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暫く無言で、お互い体の汚れを拭き取っていた。
私は隣で濡らした布でゴシゴシ腕の汚れを取っている、女の子の胸が気になって仕方がない。
自分の胸を見てから、女の子の胸を見る。
大きさが……倍以上違う。
そっと自分の胸に手を当てていると、女の子に不審そうなを表情をされたので慌てて体を拭くのを再開する。
たぶん、着やせするタイプなんだろうなぁ~。
きっと、私の胸も将来は大きくなる。
うん、うん。きっとそうだ。
絶対そうなるはずだ! と思いながらゴシゴシと腕を布で擦る。
大体の汚れを拭き終わり、髪の汚れも落としてから、体を清潔な布でもう一度拭いて新しい服に腕を通す。
それから汚れたお湯が入った盥を女の子が外に捨てに行き、部屋に戻って来ると、部屋に一つしかないベッドの上に二人で座ってお互いの事を話し合うことにした。
「そう言えばさ、名前をきちんと言ってないのに今気付いたんだけど」
「はは、本当だね」
「遅くなったけど……私、シンディー。この街で生まれ育ったけど、親は戦争で亡くしてて二年前までこの孤児院で育ったんだ。年は十六歳」
「私は、工藤ルイ。ルイが名前で、年齢は同じ十六歳だよ」
「本当!? じゃあさ、ルイって呼んでいい?」
「うん。私もシンディーって呼んでもいい?」
「もちろんだよ!」
そうして、お互い笑い合う。
「私さ、薬師になりたくて二年くらい前に隣町にいる薬師の師匠の元に行って、住み込みで勉強を教えてもらっていたんだよね」
「へぇ~」
「最近、漸く一人で薬を作る許可が出たから、作りたい薬の薬草を取りに近くの森の中に入ってたんだけど……そうしたら、あいつらがいたんだよ」
どうやら、一人で薬草を探している時に捕まったらしい。
「ルイはどうして捕まったの?」
「――え?」
私はシンディーの質問にどう答えたらいいのか分からず、俯いてしまった。
「言い難いこと?」
「いや……言い難いと言うよりも、信じてもらえないんじゃないかって思って」
「信じるも何も、話しを聞かなきゃ分かんないじゃん」
確かに。
シンディーの言葉にもっともだと思いつつ、私は息を大きく吐き出してから、今までの事を全て語った。
魔法士と名乗った老人に召喚されてこの世界に来た事から、シンディーと出会い、『時』を止める能力が発現した経緯を一気に話すと、少しだけ心が軽くなった気がした。
だけど、シンディーの次の言葉にどん底まで落ちることになる。
「んっと……それじゃあ、その魔法士の老人が死んだから、ルイは元の世界に帰れなくなったって事だよね?」
「え?」
「え?」
お互い、暫く顔を見合わせて黙り込むが、シンディーが首を傾げた。
「だって、その魔法士の老人がルイを呼ぶ召喚陣を数十年掛けて作ったって事は、老人が“独自”の召喚陣を作り上げたっていう事でしょ? だから、その老人が死んだ今、全く同じような召喚陣なんて作れない……て事じゃないの? それこそ、作った召喚陣の構成とか書かれた本が残されているなら別だろうけど」
「……あ、そう言えば」
確かに、老人も言っていたような気がする。
色々と召喚陣に手を加え過ぎて、今後同じ召喚陣を作りたくても作れなかった……て。
と、いうことは、だ。
「私……元の世界に帰れないって事じゃん」
呆然としながら、自分で言った事実に打ちのめされる。
もう……お母さんにも、お父さんにも、お姉ちゃんにも会えないんだ。
お母さんのご飯を食べる事も、お父さんに強請(ねだ)って臨時のお小遣いをもらう事も、お姉ちゃんと買い物に行ったりお喋りしたり、喧嘩してお母さんに一緒に怒られるのも――。
もう、出来ないんだ。
「う……うぅぅっ」
「えっ? ルイ、泣いてるの!?」
ベッドの上で膝を抱え、俯きながら突然泣き出した私に、慌てたシンディーは色々な言葉を掛けて宥めてくれていたんだけど……。
「お゛があざぁあーぁぁん゛!」
私はそのままわんわんと泣き続け、知らない間に寝落ちしていたのだった。
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