終章 楽園は、ここに

最終話 いつか、どこかで

 車が次々に行きかい、高層ビルが立ち並ぶ都会の街並み。

 人々は忙しなく、今日も緩慢な人生を謳歌している。


 ひとりの女性が、ふと、街の本屋で足を止めた。

 店頭には、大見出しでベストセラーの文字が躍っている。

 どうやら新刊らしいが、とても売れ行きが好調らしい。

 女性は、その本を手に取った。


 タイトルは〝独裁平和〟。


 どうやら架空の世界の、架空の歴史を扱ったライトノベルらしい。

 パラパラと頁をめくるうちに、女性の表情が変わっていった。

 はじめは無表情だったそこに、いまは溢れんばかりの喜びが宿っている。

 彼女はその本をもって、レジへと走った。


 その髪の色は銀ではなく、目の色もまた、赤色ではない。尻尾もないし。

 なによりすでに、少女ではない。


 彼女は本を胸に抱いて歩きだす。

 まずは出版社にファンレターを出すところから始めよう。

 それから住所を聞いて、押しかけてやるのだと、彼女は邪悪に笑う。


「待っているの! 私は世界を平和にしたの! だからあなたにも、約束はきちんと果たしてもらうの!」


§§


 本に埋もれて死にかけた老作家が、そのファンの女性にすくわれるという美談が新聞に載るのは、もう少し先のことだ。


『そう、物語はいつだって、大団円ハッピーエンドじゃなきゃいけないからね!』


 運命の導き手、天使を名乗る存在は、彼と彼女の行く末を見つめながら、楽しげに笑う。

 人だとか、魔族だとか関係のない生命の物語は。

 今日もどこかで、誰かが紡いでいく。

 そう、エンドマークなんて、存在しないのだから──




 独裁平和 ~転生したら歴史に残る邪悪を育ててしまいました~ 了

 Das Paradies ist hier.

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独裁平和 ~転生したら歴史に残る邪悪を育ててしまいました~ 雪車町地蔵 @aoi-ringo

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