五十七話

 ヒントは日常の中にあった。


 生き返ってから直後の日。

 かすみ――いや、彼女に扮した少女Aが第二理科室前に呼ばれた時。

 

 彼女は廊下へ、窓から侵入してきていた。丈夫な紐を使って。


 「……驚いたよ。あの紐でバンジーを図るなんてな」


 スゥーッと息を吐き、険しい顔になる少女A。


 「お前が自殺を演じた時も、僕の見る位置は、やはり決められていた」


 スマートフォン。僕が持って移動した、あの血まみれのスマフォ。

 少女Aが有利になるため、利用したのはそれ。


 「僕が持った、スマフォのGPS機能で、お前は僕が今、どの位置へと移動しているか、把握していた」

 「そう。それで、ベストポジションで、最高の瞬間を見せられたわけ」


 紅葉になり掛けた街路樹の、並木道。

 僕が走って転び、少女Aを見上げた、あの位置。


 あの位置から、高等部校舎を見ると、

 赤く染まる街路樹が、ちょうど校舎下半分に重なって見えた。


 そのお陰で、少女Aは落下地点近くを見られない。

 本当は、落下地点など無いと見破られない。いわゆるベストポジション。


 「大変だったんだよ~? 校舎の上から、バンジーするのはさ。しかも、ちみの位置からは丁度見えない……くらいの紐を使わなきゃいけなかったし」


 大仕事を終えた後――と言った感じで、少女Aは拳で汗を拭う仕草をする。


 「気が気じゃなかったわけ」


 僕は一つ、咳をする。

 このペースに引っ張られてはダメだ。


 「……その後、現場に駆け付けた僕は、死体を発見する。これはかすみ本人の死体だ」


 偽装された落下地点。そこで僕が発見した死体。

 あれは、第一の事件で琴葉により殺された、阿佐ヶ谷かすみ本人の死体だった。


 「お前は第一の殺人で、自分の死体と誤解させるために、かすみの死体を回収していたんだ」


 琴葉の首と胴体を切り、かすみの胴体と琴葉の胴体をすり替えた。

 僕が体調を崩し、望空と三船先生が付き添って――

僕らがいなくなった間に、琴葉を気絶させ、運んで、殺し、すり替えまで行った。


 「まさに神業だ。学園の間取りを把握し、練習に練習を重ねないと、こんな芸当は出来ない」

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