きますね」
「あぁ、又学園で合おう」
「はい!」
私達はお互い手を振り合いながら、その場で別れた。
方位磁針と地図を見ながら道なき道を進みつつ、なるべく魔獣に出会わないようにアシュレイの言葉に従って歩いている最中、先頭を歩いているシリルが振り向く。
「ねぇ、どう思う」
その言葉に、私達は何が? と瞬きする。
「ちょっと腑に落ちないんだよね」
「何が?」
「だってさ、教官達は新しい初級の魔獣をこの野戦訓練で使うって言っていたけど……あの先輩達が持っている能力なら、全滅する程の魔獣じゃないはずなんだよね」
「せめて苦戦する程度」
「そう! そうなんだよアシュレイ」
歩きながら、うんうんと頷くシリル。
そう言えば、と先ほどあの人達が言っていた事を私は思い出した。
「でも、どうして魔獣が突然強くなったんだろう?」
「魔獣って一日や二日で急に強くなるはずがないと思うんだけど……あの人達の気のせいっていうんじゃなくて?」
シンディーがそう聞き返せば、シリルとアシュレイが首を振る。
「あの人達の年代になると、野戦訓練以外でも魔獣を使った授業がたまにあるんだ。クルコックスなら何度も戦ってるはずだから、大体の強さは分かってると思う」
「じゃあ、教官達がいつもよりも強い魔獣を用意したとか?」
「分からない。ねぇ、アシュレイはどう思う?」
シリルの問いに、アシュレイは眉間に皺を寄せて考え込んでいたが、目を閉じてから首を振って、分からないと態度で示す。
「まぁ、何はともあれ、これからは今以上に気を引き締めていこうか」
その言葉に、私達は頷きながら目的地を目指して足を進めたのだった。
腰近くまで生い茂る草をかき分けながら歩いていると、又川原へ出ることが出来た。
昨日の川原とは違い、地面は砂じゃなくて芝生みたいな草が生えている。
「まだ合流場所まで遠いけど……地図を見るとここ以外に安全に休める場所があまりなさそうだから、今日の移動はここまで!」
「やったぁ~!」
「はぁ……今日は何だか疲れた」
「…………ふぅ」
歩きを止めたシリルがアシュレイに周りの安全を確認してもらい、それから背負っていたバックを下ろした後に発した言葉に、私とシンディーは地面に疲れたと座り込む。
今日は怪我をした人達をシンディーが治療したので、昨日みたいに常時シンディーに体力を回復してもらっていたら、いざという時にシンディーが力尽きてしまっては困ると話し合った結果、今日は自分の力だけで歩く事になった。
本当、疲れました。
シンディーはこれ以上歩かないならと、私達の足腰を治癒してくれた。もちろん、自分にも。
パンパンに浮腫んでいた足が元通りになり、これなら明日も歩ききる事が出来ると喜び合う。
やっぱり、治癒能力者って凄いと思うし、大事だ。
それから、そこら辺で拾って来た木の枝で地面をガリガリと掘り、出来た溝に隠密粉を流す。
出来た円の中に入って一息ついていると、アシュレイが何かに気付いたかのように空を見上げた。
何が見えるんだろうと私も見上げてみたんだけど、背の高い樹が密集するように茂っているし、葉と葉が重なり合っていて見え難い。
だんだん首が痛くなってきた頃に、漸く樹よりも高い上空を旋回する大きな鳥が見えた。
鷲に似たその鳥は私達の頭上を何度か旋回すると、そのまま何処かへ飛んで行く。
顔を元の位置に戻してアシュレイを見れば、鳥が飛び去った方向の森の一点をじっと見詰めていた。
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