41
結論から言うと、私達は助かった。
シリルとアレックスの能力を使って足止めしようとしても全く止まらず、キャスに出してもらった武器を、エイベルに魔獣に向けて連投してもらってもダメージゼロ。
しかも、アシュレイから新たな魔獣がこちらへ向かってやって来ている、と言う有難くもない情報を与えられた。
あ、これはもうダメじゃん。と思った私が、時を止めようとした時、突然地面が光り輝いた。
広場で集まった時に見た魔法陣と似たものが、一人一人の足元に浮かび上がったと思ったら、目が痛むほどの光が魔法陣から発し――。
次に目を開ければ、私達は学園の広場に戻っていたの。
突然の事に呆然としていると、私達の周りでも他の生徒達が続々と広場へと戻って来る。
驚いた表情で辺りを見渡している生徒や、怪我をしている生徒、戦っている最中だったのか武器を持っている生徒など、続々集まって来ていた。
ポカンとした表情で突っ立っていると、私達の前にエルス教官がいつもの様にへらっと笑いながら立った。
「皆、元気だった? 実は緊急事態が発生して、野戦訓練を一時中止――って、どうしたんだその怪我はっ!?」
教官はいつもの調子で声を掛けて来たんだけど、振り向いた私達の全身が血塗れな様子を見て、酷く驚いていた。
そりゃそうだろう。
私とシンディーとアシュレイは、顔や手、それに白い制服の所々に血が付着しているし、エイベルとキャスとアレックス、そしてシリルの四人に至っては全身血塗れ状態。驚かないはずが無い。
絶句している教官を見ながら、怪我はシンディーが治してくれているから大丈夫だと教えている時、シンディーが膝を抱えるようにしてしゃがみ込んだのが視界の端に映った。
どうしたのかと振り向いた瞬間、今まで忘れていた《・・・・・》『恐怖』が、徐々に蘇って来る。
たぶん、シンディーが掛けてくれていた能力が消えたからだろう。
その場に、一人、また一人、と気が抜けたかのようにしゃがみ込む。
驚き、私達の視線に合わせるように同じく教官も地面にしゃがみながら、一体何があったのか、それにイーグニスはどうしたと、今までの状況説明を求めて来たが、私達はそれに対して直ぐに答える事が出来なかった。
何故なら。
「うっ、うぅぅ……ぅっ、ひぃっく」
教官の姿を見て、本当に安全な場所に戻って来れたんだと実感出来た。
今まで抑えられていた感情が一気に爆発したかのように、恐怖と怒り、それに悲しみが溢れ出す。
腕や掌で拭っても拭っても、涙が止まらない。
どんなに辛い授業でも泣かなかった私達――特にアシュレイまで泣いたのを見た教官は、どうしたらいいのか分からず途方に暮れたような顔で私達を見ていた。
「一体、何があった?」
漸く私達の涙が治まって来た頃、教官が口を開く。
私達は今までの事を全て教官に話した。
野戦訓練では使われるはずの無い魔獣が使われていた事、その魔獣を操れるブレスレットをイーグニスが装着していた事、そして……イーグニスが離反者だった事。
私達の怪我は、全てイーグニスが計画を立てて実行したものだ。
それから、捕らえたイーグニスを連れ去った人物がいて、それが学園の関係者だったという事も伝える。
話を聞いていた教官は、腕を組みながら難しい表情をして黙ってしまった。
腕の袖で涙を拭いつつ、そうだ、と私は思い出した事を教官に聞く。
「教官、ゼクスと言う人物を知っていますか?」
私の言葉に、ゼクス? と教官は首を傾げる。
教官が学園内を案内してくれた時、保健室の前でシシリー先生の後に出会った人物だと言うと。
「……あぁー、あの人か」
「知り合いですか?」
「いいや? 一年前、シシリー……シシリー先生の補佐が怪我をして辞めたから、その代わりとして学園に入って来た人だとは聞いていたけど、あまり話した事も無いかな。その人がどうかした?」
「その、その人はもう一つの名前があって、セクター……セクター……」
「……もしかして、セクター・シェリクス?」
「あ、そうです! そう言ってました!!」
私が教官が言った名前に頷くと、教官はウゲッと嫌そうな顔をする。
それから、その人がイーグニスを連れ去ったんだと言うと、教官は額に手を当てて頭が痛いと呻く。
これから忙しくなると愚痴る教官に、セクター・シェリクスとは一体どんな人物なのかと聞けば、「僕やシシリー先生が学園にいた頃の同期だよ」と教えてくれる。
同期と言うから友人だったのかと思えば、そうじゃないらしい。
「何と言うか……全然仲が良かった訳じゃないし、同じクラスでもなかったんだけど……なーんか、いっつも難癖付けて来てたんだよね」
「……はぁ」
「それで、余りにも僕の周りをウロチョロしててウザくなったから、当時の野戦訓練の時に、徹底的に潰してやったんだ。ついでに、卒業前に奴の色々な不正を暴いたり捏造したりして、留年させてやった……のを、今思い出した」
てへっ、と笑う教官の顔を見ながら、『君達個人には恨みは無いが……エルスの教え子になった自分達の不運を恨むんだね』と言ったセクター・シェリクスの言葉が頭の中で再生される。
もしかして、これは……。
学生時代、セクター・シェリクスがエルス教官から受けた屈辱を、今この時に晴らそうとしていたんじゃ……。
復讐のとばっちりを受けたんじゃないんだろうかという思が、私達の胸中に広がる。
「えっと……そうそう! 学園の全ての教官は、これから野戦訓練が行われていた場所の調査をしないといけないから、数日間、学園での全ての教育が一時停止する事が決定した。授業が再開されるまで、各自自習しててくれ」
皆がジト目で見詰めていると、教官は焦ったように膝に手を当てて立ち上がり、後はこのまま部屋に帰ってゆっくり休んでて、と労いの言葉を述べてから何処かへと立ち去って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます