21
「ここが、僕や君達のクラス――第四学年の特別クラスだ」
教室の扉を、イーグニスが片手で開ける。
私が通っていた学校の教室と同じくらいの広さと造りの部屋の中には、大きな黒板と教壇が目に入る。
教室の中は広いけど、机が教壇の近くにぽつぽつとあるだけで、しかも整列されずにバラバラに置かれている。
そんな教室には、五人の男の子と女の子が座っていた。
二~三人は興味深そうにこちらを見ていたけど、後の人達は本を読んだり窓の外を見たりしていた。
イーグニスに促され、部屋の中へ入る。
「明日から教室に来たら、エルス教官が来るまでは席について待機しておくように」
「はい」
「はい」
「君達の席はそこに置いているのを使ってくれ。場所は……教壇の近くなら、皆のようにどこに座ってもいい」
教壇の前に並べられて置いてある机が私達の席らしい。
好きな所に座ってもいいみたいだけど、急にそんなこと言われても困る。
と、思っていたら、シンディーが机を持ってガタガタいわせながら教壇から離していた。
登校初日からそんな事してもいいのかな? と思ってしまう私。
ぽけーっとしながら固まっていると、シンディーに移動しないの? と不思議そうな顔をされたから、急いで机を持ってシンディーの隣に移動した。
流石に、この広い教室内で一人でいる勇気がない。
机をピタッとくっ付けるまではいかないまでも、隣同士に慣れたことにホッとしていると、扉が開いてエルス教官が入って来た。
「起立! 礼!」
イーグニスの号令に、全員が立ち上がる。
慌てて私達も立ち上がり、礼をしてから席に座る。
エルス教官は私達が座ったのを見ると、おはようと言ってから、へらっと笑う。
「今日は皆も知っての通り、新しい生徒が二人、このクラスに加わった。――シンディー、ルイ、立って」
名前を呼ばれ、私とシンディーが椅子を引いて立ち上がると、エルス教官が私達の紹介を軽くしてくれる。
「今日からこのクラスの一員になる二人だが、ルイは瞬間移動、シンディーは治癒の能力を持っている」
「ルイです、よろしくお願いします」
「シンディーです、よろしくね」
「二人共、座って」
椅子に座ると、教官は今度は周りにいる人達の説明をしてくれた。
「まずは、イーグニスだ」
先ほど教室まで案内をしてくれたイーグニスからの紹介になる。
「イーグニスは少し特殊な能力を持っていてね、『自分や他人が負った怪我、恐怖心などを第三者に移す事が出来る』能力を持っている」
「へぇ~。戦時中なら凄い重宝しそうな能力ですね」
「まぁ、確かに。だが、怪我を移すまで痛みは感じるし、失った血は戻ってこない。それに、相手の体の一部に触れなければ移す事も出来ない」
ただ、シンディーが言ったように戦時中は重宝する能力で、更にはイーグニスの能力値や戦闘力もかなり高いから、学園の中でもかなり強い方に入るんだって。
エルス教官は次に、薄ピンク色の髪でツインテールにしている女の子に指を差す。
窓辺で頬杖をしながら無表情で外を眺める女の子は、こちらをチラリと見ただけで、それ以降は外を眺め続けている。
「彼女はアシュレイ、千里眼の能力を持っている。遠方で何が起こっているのか見る事だけじゃなく、その能力は人の心や未来をも見る事が出来る――と言われているとはいえ、人の心や未来を見るには精神力や体力を著しく消耗してしまい、倒れてしまう。遠くを見る以外にその能力を使ったのは、今までで二度しかないと言っていたかな? だから、自分の心を見られるんじゃないかっていう心配はしなくてもいいぞ」
「うっ……はい」
「分かりました」
心の中を覗かれるのは流石に嫌だなって思ってたのが、バレバレだったらしい。
二人で苦笑いしていると、次の人に移る。
「次がキャスだ」
「ほいほ~い! よろしくねっ♪」
ニカッと笑う女の子が、私達に向かってブンブン手を振っている。
元気いっぱいな明るい女の子、って感じ。
「キャスは『どんな武器をも生み出す事が出来る』能力を持っている」
キャスに手を振ってよろしくねと言いながら、教官の言葉に首を傾げる。
武器を生み出すって……どういう事?
そんな私達の顔を見て、キャスがどういう能力か快く見せてくれた。
左腕を曲げながら目線の所まで平行に持ち上げると、拳を握る。
それからゆっくりと右手で左の手首を握り、「長剣」と呟きながら左手首を掴んでいた右手をまるで剣の鞘から滑らせるように引き抜くと――刀身が真っ黒な長い剣が、右手に握られていた。
こんな感じに、キャスが望めばどんな武器をも生み出す事が出来るんだとエルス教官は話す。
ちょうど、剣を握っているキャスが「消えろ」と言って長剣を何事も無かったのかのように消したのを見ながら、シンディーと二人で凄いねって話していると、早くも次の人へと話は移る。
「そこで机に突っ伏しているのが、アレックス。――ちなみに、男だから」
顔を横に向けると、机の上で組んだ腕に顔をのせて寝ている、銀色の長い髪の毛が見えた。
教官がいるのに寝てて大丈夫なんだろうかと思っていると、アレックスと言う男の子の机の上に小鳥が乗っているのに気付く。
白い文鳥に似た、背中の中央から尾に掛けて鮮やかな青い色が特徴的な鳥が、私達に向かって「やぁ!」と言った感じに右の翼を上げる。
なんか……この鳥、動きが人間臭い。
そう思っていると、ピッピョ~! と可愛らしく鳴く声が部屋の中に響く。
小鳥を見ていると、エルス教官が笑いながら、アレックスの能力は『全ての動物に憑依する事が出来る』ものだと教えてくれた。
と、言う事は……この文鳥に似た小鳥にアレックスが憑依している状態なんだろう。
どうりで動きが人間臭いわけだ。
動物は憑依出来るけど魔獣は出来ないみたいで、完全に意識を動物の方に移してしまうと、今みたいに無防備になってしまうらしい。
寝ている顔を見れば綺麗な顔をした美少年だが、翼を腰辺りに当ててお尻をフリフリしながら踊る姿を見ると……見た目に反して面白い性格をしているのかもしれない。
「アレックスの隣……より少し離れてはいるが、クセッ毛が特徴的な生徒がエイベル。能力は『怪力』」
視線を鳥からその少し奥へと向ければ、紺色の髪のクセッ毛の少年が、ペコリと頭を下げた。
同年代にしては少し幼い顔をした少年だけど、その能力は怪力で、『怪力』という能力だけで言えば、その力は学園一なんだとか。
ただ、運動神経が壊滅的に悪いらしい。
大きな灰色の目を細め、にっこりと笑う姿は可愛らしいく、癒し系だ。
そして最後に、と言うエルス教官の言葉と共に、最後の生徒の紹介が始まる。
「シリルは『植物を操る』能力を持っている」
エルス教官が指を指した方へ視線を向けると、短い白い髪が特徴的な男の子が、よろしくと手を上げてくれる。
「シリルの植物を操る能力は目を見張るほどでね、学園と言わず、軍でもかなり注目されているんだ」
「へぇ~」
「凄いですね」
「ただ……他人の怪我や血を見ただけでも直ぐに貧血を起こして倒れるんだ。廊下で倒れているのを見たら、回収してくれ」
「……はぁ」
「その……見付けたら、助けますね」
シンディーが気の抜けた返事をする横で、私はシリルを見ながら助けると言いつつも、なるべくならそんな場面に出会いたくはないと思ったのであった。
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