四十六話 かくも語ってしまうのですか?

 探偵役は一つ、息を吐く。

 始める前に一息。


 「……犯人はガスガンを使った。生徒会室の中、堂々と」


 衆人環視の中、堂々と。


 「だけど、自分の手で引き金を引いた訳じゃない」


 誰かの手を使った訳でもない。


 「準備を終えたら、引き金に触れる必要すら無かったからだ」


 必要な物を揃える準備。

 それを間違えず、配置する準備。

それを終えたら――


 「犯人は装置を作った。事前に、生徒会室に侵入して」


 一回目の準備。

 侵入は多分、昨日の朝のこと。

三船先生が掃除を始める前のこと。


 「装置に必要なのは、ガスガン。それにピンとタコ糸、ダイヤルタイマー。大きなノブの付いたタイマー」


 目を細める望空。

 ようやく分かったか。


 「……それで自動装置を作ったのね。自動で引き金を引く装置」


 僕はうなずく。


 「タイマーは時間を設定すれば、その時間に向かってノブを回す」


 時計の針のように、回転する。


 「あとは、そのノブにタコ糸を引っ掛け、ガスガンの引き金まで繋げればいい」


 タイマーが回転すれば、それだけ糸は引っ張られる。

 糸を引き金に繋いでおけば、タイマーの回転するだけ、引き金に力が掛かる。

そういう構造が出来上がる。

 

 「そうして、犯人は、決まった時間に引き金が引ける装置を作った」


――中等部へ行かなきゃならん


 これで自身が触れず、誰にも気づかれる事無く、引ける。

 引き金が引けてしまえば、銃口から毒針が発射されるのはすぐ。


 昨日の朝、三船先生が鍵を開け、一度目、中等部へ行っている隙を狙い、犯人はこの装置を作った。

 鍵の障害をクリアして。


 「問題は、その置き場所であり、隠し場所だ」


 意識的にせよ、無意識的にせよ――

 望空は日葵を誘導した。


 「僕の隣は、死の指定席だった」

 「……そして、私が、日葵さんをそこに誘導した」


 虚ろな目で、僕の推理を補う望空。


 望空の誘導は意識的か、無意識的か。

 多分、純粋に日葵を守ろうとしたのだろう。


 「それは、犯人の狙い通りの行動だった」


 だが犯人は、望空が日葵をそこに誘導する事を知っていた。予測していた。


 「……そうだ、望空。犯人はこの状況になれば、望空が日葵を、僕の隣に座らせると知っていた」


 僕なら守ってくれる。

 わざと日葵を心配させたのは、僕を信頼しての行動。


 「だから、装置を日葵の背後、本棚と壁の間に置けたんだ」


 あの時の日葵の背後。

 そこにあったのは本棚。

小さな穴が開けられた、本棚。


 「本棚の裏が隠し場所……?」

 「ああ。そこにガスガンを挟んで固定し、タイマーを貼り付けて固定した」


 糸はピンで流動的に固定した。

 引き金に、ちょうど良い方向の力が掛かるように。


 「あとは本棚に小さな穴を開け、ガスガンをその穴にあてがう」


 そして、いくつか本を本棚、穴の周りへ無造作に置き、隠した。

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