八話 君は何を望むのですか?

 僕は妹特製ボロネーゼを胃袋に詰め、心の底から満ちた。

 今なら、どんなイタズラも笑って済ませられる。

僕は再び部屋に戻り、下駄箱に入っていた、あの封筒を開けてみた。



【  鍵守かぎもりの会より、囚われの獣


 これが届いて、一度日が落ち、昇る頃、君はムクロを見つけるだろう。

 これが届いて、二度日が落ち、昇る頃、君は信者を殺すだろう。

 これが届いて、三度日が落ち、昇る頃、君は太陽に祈るだろう。


 聖なる神に気付いたならば、喜び勇み、

 悪魔と天使をニエとしよう。

 さすれば、君は完成されて、初めて愛を叫ぶのだ。


  終末を吹く者の幸福を祈って 11.12】



 何だこれ。

 僕は、封筒の中に便せんを戻す。

まさか、ここまでの怪文が入っているとは。

昨日の夕方、これを下駄箱に入れたヤツは気が触れている。

断言してもいい。


 「ミステリー小説の読みすぎだ」


 今回ばかりは、メディアで大ぼら吹いている評論家サマの意見に賛同したい。

 変な本ばかり読んでいるから、こうなるのだ。


 「君も人の事は言えないだろう?」


 天使がさっき拾った推理小説を、僕の前にちらつかせる。


 「そう言うのは、気が向いた時しか読まないんだ。僕は一般的な俺最強ハーレムラノベの方が好みだから」

 「なるほど。十代男子として健全だな」

 「それは、とんだ偏見だ」


 僕は会話を続けながら、自分殺人について推理する。


 まず死因。

 それは毒殺か。

 それは刺殺か。

 それは撲殺か。

 それは絞殺か。

 あるいは、爆殺か……。


 瞬間的な痛みの記憶から、痛みの無い殺害方法は除外できる。

 手間がかかる方法も、まあまず無いと思っていい。

となると可能性が高いのは、刺殺、撲殺、絞殺、毒殺、爆殺の順。

一番は刺殺か。


 刺殺と言う死因ならば、その犯人は犯行時、何かしら刃物を持っていた事になる。

 となると、常備している望空が真っ先に浮かぶが。

けども、彼女以外にだって刃物は調達できるのだ。


 「家庭科室にだって、刃物はあるし。カッターだって凶器だものな」

 「お前はまたそうやって、思考を覗いて……」


 思考を先読みする天使。

 こんな人外を僕は疑った。

あれは間違いだったのか。

いや、思考の先読みも、何も不可能と言う訳ではないだろう。

……ないのか?


 「お休み、天使」

 「おや。もう寝ちゃうのか?」


 僕はベッドに倒れ込む。

 返事は保留。

色々考えないといけない事はある。

けど、それも保留。

疲れたのだ。しょうがない。


 「ふふ、バカめ……」


 優しく罵る声がして、僕は世界から落ちる。

 暖かく。


 誰かが頭を撫でていた。

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