第八章 和平のためなら拷問してもいいよね!
第一話 ギロチン100連発
魔族の総軍は、470000。
一方人類軍の総軍は、2500000である。
文字通り桁が違う、その絶望的な差を埋めるためには、戦術だけではなく戦略が必要となっていた──
「残念だったの、人類諸君。諸君らの英雄、寄る辺たる剣聖さんは、地獄へ出荷されてしまったのです」
照り付ける日差しと、生ぬるい風のなか。
姫様の精一杯の笑顔とともに──ぎこちなくひきつった笑みは、あるいは人類にとって、悪鬼のそれと映ったかもしれない──それはつるし上げられる。
最前線に掲げられるトロフィー。
毒死した、剣聖の裸の遺体。
そのすさまじい形相と、死にざまを見た人類の防衛軍は、狂乱を起こした。
なにせ、一騎当千どころか、一人で魔族を殲滅できたかもしれない最強の人類が、こうして返り討ちにあったのである。
「反骨心が芽生えられても困るので、さっさと心をへし折るの」
彼女が命じるまま、戦場に並べられる異形の器具。
地面から伸びる、長い二本の支柱。
そのあいだには、斜めに角度が付いた巨大な鉄塊を綱で吊されている。
そんな奇怪な器具が、こちらの陣地に真っすぐ、100台近く並べられていた。
「たったいま、この瞬間から、魔族は人間の捕虜をとることをやめるの。これからは、それ相応の対処をさせてもらうの。これは、この争いが続く限り永遠にそのままなの。ゆえに!」
「やめろ!? やめてくれ! 俺たちになにをするつもりだ……! うわあああ!!」
「いやだ!? やめろ、そんな、あああああああ」
「ふざけるな、我々は誇り高き人類の──」
「魔族のような下賤なものに──ひっ、やめて!」
わめきたてる捕虜たちが、ふたつの柱の間に寝かされ、身体を固定される。
地べたにそのまま、頭を押さえつけられて。
そして、
「では諸君──楽しい死刑執行の時間なの」
姫様が、軽く右手を振り上げ、振り下ろした。
ザン──ザザザザザ。
連続する、切断音。
刃が血肉を断ち切り、地面へとめり込む音。
そして、宙に舞う、無数の首。
ギロチン。
悪名高き処刑機具が、100人の人間を、あっという間に物言わぬ物体に変えた。
本来ならば、苦痛なく人命を奪うための救済処置。
だが、この世界の人類は、そんなことは知らない。知る由もない。ひたすらに残酷な死神が、そこに列をなしているようにしか見えなかった。
魔族の総軍が、鬨の声を上げる。
人類軍が絶句するのが、手に取るように分かった。
そして次に、恐慌をきたしたことも。
「では人類諸君。次は処刑台でお会いしましょう、なの」
姫様のその言葉は、人類にとって絶望以外の何物でもなかった。
瓦解を始める人類軍。
そこに、魔族の勇士たちが高揚した意気のままに突撃していく。
かくして、人類との決戦が始まったのだった。
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