十五話 あなたは一体、何様ですか?

 僕は話を続け、刑事二人に説明した。

 発見の経緯、教室の施錠、死体の状態。

出来る限り、正確に。


 「……なるほど。やはり密室ですね」 


 一通りの話が終わると、花屋は手帳に何か書きながら、ふんふんとうなずく。


 「密室……」

 「ええ。既に先生方からも聴取したのですが、あの教室の鍵は一本。スペアも無し。普段は、職員室で厳重に管理されているそうなので」


 鍵は厳重に管理されている。

 という事は、人知れず、スペアキーの型を取る事も出来ない。


 「でも……待って下さいよ。あれは確実に殺人ですよね?」


 かすみが声を上げた。


 「ええ。あんな風に人が死ぬ事故は、オレも見た事ありませんよ」


 そして、自殺と言うのも考えにくい。

 頭と胴体が、かなり離されていたからだ。


 自分の頭を切り離してから、所定の場所に移動する。

 そんな芸当は、人間には無理だ。


 「じゃあ、そんな手口で、何で犯人は密室を?」


 そう質問する、かすみ。


 「ああ……そう言えば、そうかも」


 うなずく日葵。

 その後、良い質問とばかりの目線をかすみに送る。


 確かに。

 普通――というか、ミステリーでの普通だが、密室が作られる場合、犯人はそれを何らか偽装ぎそうの目的で使う。

殺人を事故に見せかけたり、自殺に見せかけたり。


 だがそれなら、この事件の犯人は何を偽装するつもりだったのか。


 ナイフによる明らかな惨殺。

 事故や自殺の偽装なら、もっとふさわしい手口があったはず。


 「……さあねえ。オレらは通報30分後に来て、まだ3時間くらいです。事件の全容もつかめきってません。全ては、今後の捜査次第ですよ」


 答えは、今後の捜査次第。

 でも僕は、そんなものを待っていられない。


 僕以外の殺人事件が起こった。

 それでも、このゲームは続いているから。


 「それで、聞きたい事は終わりましたか?」


 と、僕の言葉の後に香る、スズランの匂い。

 分かっている。気付いている。

僕の殺人もまだ終わっていないのだ。


 「ええ。オレとしては、これくらいかなーって感じですね。お邪魔でしょうし、我々は一回帰りましょう」


 花屋は斎藤に目配せし、席を立ち、戸口へと向かう。


 「……おっと」


 そして、戸口前まで来ると足を止めた。


 「……これは……本当にお邪魔のようだ」


 セリフの後、目の前、今まさに入ろうとしていた少女と目を合わせる花屋。


 「七瀬望空さん……でしたよね?」


 目を見開く望空。


 「……あら、刑事さん。どこかでお会いしたかしら」

 「あはは。いいえ。初めまして、ですよ。お会いするのは」


 会釈をし、望空の横を通り過ぎる花屋。

 望空は尋常じゃない目付きで、その通過を見届ける。


 トケトゲしいやり取り、敵対的会話。


 鬼と、その狩人。

 やはり相性は良好じゃなさそうだ。


 「犬め……」


 あの争いには、巻き込まれたくない――と僕は強く思う。

 絶対、面倒なことになる。

この状況で、面倒は極力避けたい。


 僕には急ぎ、色々と聞かなきゃいけない相手がいる。

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