二十六話 密室はどう作りますか?

 「トッキーある?」

 「そこの棚にお菓子が詰めてありますよ。ついでにポテチ取って下さい」


 かすみの自室に入ってすぐ、女子たちは独特の空気を作り出す。

 男子を居づらくする、絶妙な空気だ。


 「てか、お前ら、呑気のんきだよな。これから殺人の考察をするのに」


 それも、自分が関わるかもしれない殺人なのに。


 「はい。分かってますよ。琴葉先輩が死んだ事も、自分たちが狙われてる事も」

 「でも、慌ててたってしょうがないよ」


 大した女子たちだ。

 図太い神経をしている。


 「そっか……お前らのそういうとこ、割と好きだよ」

 「私も好きですよ、先輩。結婚しましょう」

 「日葵も好き……その、人並みに」

 「はいはい」


 感情を隠しもしない後輩、隠し切れてない妹。

 もし、それが本当に“ただの好き”なら、どんなに良かったか。

ともあれ――


 「……話を戻すか」


 僕は咳を一つし、我に返る。


 今は殺人の話をする時だ。

 慌てず、冷静に。なるべく脱線を避けて。


 「琴葉の事件の検証が必要だ。だから、この事件を構成する要素を確認する」


 一つ一つ。

 頭の中、天使の話をまとめた時と同じように。


 「要素1、現場は密室だった」

 「それは、お兄ちゃんが自分で確認したんだよね」

 「ああ。廊下側、全ての戸と窓を確認したよ」

 「だったら、確実だね」


 かすみが首を捻る。


 「でも、それって廊下側のみですよね?」

 「ああ。かすみは、犯人が窓を使って、外に逃げたと思うのか?」

 「ええ。二階ですし、跳び下りれない高さじゃないですよ」


 確かに、跳び下りることは可能だ。


 「けど、向かいには中等部の使う旧校舎がある。そんな事をしていたら、中学生に見つかるかもしれないだろ」

 「なるほど。犯人がそんな危険性を見逃すとは、考えにくいですね……」

 「中庭に落ちて、その音で、誰かが気づかないとも限らないしな」


 選手交代!――とばかりに、日葵が立ち上がる。


 「分かったよ! つまり、犯人はその中等部の校舎を使ったんだよ!」


 ぴょんぴょん跳ねる日葵。

 落ち着け。何を言うかは大体わかる。


 「まず、犯人は大きなハシゴを用意したんだよ! それで――」

 「それで、ハシゴを橋代わりに掛け、隣の校舎へ移った――とか言わないよな?」

 「うぐっ……」

 「それも目立ちそうですねえ……」


 そう。窓からの脱出は考えにくいのだ。

 警察だって、それを見逃すとは思えないし。


 ――なるほど。密室ですか。


 あの発言の時点で、花屋は密室と断定していた。

 抜け穴は潰しているはず。


 「ともすれば、密室は抜け穴一つない、完璧な物だったのですか」

 「そうなる。少なくとも、僕が見つけた時点ではな」


 そして、密室が完成した、犯人の脱出は不可能だ。

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