三話 このミステリーはフェアですか?

 僕は生徒会室から出て、離れ、二階下の教室、1-Bに入った。

 ここなら“聞かれる”恐れも無い。

そう懸念している事も分かるはず。

それに――


 「……僕はいつ、ゲームを受けると言った」


 入って早々の僕は、B級映画の悪霊さながらに、天井から頭をたらした天使を睨む。


 「拒むのかい? ならば、今すぐ君は死ぬ」

 「うっ……」


 天使は頭を石膏ボードから引っこ抜き、ちょこっと落ちて、空中に浮かんだ。

 どういう原理だ。


 「私はそれでも構わないけど、それだと私の上がね」

 「別に受けないとも言ってないだろ……ん」


 違和感。


 「なんで僕がゲームを拒むと、お前の上が絡んでくるんだよ?」

 「おっと……失言」


 けらけらと笑って、天使は両手をゆらゆら揺らし、両足を上へ。

 その後、空中で一回転。ふざけた仕草。

この分では失言を追ったところでムダだろう。

適当に、はぐらかされるのがオチだ。


 「まあ、いいさ。僕も命が掛かってる。ゲームには乗ってやる」

 「だろうとも。分かっていたさ」


 いちいちシャクに障る天使だこと。


 「でも、条件がある」

 「条件?」


 回転を止め、空中に止まる天使。

 背後から夕陽を浴びるその姿には、若干の神々しさが感じられた。

彼女の輪郭は眩い逆光に溶け、彼女の下には闇の境界がある。


 「……いいだろう。聞こうか」

 「僕に質問させろ」


 僕は事件の概要すら知らない。分からない。

 あるのは痛覚と、確かに誰かの手で殺されたのだ――という記憶のみ。


 「だから、質問で少しは情報を得よう、と。つまりは、そう言う訳か」

 「いくつかでいい。お前の優位性を揺らがすつもりは無いから」

 「ならば、三つだ。そして、答えるかは私の気分次第だ」


 そう来るか。


 「なら、まず第一に、この事件に明確な殺人者はいるか」

 「“犯人と殺し方を明かせ”と言っただろう? 殺人者は確かにいる」


 これで人の絡まない事故の可能性は消えた。

 あとは、殺人者が人間であるかも確認しなければ。


 「犯行時、殺人者は女性用下着を付けていたか?」

 「そうだ。君の下着に掛ける情熱は並ではないな……」


 よし。

 下着を着ている=常識的な人間である何よりの証拠。

これで妙ちきりんな言葉遊びも出来まい。

後になって――実は、罪を犯したのは床に置かれたバナナでしたぁ――では困るのだ。

見たか。僕の頭脳プレイ!


 「あと一つだぞ、質問」


 今分かった。僕はバカだな。

 大事な質問をこんなので消費してしまった。

と言うか、犯って言っているんだから、人間に決まっているだろ。

いい加減にしろ!


 「君がバカだと知ったのは、出会ってすぐの事だ」

 「……十代男子の頭は、ピンク色の思考しか生産できないんだよ」

 「それは、とんだ偏見だ」


 揺れる影。

 質問はあと一つ。


 「あのさ、いきなり核心を突くのはアリ?」

 「アリナシは私が決める」

 「だろうね……じゃあ聞いてみるよ」


 僕は気付いていた。

 僕を囲む四人。それぞれがそれぞれの異常を秘めている。

その中、ひときわ化け物めいた女の子。


 「犯人は――あそこに立っている少女なのか」


 彼女が今、そこにいる事。

 夕闇の中、呼ばれるか否かと待っていた事。


 「おはよう、あーさま」


 それは神立学園生徒会長、七瀬ななせ望空ゆあ


 「今日も死ぬほど愛してる」



 ――少女はナイフをくるりと回した。

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