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 中学高校とセーラー服だったから、こういう制服って憧れてたんだよね。



 しかも、ズボンにブーツってかっこいい組み合わせで、脱ぐのがちょっと勿体無いと思っちゃったんだよ。

 クローゼットから室内着を取り出して、それを着てから脱いだ制服をハンガーに掛けて吊るしておく。

 下に置いてあったルームシューズを履いてから、私は右の、シンディーは左のベッドの上に上がって座る。

 初めに口を開いたのはシンディーだった。

「ねぇ、これからの事を決めようと思うんだけど」

「これからの事?」

「そう。今の能力だけで、どこまで通用するかは分からないけど……ある程度の力を教官や他の人達にも見せつけないと、特別クラスに居続ける事が出来ないでしょ?」

「うん」

「私の場合は治癒だけしか今は使えないから、私達の学年――第四学年の中にいる他の治癒の能力者達よりも優れた結果を出さないといけないし、治癒という能力だけで特別クラスにいるには、エルス教官や他の教官達にも私の能力が凄いんだと思わせなきゃならない」

「ん~っと、エルス教官達がシンディーの能力が凄いって思うって、どのくらいの怪我を直した時なんだろうね?」

「そこが問題なのよねぇ」

 ベッドの上で胡坐をかき、腕を組みながら難しい顔をしながらシンディは悩んでいた。

 ちなみに、なぜか私は正座をしながら聞いています。

「明日エルス教官に私の能力を見せる前に、他の人……それも、学園の中でも上位に位置する治癒能力の能力者がどれ程のものなのか、聞いてみないと」

「聞いて、それからどうするの?」

「そりゃあ、治癒能力が私より強いなら、頑張らないといけないでしょ?」

「まぁ、そうだけど……でも、シンディーの治癒能力より凄い人っているのかな?」



 私はそう言いながら、クルコックスに襲われた時に負った怪我を一瞬で治した時の事を思い出す。



 他の人の治癒能力を見たわけじゃないけど、シンディーの能力は私から見てもかなり凄いんじゃないかと思うし……それに、役所の人もシンディーの能力を見て、その怪我の治すスピードや治り具合に驚いていた。

 私がそう言うも、シンディーは首を振る。

「いやいやいや、確かに私自身も自分の能力は凄んじゃないかって思う時はあるよ? でも、世の中は広いんだよ。自分より凄い人なんてごまんといるって」

「そうかなぁ~?」

「そうなの」

 そう言って、シンディーは譲らなかった。



 それから二人で他愛もない話をしつつ、思っていたよりも豪華な夕食を室内で食べ、明日も早く起きなきゃならないという事でその日は直ぐにベッドの中に入って眠ったのであった。





 目覚ましの音が耳元で鳴り、目が覚める。

 意識がゆっくりと浮上して目を開ければ、柔らかな朝日が部屋の中を照らしていた。

 起き上がり、目を擦りながら欠伸をすれば、視界の端でシンディーも起きたのが見える。

 脇腹を掻きながらベッドの上から降りてルームシューズに足を入れ、洗面台へと向かう。

「はよ~」

「おひゃよー」

 顔を洗い、歯を磨いていると、目がまだ開いていないシンディーが洗面所へとやって来た。

 お互い場所を譲り合いつつ、洗面所を出てから制服に着替える。

 最後にブーツを履いて紐を結んでから立ち上がり、クローゼットの扉を閉める。

「はぁ~緊張するわぁ」

「だね」

 部屋の中をする事も無くてウロウロしていると、部屋のドアからコンコンとノックの音が聞こえる。

 二人でピタッと動きを止めてから、はいっと返事をすると、ドアが開いて朝食を運んで来てくれた配膳係の人達が部屋の前で一礼してから、部屋の中に入って来てテーブルの上に食事を並べていく。



「食後の食器類はそのままにして頂ければ、後ほど清掃員が片付けます。それでは、ごゆっくりどうぞ」



 配膳係の人がそう言って部屋を出て行ってから、私とシンディーはテーブルの上に並べられた食事の種類に驚いていた。

 朝からこんなに食べれないと思える量だった。

「私……こんなに食べれない」

「や、私もだけど。でも、学園では体力勝負だって聞いた事があるから、ある程度は口に入れないともたないかもよ?」

 頑張って食べれるだけ食べようと言われ、いつもよりは多めに食べたのであった。





 ご飯をいっぱい食べ、お腹が張り裂けるんじゃないかと思えていても、少し休んで用意されていた食後の飲み物を飲んでいる頃にはだいぶ楽になっていた。

 人間の体って不思議だ。

 そうこうしている内に、ベッドから音が鳴る。

 移動時間になったみたい。

 誰かが迎えに来てくれるらしいので、先に部屋の前で待っていようと、部屋から出てドアの前で待機する。

 少しして、廊下に靴音が響く。

 顔を上げ、音がした方へ二人で視線を向けると。



 超優等生ですと言った見た目の男の子が、こちらへと歩いて来るではないか。



 長くも短くもないサラサラな黒い髪。柔らかな笑顔。同じモノを着ているのに私達よりもビシッと制服を着こなし、背筋を伸ばして歩くその姿は生徒会長と言いたいぐらいだ。

 元の世界にこんなカッコいい男の子がいたら、キャーキャー騒がれていたんじゃなかろうか。

 私達より少し背が高い男の子は、私達の前で立ち止まると靴を揃えてから顔を引き締め、敬礼をする。



「私は第四学年、特別クラス生――イーグニスです。エルス教官の命により、お迎えに上がりました」



 ビシッと敬礼されながらそう言われた私達は、おたおたしながら迎えに来てくれた男の子――イーグニスに習ってなんちゃって敬礼をする。

「あ、ありがとうございます」

「よろしくお願いします。……あ、私はルイです」

「私はシンディーです」

 緊張しながらそう言うと、男の子は上げていた腕を下ろして……一瞬、何を考えているのか分からないような目で見られたような気がしたんだけど、直ぐに柔らかく微笑まれた。

 何だろう? と不思議に思うより早く、イーグニスが口を開く。

「改めてよろしく、ルイにシンディー。そんなに畏まらなくても大丈夫だよ」

 イーグニスはクスクス笑いながら、先ほどの表情なんて一切感じさせない仕草で付いて来てと言う。



 歩き出したその後を二人で追っていると、歩く速度を落とさないまま私達の方へ振り向き、話しかけて来た。



「今、学園は君達の話しで盛り上がっているよ」

「え……何ですか、その話しって」

「ここ数年、途中入学者が出ていなかったのに、それが突然……それも今年に限って二人も入って来たんだからね。それだけでも凄い事なのに、入って来る二人共が珍しい能力を持っていたり、能力値が高いと言うじゃないか。そりゃあ、気にならないはずが無いよ」

 イーグニスはそう言いながら、前を向いて歩き続ける。

「……あの」

「何だい?」

「昨日エルス教官に、特別クラスに入ったとしても、能力値が高くないと分かれば普通クラスに移動になるって聞いたんですが……」

「うん、そうだよ。特別クラスは能力値が他の人間よりも高くなければならない。――よって、君達の能力値がそれ程高くないと分かれば、直ぐにでも普通クラスに移動となるはずだよ」

「そうですか……」

 やっぱり、能力値が低いと分かれば普通クラスへ移らないといけないんだ。

 と、言う事は……待遇が良いあの部屋から出なければならないと言う訳で。



 シンディーと二人で歩きながら、絶対普通クラスにならないように頑張ろうとお互い心を一つにしたのであった。


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