六話 ハマるのだって大変ですか?

 日が暮れて、家路に向かう一行。

 三船先生は、もう少し学校に残るらしい。


 「第二理科室の貼り紙は、私が作って来るよ。騎士だから」

 「騎士関係ないですよね」


 琴葉のボケ。

 ツッコむ、かすみ。

うなずく望空。


 「そうよ。あーさま。ここは、あなたを一番思ってる私に任せて」

 「えっ……それなら、先輩を一番に見ている私が適任ですよ」

 「何言ってるの。私が一番あーくんの役に立っているのに――」


 望空、かすみ、琴葉を僕は制止する。


 「いや、上級生たる僕らが汗水たらす必要は無い。ここは下級生、もとい中等部の日葵を使おう」


 同意する三人。

 紛争の解決には生贄が必要なのだ。

我が妹よ、いさぎよく散ってくれ。


 「そう言えば、日葵さんはいいのですか? 帰るなら声掛けないと」

 「そう言えば、理科室の時も声を掛けていないわね」

 「あー……そう言えば」


 学校玄関に入り、それぞれの靴を取りながら、我が妹を思い出す三人。

 今更か。

酷い。僕もだが。


 「いいんだよ。あいつは」


 あの妹は勘が鋭い。

 どうせ、どこかで待っているに違いない。


 「ん?」


 僕が下駄箱を覗くと、中に妙な封筒が入っていた。

 ラブレターか?

今時古風な子がいるもんだ。


 「んん……」


 いや、ラブレターでは無い。

 僕の下駄箱内、箱の底と靴の間に挟まれたブツ。

それはラブレターと呼ぶには、いささか物々しすぎた。


 「いつの時代の、だ」


 どれくらいの年月を過ぎてか、黄ばんだ封筒。

 赤い蝋で紋様を刻み、閉じられた封。


 「三角形に目」


 封蝋の模様は、うさんくさい感じ。

 イルミナティとか、そう言う奴を参考にでもしたのだろうか。

しかし、瞳孔の形が人間のそれでは無い。


 「瞳孔がひし形って……チープなイタズラだな」


 肝心なところの複製を失敗している。

 秘密結社をモチーフにするなら、余計なアレンジは加えないことだ。


 「どうしたの、あーさま」

 「なんでもない」

 「そう……」


 僕は呟きを止め、封筒をポケットにしまう。

 家に帰ったら読んでやろう。

殺され、生き返り、このタイミングのイタズラだ。

ここで無視するのも気が引ける。


 「それじゃ、先輩。私はこっちなので」

 「ああ、後輩。じゃあね」

 「もう……普通に名前で呼んで下さい。また明日」


 校門前。

 そう言い残し、かすみは去っていく。

僕の家とかすみの家は、方角がまるで逆なのだ。


 「あっくん。それじゃ、また後で」

 「あーさま。それでは、少し後に」


 少し歩いたT字路。分かれ道。

 望空と琴葉と別れる。


 「少し後に――なんて。いつ会うつもりなんだろ?」


 三人が離れて、ようやく日葵は現れる。

 電柱の陰から、そろりと。

点き始めた電灯に照らされて、暗闇に浮かび上がった。


 「知るか。帰るぞ、テンプレ妹よ」

 「待ってよ。お兄ちゃん」


 小さな妹は兄の手へとすがりつく。

 それが、どこへも逃げないように。

それが、どこへも消えないように。


 「……私が一番好きだから、ね」

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