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 と、まぁ……こんな感じで私達の学園生活が始まった。 



 野戦訓練という学園でも一大イベントが行われるまでの間、私とシンディーはクラスの皆の足枷にならないようにと、勉強や能力別の授業に精を出していた。

 シンディーはやっぱりと言うべきか、学園の中でも治癒能力の力が強いと有名(それでも能力を少し抑えていると言っていた)になり、常に戦闘訓練で怪我を負った生徒の傷を治していた。

 普通の勉強時間以外は、保健室で怪我を直している時間の方が多いかもしれない。

 そして私と言えば……。



 なぜか、エルス教官に個人指導されていた。



 なんでだろう?

 しかもこの教官、へらっとした顔をして結構スパルタなんだよね……。

 毎日痣や切り傷が出来るし、それを見たシンディーに怒られながら治してもらう、といったローテーションがここ最近出来上がっている。

「攻撃を瞬間移動でかわしたとしても、反撃しなければ意味がないって言ってるだろ?」



 そして今日もまた、私は床に倒れていた。



 荒い息を吐きながら、床に立てた膝に手を着いて立ち上がると、目の前には剣の鋭い切っ先が。

「ここが戦場なら」

「はぁっ、はぁ……っ」

「ルイが起き上がるよりも前に、首が落ちて――死んでるね」

 エルス教官に刀背でペシペシと軽く肩を叩かれる。

 地味に痛い。

「ルイの能力は攻撃を回避するのにも向いているけど、それを無意識に使いこなせるようにしなきゃ意味がない」

「……無意識に、ですか?」

「そう。ルイが瞬間移動の能力を使う時、攻撃されそうになって、身の危険を察知いてから使うんだろう?」

「まあ、そうですね」

「でも、それじゃあ遅過ぎる。野戦訓練の時で例えるなら……そうだな、もしも藪の中から俊敏な魔獣が突然襲い掛かって来たら? 直ぐに反応出来る?」

「……出来……ない、かもしれません」

「じゃあ、あっと思った時には首を齧られて死んでいるかもしれないね?」



 その言葉に、クルコックスに襲われた時の事を思い出す。



 確かに、危ないと思ってから能力を発動しているのであれば、それだけタイムロスがある訳だ。

 私がクルコックスに噛み殺されそうになったあの時、能力を発動して時を止められたのは、本当に奇跡に近かったんだと今なら分かる。

 じゃあ、直ぐに反応出来るようになるには、どうすればいいのか?

 答えは――。



 それは、自分が無意識に時を止める事が出来るように、何度でも――それこそ体に覚え込ませるまで能力を使い続けなければならないって事。



 目の前でピクリと動いた刃先に、瞬時に時を止める。

 全ての動きが止まる世界で、ゆっくり息を吐き出す。

 後ろに下がって刃先から顔を離し、エルス教官の後ろに移動する。

 止めていた時を動かせば、私が今までいた場所を見ていた教官が首だけ私の方へ向けて、その調子だと褒めてくれる。



 ……だけど。



「いでっ!?」

 振り向き様、手に持っていた剣の刃背で再度頭をペシペシと叩かれた。

「まだまだ甘いな」

 確かに、まだまだ甘いのは分かってるつもりだよ?



 でもさ、涙目で叩かれた頭を押さえている私を見下ろしながら、楽しそうに笑う教官は……本当に鬼だと思う。

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