独裁平和 ~転生したら歴史に残る邪悪を育ててしまいました~

雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞

第一章 あばよ現世! よろしく異世界!

第一話 歴史作家は異世界へ逝った

 平蜘蛛ちゃがまを抱えて大爆死!

 タイの天麩羅てんぷらにあたって中毒死!

 歴史小説家として、どうせ死ぬならそんな死にざまがいいと思っていた僕だけれど、現実はどこまでも非情だった。

 僕はいま、崩れ落ちてきた資料の山に押しつぶされ、ついでに産まれついての心臓病が発作を起こし、惨めに死にかけていた。

 来月には新刊を発売予定だっただけに、未練が残って仕方がない。

 織田信長的には是非もなしだが、できれば印税で楽をしたかった。

 そんな思いを最後に、僕の意識はブラックアウトして──


§§


 ──パチリと、目をひらく。


 同時に世界が広がった。

 そうだ……わかる、わかるぞ……

 こんなにも簡単なことだったんだ……宇宙とは、生命とは、ゲッ〇ー線とは……!

 僕は目覚めたんだ、この世の答えに!

 オー、真理エメス


「オーでも、エメスでもないの。黄昏たそがれてないで、さっさと私の質問に答えるの」

「おおおおおおお!?」


 目の前に巨大な眼球が現れ、僕は素っ頓狂な悲鳴を上げた。

 思わず、その場から飛びのく。

 しかし、背中はすぐに壁へとぶつかってしまった。

 え? なんだ、この透明な壁?

 それに、僕を見つめるこの巨大な眼球、なんだか奇妙に歪んでいて──


「……ぐっ」


 ──と。

 そこで、僕の肉体に、鈍い電流のような痛みがはしった。

 同時に、今度こそ僕は真理じじつに直面する。

 現状を理解する。

 眼球が巨大なのではない。

 

 そうだ。

 なにせ、僕は──


「いいから答えるです。この──びんづめホムンクルスが、なの」


 そう、僕はホムンクルスだった。

 しかもなんか、イチゴのジャム瓶に詰められているホムンクルスだったのだ!


 ……なにを言っているのかわからないと思うが、僕にもわからない。

 わりと本気で理解したくない。

 しかし、ホムンクルスとしての僕の知識が、勝手に補足してしまう。

 前世の僕は死んだ。

 そして、なんやかんやあって、流行りの異世界転生をした結果、ホムンクルスへと生まれ変わってしまったのである。


「私はあなたの生みの親なの、ホムンクルス。文献によれば、ホムンクルスは万物全知。なので、私の問いに答えるのです。これは命令なの、ホムンクルス」


 目の前の巨人──にみえる普通サイズの幼女は、ソフィア第三王女。

 フィロ・ソフィア・フォン・ナイド=ネイドという長ったらしい名前の王族で。

 

 雪のような銀髪の髪に華奢な身体。

 その赤いおめめと、スカートの裾から延びる鱗に覆われた、ぶっとい尻尾が示す通り、彼女は魔族だ。

 魔族、いわゆるモンスター。

 僕は人類と対立している魔族の国、ナイド王国に転生したのである。

 そう、このソフィア王女の魔術によって、産み落とされたのだ。

 だけど、それはいったい、なんのために?


「さあ、答えるの、ホムンクルス。私の──」


 魔族の王女様は、ひどく真剣なご様子で。

 どうやら全知であるらしい 僕 ホムンクルスへ、こうお命じになられたのだった。


「私の──おねしょを治す方法を、教えるのです!」

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