17

 ガッツポーズしていたお兄さんが腕を静かに下ろし、私達に向かってへらっと笑う。

「いやぁ~、驚かせたみたいでごめんね」

「いえ……」

「大丈夫です」

「そう? それじゃあ、改めまして……今日から君達の担当教官となる、エルス・ランナルだ。よろしく」

 目の前のお兄さん改め――エルスと名乗る人物は、書類を懐に仕舞うと私達に握手を求めてきた。

 私とシンディーはお互い顔を見合わせてから、おずおずとその手を交互に握る。

「よろしくお願いします」

「よろしくお願いします、エルス先生」

「うん、よろしく。それと、『先生』じゃなくて、ここでは『教官』と言うようにね」

「はい、エルス教官」

「分かりました、エルス教官」

 素直に訂正すれば、私達の担当教官は優しく笑いながら頷くと、まずは学園の中を案内してくれるらしく、付いて来るように言われた。



 門の中に入れば、エルス教官が手を振って門を閉じる。



 それを見ながら、エルス教官の能力は何だろうと考える。

 シンディーも同じ事を思っていたらしく、こちらは普通に聞いていた。

「教官」

「ん? 何だい?」

「教官はどのような能力を持っているんですか?」

「僕の能力は、『どんなモノも動かせる』能力だよ」

 エルス教官はそう言うと、「ほら、こんな事も出来るよ」と言って、私とシンディーの体を浮かせた。

「うわわわわっ!?」

「ちょっ! 教官、落ちそうで恐いです!」

 地面から三十センチ浮いているぐらいだとは言え、手足をばたつかせながら不安定な態勢で空中を漂うのは凄く怖い。

 教官はゆっくりと私達を地面に下ろすと、にっこりと笑う。

「どう? 分かった?」

「……はい」

「口で言ってくれたら良かったのに」

「言うより体感してもらった方が、分かりやすいかと思ってね」

 笑いながらそう言うと、歩き出す。



 その後を付いて歩いていると、エルス教官に他に聞きたい事はないかと尋ねられたので聞いてみる事にする。



「そう言えば……先ほど門の所に来ていたのは、この学園の教官達ですよね?」

「そうだよ」

「役所からの書類を見てから、エルス教官が私達の担当教官になったようですが……どうしてですか?」

「何か、決まりとかがあるんですか?」

 私達がそう聞くと、エルス教官は歩きながら答えてくれた。

「産まれた時に能力者として登録されている子供であれば、その子がどんな能力を持っているか分かっているから、学園に入学した時には振り分けられているクラスにそのまま入るだけでいいんだけど……君達みたいに、稀に能力が後から発現した子が学園に入学する場合、『特別クラス』に入れる決まりになっているんだ」

「特別クラス、ですか?」

 シンディーに知っているかと目で問えば、知らないと首を振られる。

「あぁ、特別クラスって言うのはね……その年に入学した能力者達の中で、ずば抜けて『能力値が高い』子達を集めたクラスの事を言うんだ」

「え……そんなクラスに私達が入るんですか?」

「途中からの入学なのに、そんな人達と一緒に勉強しても足手纏いになるだけじゃないんですか?」

「まぁ、君達がそう思うのも分からなくないんだけど、何故か後から能力を発現した子達って、揃って能力値が異常に高い子が多いんだよね」



 その言葉に、私とシンディーは若干固まってしまう。



 しかし、前を歩いているエルス教官はそんな私達に気付く事も無く歩き続ける。

「そんな子達が多いから、まずは能力値が高い――能力の種類に関係無く集めた『特別クラス』に入れて、『上位教官』の教官職を持つ能力者がまずは様子を見るわけ。それで、その子の能力が高いものであれば、そのまま特別クラスに。思ったよりも高くなければ、通常の能力別クラスへと移動させるんだ」

「なるほど」

「それじゃあ、門の所にいたのは教官と同じ『上位教官』の方ですか?」

「そう、受け持つ学年が違うけど彼らも上位教官だよ。そして、君達みたいな十六歳の少年少女達がいる学年――『第四学年』の特別クラスの上位教官が、僕なの」

 話を聞けば、ここ数年ほどは私達みたいに後から能力があるのが分かって学園に入る生徒がいなかったみたいで、どの上位教官も能力値が高いであろう新しい子共が入って来るのなら、自分のクラスに欲しいと思っていたみたい。

 だけど、書類で私達の年齢を見たらエルス教官のクラスだったので、自分達の生徒にならなかったのならもう用はないと言った感じで去ってしまったとの事。

 もし私達が自分の生徒にならなかったら、他の教官達と一緒に直ぐに踵を返していたよ、と言いながら、二手に分かれた道の右側へと進む。



 後を追うようにしてその道に足を踏み入れた瞬間――景色が一変した。



 今まで綺麗な花々が咲き誇る広い庭みたいな所を歩いていたはずなのに、二手に分かれた道に入った瞬間には、見た事も無い建物の中に立っていた。

 きょろきょろと辺りを見回していると、先に進んでいた教官に呼ばれる。

 慌てて走って教官の後ろに追いつくと笑われた。

「すみません」

「ははは、最初は皆驚くんだよね」

「えっと……ここは?」

「ここは学園の校舎内だよ」

「え? えぇ!?」

「もしかして、能力で飛んだんですか?」

「いやいや、まさか。能力じゃないよ? あそこの道には、目には見えないけど教官達だけが使える、道を短縮出来る魔法陣が敷かれているんだよ」

 地面に指を指し、ぐるぐる回して地面に魔法陣があるよと教えてくれるエルス教官。

 反対側の道に行くと学生寮に行けるらしい。ちなみに、左側の道だけは学生も使用可能なんだって。

 へ~と二人で頷きながら、そのまま暫く歩き続けていた。



 しかし、学園内を暫く歩いているのに、誰にも出会う事が無かった。



 不思議に思って聞いてみたら、今私達が歩いている廊下は教官が使う為のもので、学生が歩く事はほとんどないらしい。

「あの、エルス教官」

「何だい?」

「これから私達はどこへ行くんですか」

「あぁ、言ってなかったね」

 ごめんごめんと言いながら、教官はこの学園の理事長の所へ行くんだよ、と教えてくれた。

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