エピローグ

六十話 エピローグ~探偵役という幻想

 最上から白い結晶が落ちて来る。


 ミステリーにおいて、明かされない謎は一つ。

 そう公言していたのは誰だったか。


 「あなたも相当悪運が強いですねえ」


 病室に似合わない、悪そうな笑みを浮かべ、女刑事がそう言った。

 全くもって、気に食わない。

素直に言って、腹が立つ。


 「……こうして、あんたと再会したのは、確かに良運じゃないだろうな」

 「酷い言い草だ。オレらが学園の近くを巡回していなければ、今頃あなた、死んでいたんですよ」


 女刑事はそう言い、花瓶の花、その花びらを指でなぞる。


 再会。この言葉へのツッコミは、やはり無い。


 「……あんた方が、あそこにいたのは自然な事だった」

 

 何故なら、そこにいなければならなかったから。

 学園の近く、学園附属高校の近くで待っていなければならなかったから。


 誰かの指示。一回目の殺人の合図。


 「ありゃ。バレてました?」


 小さな刑事――モドキは、頭を掻く。


 「渋谷警察署にも確認を取りましたよ。あなた方は刑事じゃない」

 「ご明察です。オレらは、そうですね……」


 戸を開き、入って来た斎藤が声を発する。


 「鍵守の会」

 「そう。鍵守の会なのです」


 あの手紙の送り主がほのめかしていた、組織の人間。

 というか、斎藤は喋れたのか。


 「良ければ、詳しくお聞かせしましょうか。オレらの正体について」


 彼女らは刑事では無い。警察では無い。

 警察が捜査しているタイミングに便乗して、聞きまわっていた、ただの


 元々は警察を名乗るつもりなど無かったのだ。

 だから、警察手帳も用意してはいなかった。


 最初に会った時、何も提示しなかったのは、何も提示できなかったからだったのだ。


 「良くないし、聞きたくないですよ」


 悪だくみの詳細など。


 「あんた方は、琴葉の側の人間だ。違います?」

 「違わないですよ。琴葉さんに手を貸し、殺人計画を手伝うつもりでした。元々は、ね」


 僕の聞きたくない事を、花屋は暴露する。

 計画を邪魔した、僕への当てつけだろう。


 「七瀬琴葉。彼女には少々、我々の組織との関りがありましてね。それで手伝えと言われたら、手伝うしかないのですよ」


 かすみ――少女Aが言っていた妙なことの正体。

 ありていに言って、組織の仕事。


 探偵稼業とはよく言ったもの。

 上手い言い訳だ。


 「あんた方は……」

 「ああ。これ以上、推理は結構」


 うんざりという顔で、花屋は両手を上げる。

 自分だけ気持ちよく語っておいて、僕の推理は聞きたくないのか。

僕だって、聞かされたくない事実を知ったのに。


 「あなたが捕まえて頂いたお方の件で、我々も忙しく動かないといけない」


 ――正直、驚いてます


 あの言葉から、花屋が渦中、一番振り回されていたのは火を見るより明らか。

 そして――


 「……自業自得ですよ」

 「ですかね」

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